シンタロー成り代わりエネオス
今まで、俺とご主人の間にある、「画面」という壁を邪魔だと思ったことは一度もない。俺はPCや携帯などの電子機器の中でしか生きられないし、それに、ご主人のPCの中はとても落ち着くのだ。温かく、そして優しい。それは俺のご主人にも言えることだけれど。
俺は確かに不死身の人造人間のようなものだが、風邪だってひくし、傷つくことだってある。
一応気付かれないように、心配かけないようにと、なんでもないように振る舞うのだが、どういうわけかご主人にはすぐに見破られてしまう。そしてものすごく心配される。
「エネ、大丈夫なの?さっきから顔色悪いけど、風邪でもひいてるんじゃあ」
「これくらいすぐ治りますよ。平気です。」
「…そう、ならいいけど…。無理しないでね」
「はい。」
少し長めの前髪を揺らしながら、眉を八の字にするご主人に苦笑いが零れる。
「ご主人、少し過保護じゃありませんか?」
「そんなことないよ。エネはわたしの大事な、」
そこまでいってご主人は少し、本当に少し。悲しそうに顔を歪めた。
エネはわたしの大事な…
大事な?ご主人が俺に何を言おうとしたのかはわからないけれど、きっと、とても言いにくい事なのだろう。
「…エネ」
「なんでしょう」
「いつもありがとう。エネがわたしのところに来てくれて、わたし本当に嬉しいよ」
驚いた。普段素直にものを言わない人だから、たまにこういう爆弾落とされるのは本当に勘弁してほしい。どう反応していいのか分からなくなるのでとても困る。胸の奥がくすぐったい。むずむずしてきて、なんだか顔も暑くなってきた。
「あれ、照れてる?」
「照れてませーんよー」
「うっそだあ」
今まで、俺とご主人の間にある、「画面」という壁を邪魔だと思ったことは一度もない。
「エーネ」
「…何ですか」
なかったのだけれど
「大好き」
いまはじめて、あなたとの間にあるこの壁を邪魔だと思った。