自分はまだまだ子供だ。そう思い知らされるのは、いつも同じ瞬間。一番大好きな声が右耳の鼓膜を震わせる時。遠いんだ、凄く。

『よ、円堂』
「綱海、一週間ぶり」

携帯電話から聞こえる声はなんだか機械っぽくて、彼が本当はどんな声だったのか解らなくさせる。最後に直接声を聞いたのはいつだっけ。綱海は沖縄。俺は東京。当然、直ぐに会える様な距離じゃない。でも、どうすることもできない。自分の力じゃどうにもならない、そのことがただ恐ろしかった。今に声も顔も思い出せなくなって、綱海にも忘れられてしまうんじゃないかって。

「つなみ、」
『ん?』
「……なんでもない」

言っても困らせるだけ。なら、言わない方がきっと良い。喧嘩なんて間違ってもしたくない。俺たちの間の糸は何時でも簡単に絶ち切ってしまえる。今は、繋ぎ止めたくて繋ぎ止めているだけだから。電話の向こうの綱海は少し黙って、やがて話し出した。

『今日さ、後輩のスッゲー可愛い女子に告白されたんだ』
「…ぁ」
『で、俺は思った』
「つな」
『円堂に会いたいって』
「…み……え?」

言葉を咀嚼する。よく、意味が解らないのだけれど。

『どんな可愛い女の子に告白されたって、俺はお前が一番好きだ!』
「はっ、あ!?」
『今の距離なんか遠すぎて、毎日つまんねーし苦しいし、もう嫌だとか思っちまうけどさ、』
「…けど…?」
『──そう思うのは、やっぱ円堂のことが好きだからなんだよ』

ああ、ああ、そうだった。彼はこういう人だった。俺が何に悩んでるのかなんて全然知らない癖に、俺が一番ほしい言葉を言ってくれる。そんな所を、俺は好きになったんだ。俺がこんなにも苦しいのは、負けそうになっているのは、この距離のせいだけど。俺がこんなに綱海を好きなのも、この距離のお陰なんだ。

「綱海、ジャンケンしよ」
『ジャンケン?』
「そう。勝った方がさ、今度の夏休みに会いに行くんだ」


離ればなれの幸福論
(遠い距離が二人を近付けてく)
(今、やっとそう思えたよ)






イメージソングバレバレですね!でも遠距離恋愛といえばどうしても出てきちゃう曲なのです。
2011/02/10 23:36




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