成り代わり | ナノ

白龍成り代わりヤンデレジュダル


なあ、おい、こっち向けよ
後ろで優しく微笑みながら此方に手を差し伸べる男に、名前は恐怖しか感じない。どうしよう、どうしよう、姉上、助けてください姉上。きゅ、と固く目を瞑っていまや遠き地に移っていった姉、白瑛に助けを求めても意味が無い事は分かっている。だが、そうしなければ恐怖に押しつぶされてしまいそうになるのだ。
すう、と息を大きく吸いこんで、キッ、と後ろの男―ジュダル―を睨む。男は楽しそうに笑った。
怒った顔も可愛いな、でも俺はお前の笑った顔が一番好きだぜ?
そう言って頬を撫でるジュダルの手を払い落とし、貴方がいなくなれば私は笑顔になりますよ。と吐き捨てるように言った。

「…へえ?」

笑顔が消えた。まずい。選択肢を誤ったかもしれない!冷や汗が頬を伝う。ジュダルが一歩近づくたびに、名前も一歩下がっていく。
こないで
小さく呟いた言葉は、ジュダルには届かなかったようだ。ジュダルの手が名前の首に掛けられ、ゆっくりと絞められる。

「かは…っ」

空気が、酸素が肺に入らない、二酸化炭素も出ていけない。ゆっくり、じわじわと手に力が込められていく。視界が、霞んできた。抵抗したところで何の意味もない。ジュダルはマギだ。マギには、名前の攻撃など効かないのだから。

「その顔、すっげー好き!いいな、ぞくぞくすんぜ?」

狂ってる
朦朧とする意識の中で、それだけはしっかりわかった。ここで死んでしまうのか。まだ、彼女への復讐も果たせていないと言うのに…!もう駄目かもしれない。涙で滲む視界の中、見えたのは鮮やかな赤だった。

「ジュダルちゃん!」
「あ?ンだよババアか、なんだ?」
「名前ちゃんに何してるのよぉ、離しなさい!」
「何してる?分かんだろ、アイジョーヒョーゲンだよ」
「愛情表現…?それが…!?」
「ったりめーだろ」

あ、空気が
紅玉に気を取られたことで、名前の方が疎かになったらしい。首を絞める手が緩くなったきた。赤と、黒と、黄色…夏黄文だ。夏黄文が紅玉の前に出る。何か言っているようだ。それを聞いたジュダルは、小さく舌打ちをした後、名前を見つめて、不気味に笑った。
また遊ぼうぜ?
名前はその問いに答えなかった。




「―…っかは、けほっ、は、っは、」
「名前ちゃん、大丈夫?ごめんなさいねえ、もっと早くに見つけ出せていれば…!」
「いえ、来てくださっただけで、よかったです。ご迷惑を…」
「気にしなくっていいのよぉ!」
「そうですよ、さあ、どうぞお水を」
「すみません」

ジュダルちゃん、おかしいわ
泣きそうな顔でそう言う彼女に、名前はただ「そうですね」とだけ返しておいた。
ところで、先ほど神官殿に何を仰られたのですか?
名前が不思議そうに言うと、紅玉と夏黄文はともに苦笑いした。

「お兄様が、ジュダルちゃんを呼んでいたと、嘘を吐いたのよぉ」
「えっ」
「あのね、ジュダルちゃんがおかしい事は、皆気づいているの。だからみんなで、名前ちゃんを守りましょう、ってことになったの」
「で、ですが」
「ご安心ください名前様、紅炎様も、話を合わせてくださると仰っていました」
「…本当にご迷惑をおかけして…」
「謝らないで、皆、それほど名前ちゃんが大事なの。」

だから、ね?
そういって名前の頭を優しく撫でる紅玉に、名前は一粒、涙をこぼした
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