アドリビトムへ

TOW レディアントマイソロジー3

カノンノに誘われるまま船に入り、ホールと思われる場所で最初に出迎えてくれたのは、猫のような姿をして短いしっぽからパタパタと羽を羽ばたかせる不思議な生き物だった。

「お嬢様!お帰りなさいませ」
「ロックス、ただいま!」

お嬢様、とはカノンノの事を呼んだのだろう。カノンノも気にした様子もなく、その生き物をロックスと呼んだ。
ロックスはカノンノに笑いかけた後、おや?と首を傾げレシェンの方を向いた。帰ってくるのはカノンノだけだと思っていたのだろう。
一度不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻ったロックスはレシェンに声をかけようと近くへ寄った。
その時、ロックスの後ろから足音が聞こえてきた。

「お帰りなさいカノンノ、…あら?」

そこに立っていたのは、ウェーブの付いた長い晴天色の青髪をひとまとめにした女性だった。レシェンより少しばかり年上のようだ。
ふわりとした清楚な白い服を着たその女性は、優しい笑顔で歩み寄ってきたが、カノンノの隣で物珍しげに船内を見回しているレシェンの顔を見て首を傾げた。

「こちらの女性は?」
「レシェンさんです。ルバーブ連山で会ったんですけど…」
「うーん、何か色々ありそうね…。それなら、まずは自己紹介しないとね」

女性はそう言って、ぽん、と両手を合わせた後、片手を胸に当てながらレシェンに向かってもう片手を差し出した。

「初めましてレシェンさん。私はアンジュ・セレーナと言います。それと…」

ふと、アンジュと名乗った女性は自分の隣で飛んでいた、ロックスに視線を向けた。ロックスも気が付いたようで、パタパタと羽の音を立てながらレシェンの側までやってきた。

「どうも、初めまして。ロックスプリングスと申します」
「…ロックスプリ…」
「長いので、ロックスとお呼び下さい」

レシェンが名前に息詰まったのを見て、特に気にした様子もなくロックスは笑った。

さて、自己紹介も済んだことだし、とアンジュが切り出す。
カノンノはアンジュに一通りレシェンに会ってからの話を簡単に説明した。記憶喪失の事を問いかけると、アンジュは一度うーん、と悩む素振りを見せる。

「話を聞く限りそうかもしれないわね。もしかしたら、カノンノの見たその魔術で彼女自身に何かダメージがあったのかも」
「魔術で、ですか?でも彼女は、魔術の事とも覚えてないみたいで…」
「高度な魔術は、ヘタをすれば代償が伴うわ。可能性は否定できないかも」

アンジュはレシェンの方を向く。心当たりはありますか?と、問い掛けられるが、覚えていないレシェンは首を振った。アンジュもその返事が来ることを分かっていたようで、そう、分かったわ、とレシェンを安心させるように微笑んだ。

「あの、アンジュさん。彼女行く場所も覚えていないみたいで…、ここに置いてあげられないですか?」

カノンノが聞くと、アンジュは悩む様子もなく、理由も理由だから構いません、と言った。ほっ、とカノンノが胸を撫で下ろした矢先、ただし!と、アンジュは人差し指を立てた。

「レシェン、でいいかな?」
「はい」
「確かレシェンは、ルバーブ連山でカノンノを助けてくれたのよね。たくさんの魔物をたったひとりで倒せるくらいの体力があるなら、ここで働いてみない?」

働く、ですか。レシェンはイマイチピンと来ていないような顔で首を傾げた。

アンジュの話によると、この船バンエルティア号は“アドリビトム”――古代神官語で“自由”と言う意味を持つ名のギルドの拠点との事。どの国にも属さず、依頼とあれば世界中を回る名の通り自由なギルドだ。
一部をカノンノから聞いていたレシェンは、二つ返事で了承した。
いくら記憶喪失でも、動けて腕が立つならば働くべし。働かざる者食うべからず、というわけである。ただ、それなら記憶が戻るまで、戻ってもここにいていいとアンジュは言った。

「じゃあ、早速メンバー登録しておくね。…改めて、私がギルド“アドリビトム”のリーダー、アンジュです。これから宜しくね、レシェン」
「はい、…よろしくお願いします」

まだ何をすればいいか分からないんですが。一言付け足し、ふ、と吹き出しつつ差し出してくれたアンジュの手を握り返した。


(これがはじまりの一歩だったのです)


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