短編 | ナノ

柳くんが泣く


今朝は早く目が覚めた。だから珍しく早くに学校に登校した。あー、まだ少し肌寒いなあ、でももう少しで学校だし。なんて思いつつ歩いていると、目立つ赤色が目に入った。おやおや、あれは確か、あの堀さんを罠にはめようとした我が片桐高校生徒会会長の仙石翔くんではありませんか。パタパタと小走りでその赤い彼に近づき、おはよう。と挨拶をする。すると彼も、おはよう。今日は早いんだな。と返してくれた。そのまま学校まで仙石くんと話しながら歩いて行った。今日ひとつめの収穫。彼は噂ほど冷たい人ではなかった。何か言えば必ず返してくれる。ふむ、優しい人だな。
くだらない話をしていると学校に付いたので、仙石くんとはその場でさようなら。どうやら生徒会室までは近道をするらしい。生徒会室って暖房ついてて暖かいんだよね、いいなあ。そう呟くと、仙石くんにドヤ顔された。むかついた。そしてそのまま携帯を弄りながら教室に向かう。わたしは6組なので、階段を上ってからの道のりが長い。廊下は寒いのだ。足に来る。足に。まあだからと言ってスカートを折るのはやめないけれど。教室の前まで来て気付く。職員室から鍵持ってくるの忘れた。開いてるかな、よし、一応ガタガタやってみよう。
扉に手をかけて左に引くと、開いた。あれ?先生もう開けてたのかな。不思議に思ったが特に気にせず教室へと入っていく。そして悲鳴をあげそうになった。クラス一イケメンな桃色が虚ろな目をして外を見ていたのだから。

「…え、柳くん?」

声を掛けても無反応だった。目の前で手を振っても、耳の傍で叫んでも彼はピクリとも動かない。まるで屍のようだ。柳くんの前で色々なことに挑戦したが、やはり反応はなかった。ふと、昨日みっちゃんから送られてきたメールの内容を思い出す。確か、柳くん、吉川さんに振られたんじゃ…。そこで気付く。まさか柳くん、ショックのあまりに朝早くに目が覚めて学校に来たのは良いものの吉川さんのこと思い出して、そのまま…!?と勝手な妄想を膨らまし、

「ねえ、柳く…っ」

ぱたり。音がして、その方向に目を向けると水が落ちていた。…えっ。恐る恐る柳くんを見ると、彼のきめ細かい肌に、何粒もの涙が滑り落ちていく。ああああ、泣かせてしまった。柳くん、ごめんね。なんて言えなかった。柳くんがわたしの手を握っていたのだから。そのことに驚いて息をのむと、柳くんは淡い桃色の唇を開いた。

「僕は」

小さな小さな、声だった。

「吉川さんが、好きでした」
「…うん」

耳を澄ませていないと、聞き逃してしまいそうなほど

「でも、吉川さんには彼氏がいて、お似合いで、僕なんかじゃ、彼女には、釣り合わな…っ」
「柳くん、もういいよ。もういいから。頑張ったんだね。偉い偉い。」

柳くんの頭を撫でながらそう言うと、耐えられなくなったのか大粒の涙が落ちて行った。


彼の声は、美しかった。


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