成り代わり | ナノ

白龍成り代わり


姉上、姉上!
鈴のような声に、白瑛は笑顔で振りむいた。自分を呼んだ少女は、嬉しそうに目を細めて此方に近づいてくる。その手には花冠があって、白瑛は一層笑みを深めた。少女は隠しているつもりなのだろうけど、花冠がすこし大きいため隠しきれていないことに気付いていないのだろう。そんな少女、実の妹である名前を愛しく思いながら、白瑛は何も気づいていない振りをして、目線を合わせるためにしゃがんだ。名前の笑顔もいつもより輝いているようだ。

「どうかしたのかしら、名前?」
「ああ、あ、あの、あのっ。今日、紅炎殿が花冠の作り方を教えてくださって、上手に出来たので姉上に、あげようと!」
「あら、紅炎殿がおしえてくださったの?」
「はい!紅覇殿もいました!」

それより、はやく、ねえ、貰って!きらきらと目を輝かせながら、目で訴える名前に、白瑛は名前の頭を撫でた。
じゃあ、その花冠をわたしに頂けるかしら?
白瑛がそう言うと、名前は勢いよく首を縦に振る。花冠を手ににこにこと笑っている名前はとてもかわいらしい。白瑛にとっては名前の笑顔が正義である。白瑛が頭を下げると、名前はふん、と胸を張って白瑛の頭に花冠をかぶせた。満足げな名前に、白瑛も嬉しくなってくる。小さな子供と言うのは、笑っているだけでその場の空気を和ませる事が出来るのだから不思議だ。

「姉上、とっても似合っています!」
「本当?名前の花冠が上手に出来たからね」
「ふ、ふふふ。そんなこと、ありませんよう!」

顔を赤らめ、否定しながらも嬉しそうな名前に、白瑛は胸の奥がじんわりと温かくなっていくのを感じた。その場で名前と談笑していると、急に名前が黙ったので、白瑛は首を傾げた。そしてすぐに聞こえてきた足音に納得する。名前は隠れるように白瑛の後ろに回ったのだが、もう遅かった。伸びてきた腕に髪を掴まれ、名前は「ひゃあ」と間の抜けた声を上げた。

「ははっ!泣き虫の名前みーっけ!」
「や、やめ、やめてくださいよっ!神官殿!」
「あらあら…隠れるのが遅かったみたいね、名前」

名前の髪を掴んだのは、皇帝国のマギ、ジュダルである。名前はどうやらジュダルが苦手らしい。泣きそうである。というかすでに泣いている。きっと「好きな子はいじめたい」という年頃の可愛い行動なのだろうけれど。白瑛は苦笑いしながら優しくジュダルの手を掴む。
名前が嫌がっていますので、手を離していただけませんか?
優しく注意をすると、ジュダルは少し考えてからパッと手を離した。そして衝撃の一言を放ったのである。

「俺いつかぜってえ名前を嫁に貰うからな!」

ぴしり。固まった。だがしかし固まったのは白瑛ではなく、偶然そばを通りかかった兄二人、白雄と白蓮である。白瑛は幼児組二人に見られないようにそっと溜息を吐いた。

ああ、また面倒なことになってしまったわ。

兄たち二人が焦って此方に飛んでくるまで、あと二秒。



朝焼けと共ににの桜さまに
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