短編 | ナノ

ナルトと昔話


昔、とてもくだらない事で彼と喧嘩をしたことがあった。
彼は泣かなかった。
あの人は強い人。

「名前、任務は?サボりかー?」
「ちーがーいーまーすー。任務が無かっただけですー。」
「あっそ。隣座るな」

とってもとっても、強い人。



優しい強さ。弱い強さ。


あれはいつだったか、わたしが彼と初めて会ってしばらくたったころだったと思う。彼はその時、里中の嫌われ者だった。今となっては英雄だなんて呼ばれているけれど、昔は本当に嫌われていたのだ。わたしが彼と初めて会ったのは、家の近くの公園で、怪我だらけで蹲っている彼を見つけたのが始まりだった。
ねえ、ねえ、大丈夫?
そう声を掛けた私に、小さな彼がものすごく怯えていたのを今でも覚えている。その怯えようは半端なものじゃなくって、こちらまで怯えてしまいそうだった。けれど、体中あちこちにある彼の怪我に、わたしは無理やり引っ張って家まで連れ帰ったのだ。両親だって最初こそ反対していたものの、滅多に我儘を言わない私があの時は必死に頼んでいたから、渋々家にあげていた。慣れない手つきで不器用に治療していくわたしに、彼はぼそぼそとわたしに聞いた。
俺の事、怖くねーの。
その言葉にわたしは心底驚いた。怖かったら家にはあげないよ。そう返答する私に対し、彼は丸い目をさらにまんまるにさせて此方を見ていた。暫くして、ありがとう。と彼の口が動くのが見えて、くすりと笑った。それから彼と何度か遊んで、家に連れ帰っていくうちに、両親も彼の事を危険人物だとは思わなり、普通に家族のように接してくれていた。
その頃だ。些細なことで彼と喧嘩したのは。
あの日はアカデミーの帰りで、わたしは何故かとてもイライラしていて、彼に八つ当たりをしたのだ。彼も訳も分からず自分に怒鳴ったわたしに怒って、大喧嘩になった。椅子を何個かつぶし、イルカ先生を蹴って、先生たち数人に抑えられてやっとおさまったのだ。少し頭が冷えたわたしは、なんて恐ろしい事をしてしまったのだろうとイルカ先生たちに理由を話そうとしたのだが、なんと先生たちはすべて彼のせいにしてしまったのだ。驚いたわたしは必死に違うと訴えるも、「あいつなんか庇わなくていい」といって、彼を連れてどこかに行ってしまった。きっと火影様のところに行ったのだ。そう思った。泣き出す私を見て、イルカ先生は頭を撫でて、優しく言ったのだ。

「何があったか、話してごらん」

その言葉にますます涙腺が緩んだ私は、大泣きしながら先生に理由を話していたのを覚えている。何を話したのかは、もう覚えていない。ただ、ナルトは悪くないの、ごめんなさい先生。ナルトは本当に悪くないの。信じて。ただ必死に、そう訴えていた。イルカ先生は、分かった。俺が火影様に話しておいてあげるから、お前はもう帰りなさい。それだけ言って、姿を消した。わたしは、彼に謝らなければと思う反面、嫌われたかもしれない。怖い。あいたくない。と思っていた。怖かったのだ。彼に嫌われるのが。
次の日は体調を崩しアカデミーを休んで、さらに行きにくくなってしまった。その次の日も、休んだ。彼が昨日来てくれなかったことも、余計にわたしの心を不安にさせた。何もないのに休むのなら、謝ってきなさいよ。母さんのこの言葉に、わたしはおどおどしながら家を出て、彼の住んでる家に向かった。当たり前だが、まだアカデミーの授業の時間だったので、彼の部屋の前で丸まりながら、ずっと待っていた。


○■○


蒼空が茜色に染まる頃、誰かが此方に近づいてくる気配がした。どうやら眠ってしまっていたらしい。ぺたぺた音を立てて近づいてくるそれに顔を向けると、わたしの眠気は一気に吹き飛んで行った。金髪が、揺れる。それと一緒にサックスブルーのわたしの髪も揺れる。怖い。怖い。どうしよう。嫌われたら、わたしもう、でも、ごめんなさいは言わなきゃ。わたしが悪かったんだから。嫌われても、謝るだけ謝らなければ。覚悟を決めて彼を見ると、青い目と目があった。
あの、わたし、話があって
震える声で話し始めるわたしに対し、彼はただ私を見つめるだけである。

「一昨日、その。ナルトは悪くないのに、わたしが、八つ当たりしただけ…なの、に」

視界がだんだん滲んできて、彼の姿が見えなくなる。その次の言葉が出てこない。何してんの。泣くな。泣くなわたし。ほら、ごめんねって、言えるでしょう?たった四文字じゃない!そう自分に言い聞かせるけれど、どうやら涙は止まってくれないらしい。彼はわたしを見つめるだけで、何も言ってはくれなかった。それが引き金となりわたしの涙腺は崩壊した。その場にしゃがみ込み、あふれる涙を必死に拭う。

「嫌いに、ならない、で、ごめんなさい。ごめんねっ。わたしが、わたしはっ、ナルトが、」
「ちょっと待つってばよ」

言葉を遮られ、わたしはただ泣きながら彼を見つめる。頬を人差し指で掻きながら、彼はこちらに近づいてくる。思わず後ずさってしまい、その場で固まる。彼はいつものように笑っていて、いつの間にか涙は止まっていた。

「こういうのは、男が言うもんだって、イルカ先生が言ってたから、俺に言わせろってばよ」

その次に彼から発せられた言葉に、わたしはまた別の意味で涙を流したのだ。


○■○


「ふ、ふふ」
「なに笑ってんだ?」
「昔のナルトの告白思い出した。」

えっ。そう言ってみるみる顔が赤くなっていく恋人にわたしはまた笑う。「懐かしいよね」というと「もう忘れてもいいってばよ…」と赤い顔で言ってくるから、かわいいなあ、なんて。

「忘れなーいよ」
「…あっそ!好きにしろよ。
 ……名前はさあ」
「んー?」
「俺と付き合ってよかった?」
「うん」
「……そ。」

じゃ、いいや。俺なんか買ってくるけど、なんかいる?赤い顔を見せないようにわたしから顔をそむけているのだろうけれど、真っ赤に染まった耳は丸見えだ。小さく笑ってから「わたしも行く。」というと、ぶっきら棒に手を差し出してくれるあなたが愛しくて愛しくて、堪らない。


彼は優しくて弱い人。
弱いけれど、強い人。


優しい強さ。弱い強さ。


わたしは何を書きたかったんだろう。
なんか分かんないな。
ナルトのってばよっ具合が分かんないってばよ

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