光に包まれた女性

TOW レディアントマイソロジー3

世界樹と、その世界樹が生み出したとされる『マナ』より作られる『星晶(ホスチア)』というエネルギー鉱物で人々が暮らす世界『ルミナシア』。
しかし星晶でひとつの国が栄え強くなっていく一方、富や軍事力を持たない国はその強国に植民化され星晶や恵みをわれたり、国や民に貧富の差が広がり、各地で戦争などが起こっています。

その世界には、一つの言い伝えがありました。

“世界樹の守り手『ディセンダー』
 太古より予言されていた それは
 世界ルミナシアの 危機訪れし時
 世界を守る為 世界樹より生まれる”




その日、世界樹から一つの光が飛び立った。



ここはルバーブ連山。険しい山々が重なり、頂上近くまで行くと崖や霧。さらにはモンスターまでもが救う人間には危険な山。
そこに、この険しい場所には到底不釣り合いの少女が歩いていた。
ピンク色の髪を左側にひとまとめにし、大きな紅葉のヘアアクセサリー。丸いペリドットの瞳はまだ幼く、15歳くらいだろうか。しかし少女は、そんな小さく細い体にさらに似合わない大剣を手にしていた。

少女の名は、カノンノ・グラスバレー。

「さて、と!これで仕事は終わり、船に戻らなきゃ」

巨大な剣を抱え直し、よし、と息を漏らしたカノンノはふと足を止めた。
この高い山々がそびえ立つこの場所からでも、世界樹の姿を見ることができる。見慣れているその大樹だったが、今日はどこか違う気がした。なにが、といえばはっきりしないのだが、いつも見ているはずなのに、今日は何故か目に入るのだ。

その時だった。
世界樹を見つめるカノンノの頭上を、何か光が通り過ぎていった。え?と、顔を上げると、その光はルバーブ連山頂上の方へと飛んでいってしまった。

「何、今のは…?」

魔物ではない、確実に。何故かそう確信したカノンノは無意識にそれを追いかけた。頂上は先ほどまで居た場所で、今は下山を始めたばかりなのでまだすぐそこだ。
だから、と言うわけではないが、何故か惹かれたカノンノだったが、考える間もなく頂上に辿り着いていた。
そこには、光の球体に包まれ宙に浮いている、

「…えっ、人!?」

カノンノは慌てて側に駆け寄った。
すると、カノンノが側に来たのを見計らったように光に包まれた人はゆっくりカノンノの元に降りてきた。
惹かれるように、カノンノは手を伸ばした。

そのまま静かに地面につくと、光は弾かれるように消えていった。
なんだったんだろう?カノンノは光が無くなり、しっかり重力に従い重たくなった人を支えながら光がはじける瞬間を見上げた。
光が見えなくなると、降りてきた人に視線を落とした。どうやら眠っているようで、さっきは目映くて気が付かなかったが、女性だ。成人、とまではいかないが確実にカノンノより年上だ。

「あの…、大丈夫?」

声をかけながら女性を揺さぶる。すると、女性はそっと目を開け、ゆっくりと上半身を起き上がらせた。ぼんやりとした様子で女性はカノンノを見た。
目が合った瞬間、どきり、とカノンノは心臓が跳ねた。女性の左瞳は空にも負けないくらい優しくて澄んだスカイブルー。対して右瞳は、不思議な色だった。赤に近い濃い桃色…この世界のものとは思えない、どこか怖いような…でも、懐かしいような色。

ほう、とカノンノが見惚れている中、女性はぱちくりと瞬きをし、じっとカノンノを見つめていた。

「…あの」
「えっ!」

最初に声を漏らしたのは女性だった。その声に気が付き、カノンノははっと我に返る。

「ご、ごめんなさい!とても綺麗な瞳をしてるから、思わず…!」

カノンノが必死に手を振る中、はあ、と女性は拍子抜けた声を漏らした。ふう、とカノンノは一度息を整えると、しっかり女性に視線を向ける。

「えっと…、とにかく目を覚まして良かった。私、カノンノって言うの。あなたはの名前は?」
「名前…」

女性がこてん、と首を傾げた。カノンノも思わずつられ手首を傾げる。自分はそんなに難しい質問をしたつもりはなかったが、女性が少し悩むような顔をしたのだ。
どうしたんだろうと、カノンノが聞き返そうとした時だった。

「―――っ!」

後ろからモンスターの声と、バサバサと羽根をばたつかせる音に気が付き、カノンノは慌てて振り返った。
あたりだ。いつの間にかカノンノたちの背後には、ルバーブ連山に掬う巨大な鳥型のモンスターアックスビークと、ゼリーが飛び跳ねるような妙な音を立てるオタマジャクシが巨大化したようなモンスター、オタオタが何匹も近寄ってきていた。アックスビークのクチバシは普通の鳥と明らかに違い、オタオタも丸い目は明らかにこちらに敵意と殺意を向けている。
カノンノは愛剣オータムリリィを構えた。

「こんなところにまでモンスターが…、危ないから下がっててね!」

女性を背中に庇いながらカノンノが剣を構えた事に気が付き、モンスターたちもカノンノへ一斉に襲いかかってきた。それに応戦しようと、カノンノは剣を掴み直し、モンスターへ振りかぶろうとした。

しかし次の瞬間、自分の体が宙に浮いた事に気が付いた。

「え…っ?」

突然の予想外の出来事に唖然としていると、さっき自分に襲いかかってきたはずのモンスターの悲鳴が聞こえてきた。その声を聞いてようやく我に返ると、何が起きたのだろう、と自分の状況を確認した。

「レシェン」

カノンノは今、そう一つの言葉を放ったあの女性に抱きかかえられていた。しかも、さっきまで丸腰だったはずなのに彼女の片手には、いつの間にか青い剣が握られていて、

「自分の名前は…レシェンです」

彼女があの魔物たちを一瞬で倒した、それは一目瞭然だった。

丸腰だと思っていたレシェンをモンスターから護ろうとしたのだが、逆に助けられたのはついさっきの話。片手剣を扱っていたところを見ると、剣士のようだ。しかも、モンスターを斬ったそのレシェンの剣は、光になりまるでレシェンの中に取り込まれたように消えていったのだ。
それを見て、レシェンを包んでいた光を含め魔術か何かかとカノンノは問いかけたのだが、レシェンは首を傾げたものだから話は進まなかった。まるで自分のしたことが分かっていないようだった。

とりあえず、またモンスターに襲われてはいけないので一旦山を下りることにした。

「(本当に、不思議な人)」

凄く、不思議で神秘的で美しくて。
でもどこかこの世界のものじゃない何か彼女の一部にあるような気がして、少し怖かった。未知のものって、わくわくする反面恐ろしくも感じるんだ。それはカノンノが、今まさに隣を歩いているレシェンと名乗った謎の女性に対する第一印象。
何か目的があって頂上へ降りたったかもしれないのに、カノンノが下山を提案すると反論も疑問も何も見せず、レシェンはあっさり頷いて付いてきた。

少しばかり沈黙が続く。
カノンノは思い切って、レシェンに声をかけた。

「あのっ!レシェンさん…!」
「はい」
「レシェンさんは、なんでこのルバーブ連山へ?あ、もしかしてどこかのギルドの人ですか?さっきの戦い、強かったし…」

レシェンはまた首を傾げ、ギルド…、と小さく呟いた。何を疑問に思ったのか分からず、カノンノも思わずつられるように首を傾げる。
このご時世、特に大国に食い物扱いされている貧国の民からは、ギルドはかなり重宝されている存在で、知らない人はいないと思っていたのだが。
カノンノが不思議に思っていると、レシェンは少し辺りを見回し、

「ここは、ルバーブ連山と云うんですか」
「え、知らないで来たんですか?じゃあ、違う場所に行きたかったとか?」
「………」
「それなら!私、アドリビトムっていうギルドのメンバーなんです!この先でギルドの船が迎えにきますから、話をして、あなたの目的の場所に送ってもらえますよ!」

ぱっと顔を明るくしながら声を弾ませるカノンノ。しかし、レシェンは有り難いと言うわけでもなく、カノンノが発した言葉の単語を不思議そうに繰り返しているだけだった。
そして、目的の場所、という言葉を復唱すると、何か分かったように顔を上げた。

「場所、目的ですか」
「そうそう!きっと何処かに行く途中とか…」
「…目的の場所、分かりません」
「………え?」

まさかの返事に、カノンノは一瞬固まる。

「じゃ、じゃあ何処から来たんですか?そこになら!」
「……分かりません。何処から。自分は…何処から来たんでしょうか…」

レシェンの言葉が本当なら、かなり問題だ。まさか自分が何処から来たかが、分からないなんて。
拍車をかけて、何故かレシェン自身焦る様子もなくまるで他人事のように分からないなんて云うものだから、尚更カノンノは困惑した。自分のことが何も分からないなら、もっと焦ってもいいかと思うのだが。さらにはその事実を、カノンノが問いかけるまで考えないなんて。

「え、えっと…だったら、生まれ故郷とか、分かりますか?覚えてること、分かることなら、何でも!」
「分かること。……自分の名前は、レシェン。それと、さっきの剣を使える、事」

それだけ…?カノンノが恐る恐る問いかければ、レシェンはこくりと頷く。レシェンは嘘を付いている目をしていない。本当のようだ。
ぐるぐると頭と目を回転させ、カノンノは一つの答えに行き着く。

「もしかして、記憶喪失…!?」

記憶喪失、カノンノの言葉をレシェンは復唱する。
その声色は、焦っているわけでも嘆いているわけでもなく、一つの言葉に意味なんて無い、むしろ意味なんて分からずに発しているようだった。しかし、あまり馴染み無い響きなのはカノンノも一緒だ。記憶喪失の人に会うなんて初めてだし。

「とりあえず、ここは危ないから一旦船に行きましょう?それからで、いいですか?」

カノンノの言葉に、レシェンは頷いた。

順調に下山し、二人は麓のわき道までやってきた。そこは断崖で、谷底には川が見えた。
ここに迎えの船が来るよ、とカノンノは説明する。

相変わらずレシェンは辺りの植物や生き物を物珍しげに見つめ、流れる水に手を付けて冷たがったり、まるで生まれたばかりの赤ん坊のように全ての物を初めて見るような姿。カノンノにはそうに見えた。でも植物を優しく撫で見つめる眼差しは、どこか母親のようで。
記憶喪失の人間はみんなこうなのだろうか。
無垢。そんな言葉がレシェンにはぴったりと思ってしまう行動に、本当にレシェンは今さっき生まれたばかりなのでは。カノンノは、そんなあり得ないことまで考えてしまった。

途端、無風だった辺りから一気に強い風が吹き荒れた。
あまりにも突然だったが、花を見ていたレシェンは驚く、という素振りはなかったがゆっくり顔を上げた。
カノンノはその風の正体を知っているようで、レシェンに近寄り手を取った。

「迎えの船が来ました!」

カノンノはレシェンの手を引き、崖まで足を進めた。しかし川には船の姿は無い。むしろこの川には、一般的に考えられる船か出入りできるような幅はそもそもない。ではどこか。

カノンノは、空を見上げていた。つられてレシェンも空を仰ぐ。
そこには、ステンドガラスのように散りばめられた色とりどりの装飾をした、船とは形容しがたい巨大な潜水艦のような金色の機体。それは、空からゆっくりレシェンたちの前に降りたった。


(こうして、物語は始まりを告げたのです)


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