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[2]ぼたん/ぬるくR18
by あさの
2011/08/17 00:20
・現パロ
・大学生
・若干の性描写がありますがエロくはないです




急に「これ、何だ」と言われて床から仙蔵を見上げると、細い指がベッドの上から何かつまみ上げていた。

「ボタンだね」
「お前のか?」
「さあ」

会話はそれだけで終わった。床に寝っ転がったままリモコンを操作するけど大したものはやってない。
「僕千原ジュニアって好みじゃない」
「顔はくだらんな。関西弁が上手い」
「そうでもないよ」
「伊作関西弁わかるのか」
わかる。僕は昔神戸に住んでいたから、でも何となく答えるのが面倒臭い。

「何か喋ってみろ」
「めんどくさい」
「おお」

めんど、に少し高めにアクセントをつけて返すと仙蔵は嬉しそうな声を出した。実にめんどくさい。

「そろそろベッド返してよ」
「それ関西弁で言ってみろ」
「ベッド返して」
「あまり変わらんな、つまらん」

そう言いながら仙蔵は立ち上がって姿見の前で髪を結い始めた。男のおだんごなんてげえっとくるけど仙蔵はギリギリ似合っている。
僕は床からスライムみたいにベッドに移行した。すぐ目の前に仙蔵のお尻がある。尻ポケットから何かカードらしきものがのぞいている。

「これ行ったんだ」
「こら返せ」
「出会えた?」
「まあな」
「うわ、あとでベッド消毒しよ」
「飲んでしゃべっただけさ」

ゲイナイトの案内カードをもぎ取られた。お前は行ったのかと聞かれる。行くわけ無い。飢えてないから。生憎おなかいっぱいなんです、と答えるとまあお前はなと蔑むような目で見られた。お前はなったって告白してこない自称ノンケと不倫と地獄まで道行きしてきそうな後輩が一人だ。ガンガンくわえこんでるわけじゃない。そこら辺は仙蔵はよくわからないらしい。

「じゃあまた」
「今度牡丹と薔薇ごっこしよ」
「ああいいぞ」

それでも仙蔵のこの軽やかなノリが好きだ。ドアが閉まる音とオートロックの音がする。テレビももう消した。
ふと肘に冷たい感触がして拾い上げてみるとさっきのボタンだった。少し大振りだけど平凡で黒い。どの服のだったか忘れた。すぐ興味を失って布団の上に戻した。


ボタンはすぐどこかに行くだろうと思っていたが意外と長らくそこにいた。布団の波に溺れも落ちもせず胃袋の石みたいにカラコロと転がっていた。七日、八日、九日とボタンと同衾した。どの服のだったかな、と時々つまみ上げて眺めたが結局すぐまた布団の海に放った。


学食に行くと鉢屋がいてぱらぱらと手をふってきた。ふりかえす。後輩の癖に笑って挨拶してこないので僕も愛想しない。
鉢屋が不破や竹谷と一緒にテーブルを立ったとき、ふとそのシャツに違和感を感じた。一つだけボタンが欠落している。ははあそうかいと思った。呼びつけるのが苦労が無くていいかなと考えた。

ベッドに倒れ込むと頬にボタンが当たった。依然としてここにある。しぶといところが持ち主に似ている。鉢屋に「今からうちに来て」とメールし、ボタンをしばらく眺めていたがつまみ上げてサイドテーブルに置いた、ついに。所詮ボタンなので人間の力には敵わないわけだが、こうするのに何故か随分時間を要した。あるいはそれほど毎回いちいち忘れてたわけだ。今回も忘れるかな、と思ったけどどうせこのベッドに横になるだろうしなるようになるだろう。

メールの文面がちょっと有無を言わさない感じだったかなと後から思ったけどあの子は素直にやってきた。
ドアの前に立ってこんちわ、と言いながら行き掛けに買ってきたらしいチューハイの袋を突き出してくる。こういう時のこの子は決まってぶすっと左下を見ているのが面白い。少々笑い混じりにありがと、と受けとると恥ずかしそうにちょっと口元を緩める。そういうところは小さい子供から進化してないように見える。本人は無意識みたいだけど。

キッチンの床に袋を置くと鉢屋は拾い上げて自分で冷蔵庫に入れ始めた。しゃがんだ後ろ姿がどことなく健気だ。一本もらってテレビをつけた。しばらくそれを眺めていたけど当初の目的を思い出して、あのねこれね、とベッドに膝をつく。すると後ろから肘をすくわれ抱きすくめられた。上手いよな、なんというか、導入が。ボタンのことまた忘れるかな、と思ったけどさっき思い出したし、また思い出すことを期待して意識のおそとに出てもらった。


風呂の中でフェラチオしてキスしてセックスした。フェラチオのあとのキスを拒まないこの子はえらいと思う。そう教育したのは僕だ。文次郎としたときは嫌がったから。
向かい合って密着したままユニットの便器に座らせ、足の間へ放尿してやると玉をくすぐるのかのけぞって悦んだ。挿入させて狭い湯船で動いた。悲鳴めいた声を出すと鉢屋はつながったまま泣きそうな顔をしてのぞきこんでくる。まるで小さい子が母親を心配するように。この子は近親相姦の素質があるかもしれない。抱き寄せてやると首に額を擦り付けてくるのでいよいよそんな気分になった。


バスルームから出てくると夜の1時を過ぎていた。テレビがかなり大きい音でついていたのであわてて消した。鉢屋はさっさとベッドに入ってちゃっかり半分あけて収まっている。無表情の上目遣いが一緒に寝て欲しいと言っている。この子はこういうことを伝えるのに基本的に言葉を使わない。隣に入ると反対側を向きやがった。むかついたので電気を消して僕も反対側を向いて寝た。しばらくするとうなじに頬を押し当てられるのを感じた。

「ね、お母さん元気?」
「元気ですよ」
「どんな人?」
「フツーのオカンです」
「好き?」
「ええ? まあ、フツーに」
「抱ける?」
「は?」

は? と聞かれたまま僕が答えなかったので会話は終了した。そのうち眠った。



目が覚めると1限がある鉢屋はそそくさと支度しはじめた。僕はとりあえずシャツにパンツだけはいてそれを見ていた。
鉢屋が鞄を持って立ち上がったので「オートロックやから普通に出てってええよ」と声をかけた。突然の関西弁に鉢屋はきょとんとした顔で数秒固まっていた。ええ、はあ、と狼狽した声でこっちを直視できない感じが可愛い。久しぶりにこいつを可愛いと感じた。

鉢屋が帰って寝直すことにした。アラームをかけとこうとサイドテーブルに手を伸ばすと、黒いボタンがゴキブリみたいに光っていた。しばらく眺めたあと、ゴミ箱に捨てた。









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