短編 | ナノ

情処不安定なカノ


 一回二回ノックして、うんともすんとも返事がないから問答無用で目の前の扉を開けた。部屋に電気はついていない。このままでは何も見えないので仕方なく電気をつける。ベットの方に目をやれば、不自然なふくらみがあり、あそこにカノがいるのだなあとそのふくらみに近づいた。きっと寝ているのだろう。昨日は任務が忙しかったから。
 布団を剥ごうとしたところで、ばさりとそれがなくなった。あれ、と覗き見ると、茶色がのそりと動く。彼の目は真っ赤に腫れていた。
カノ。
名前を呟くと、ゆっくりと首を此方に向けて、かすれた声で名前、とわたしの名前を呼んだ。

「どうしたの、何かあった?」
「うん…」

 ベットに腰掛ける前に腰に手を回されて、そのまま引きずり込まれてしまった。片方の手で頭を撫でて、もう片方は背中を摩る。ぽん、ぽん。赤子をあやす様に背中を叩いてやれば、カノはわたしの首元に顔を埋めた。改めてもう一度、どうしたの、と聞いたけれど、返事は返ってこなかった。今日は何も言ってはくれないな。カノは誰よりも繊細だ。なにかあればすぐに崩れて壊れてしまう。だから定期的にセトやキド、そしてわたしの幼馴染組でメンタルケアをしているのだが、今月はまだケアをしていなかった。

「もうやだ」
「うん」
「人を欺くのも、自分を欺くのも、疲れた」
「うん」
「不思議だよね、本心の方が、僕、嘘ついているように見えるんだ」
「…うん」

 じわり、じわり。
 肩が濡れていくのが分かって、カノを抱き締めた。大丈夫だよ。安心していんだよ。わたしは必ずカノにこの言葉を投げかける。カノは欺くのが上手だから。苦しくても苦しくないと言えるから。そのツケが月に一回精神面で出てしまうのだ。

「カノ、わたしやキドやセトの前では、欺かなくていいんだよ」
「ん…」
「わたしたちがいるからね、安心してね。」
「信じてる」
「あら嬉しい。」

 今日はこのまま寝ちゃおうか。
 わたしの言葉にカノが頷いたのを確認してから、わたしは部屋の電気を、パチン、と消した。

おやすみなさい、愛しい人。
どうか貴方が幸せな夢を見る事が出来ますように。


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