短編 | ナノ

西と日姉


見つめ合う事、数秒。溜息を吐き、目の前の男を見据える。男はへらりとと笑みを顔を浮かばせ此方を見ている。外からは可愛らしい鳥の囀りが聞こえて、心が洗われるようだ。だが、わたしの心中はどろどろに汚れきっている。

「こんな朝早くに何の用かしら、アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド様?」

嫌味ったらしい笑みを顔に浮かべ首を傾げるわたしに、彼は怯むことなく手にしていた籠を自分の顔の横に持っていき、にっこりと笑った。籠から顔をのぞかせるのは赤く熟した果実である。またか…。隠すことなくその意志を顔に浮かばせる。昨日も一昨日もその前も。彼はその赤い果実をうちに持ってくる。

「うちのトマト、食べたって?」
「それは昨日も一昨日もいただいたわ」
「美味かったやろー!」
「ええ、それは確かに。とても美味しかったわ。でもね、さすがに一カ月近くも毎日トマトを持ってこられると言うのは…」
「………トマト、嫌い…?」

笑顔から一変。泣き出しそうな表情になる彼にギクリとした。
え、ええ!?ちょ、泣かないでよ、別に嫌いだなんて言っていないじゃないの!
焦りながらそう言うと、また笑顔に戻る彼に、わたしは先程より深い溜息を吐く。ああ、なぜこんな時に限ってわたしの弟がいないのだろうか…。あの子がいれば、彼を追い返すこともできるのに。頭の隅でそんな事を考えつつ、にこにこしている彼の顔を見る。一瞬、止まった。澄み渡った緑色の目と、視線がかち合う。その目はわたしを見て柔らかく細められ、そして―…

「…っ、上がって」
「へ?」
「上がりなさいって言ったのよ。…毎日持ってきてくれたんだから、その…御礼にお茶くらい出させなさい」

まずい。照れる。物凄く照れる。普段こんなこと言わないから…。赤くなっているであろう頬を隠すために後ろを向いて居間へと歩き出すと、後ろから小さな声で「お邪魔します」という声が聞こえた。それから彼が帰るまで、彼の耳が真っ赤に染まったいることに、私は全く気付かなかった。

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