TURN-21>>
届け、慈愛の光!フルムーン・ドラゴンvsブラック・ローズ・ドラゴン!

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地上で咲き乱れる
一輪の花は

空に輝く
大きな星に憧れていた

輝きたい、優しく






「失礼致します!長官っ!」


ゴドウィンの隣に、物凄い焦った形相をする阿久津が通信モニターに写された。

今ゴドウィンが見下ろす会場は、アキが齎したフィールドの処理に終われて会場内もざわついている。真っ黒に焼け焦がれたフィールドは、あのデュエルがいかに凄まじかったかを物語っていた。

ゴドウィンは会場から目を離し、阿久津の写るモニターに横目を滑らせる。


「…なんですか?」

「物凄い反応ですっ!!びーんびんきちゃってます!シグナーではありません!これはまさに、シグナーマスターの反応ですッ!!」


なんですって?と、ゴドウィンはやっと阿久津のモニターの方を振り返った。
阿久津が指差す後ろに写る何かのエネルギーを示すだろう、センサーの針が大きく傾いている。青い色の反応が薄いところから大きく離れ、赤い色を指していた。

ゴドウィンは手を後ろにしたまま、会場を見下ろした。捜すのはシグナーマスターと睨んでいた、あの少女が座っていたはずの席。
だが、隣に座っていた仲間たち共々、少女は姿を消していた。


「…反応の場所と、あの少女の所在は?」

「はいぃ!会場外の裏です!少女もそこに!」


今モニターを!と、阿久津が言った次に、阿久津が写っていたモニターが裏でアキと闘っている姫兎の姿が映し出された。
アキの腕にはシグナーの痣が光っている。そして、目の前に立つ姫兎のモンスター。


「…ついに、見つけましたよ」


ぽつりと、怪しい笑みを見せて呟いたゴドウィンの声は誰にも届かなかった。

後ろに座るジャックが何も知らぬという顔でそっぽを向きていたが、腕を押さえていた事をゴドウィンはしっかりと確認していた。






「フルムーン・ドラゴン…」


こんな竜、見た事が無い。夜という闇の空を大きく照らすように美しく輝くような、慈愛の竜。


「…っ!だが、フィールド魔法『ブラック・ガーデン』の効果!」


アキが鋭く叫び『フルムーン・ドラゴン』を指せば、周りに聳える黒い樹木たちから茨が飛び交いフルムーンの体に巻き付いた。
この効果で、フルムーンの攻撃力が2400から1200へと下がってしまう。フルムーンが痛みに悲痛な鳴き声を上げた。
そして『ブラック・ガーデン』のもうひとつの効果により、アキの場に『ローズ・トークン[ATK/800]』が1体、花を咲かせた。


「構わない、いくわよフルムーン!『フルムーン・ドラゴン』の特殊効果!召喚されたターンのみ、自分の場に他のカードが無い場合、相手に直接攻撃が出来る!
『フルムーン・ドラゴン[ATK/1200]』で、アキにダイレクトアタック!」


フルムーンの目に光が戻る。縛り付けられた茨を気にせず、その翼をはためかせた。


「ルナ・ラジェーション!!」

「、あぁ…っ!!」


アキにフルムーンの攻撃が降り注ぐ。顔を被い、反動を和らげた。この攻撃でアキのライフは4000から2800へと下がる。
そのまま姫兎はターンを終了させた。終了宣言を聞き、アキは自分のデッキに手を掛ける。


「私のターン!」


姫兎の場には攻撃力1200の『フルムーン・ドラゴン』が1体のみ。攻撃力が低くなったフルムーンを残し、伏せカードも何もない。


「手札から魔法(マジック)カード『偽りの種』を発動。この効果でレベル2の『ナチュル・コスモスビート[ATK/1000]』を特殊召喚!」

「(あれは…チューナーモンスター…!)」

「さらに『ボタニティ・ガール[ATK/1300]』を通常召喚!」


アキの場には三体のモンスター。『ローズ・トークン[ATK/800]』を覗いて、攻撃力は半分となっているので姫兎の『フルムーン・ドラゴン[ATK/1200]』には届かないはず。

だが、姫兎は何か不吉な気配を感じた。何かが起こる。
途端、突然の地鳴りと同時に辺りの『ブラック・ガーデン』が枯れ始めた。何故!?と、姫兎は動揺して辺りを見回す。まさか、『ブラック・ガーデン』の効果…いや、それにしては攻撃力が合わない。


「これは、いったい…!?」

「場に存在する魔法(マジック)を生贄とする事で、魔法(マジック)カード『黒薔薇の開花』を発動。場にチューナーモンスターとモンスターを見合うレベル分ゲームから除外する事で、墓地の『ブラック・ローズ・ドラゴン[ATK/2400]』を特殊召喚する!」


ハッ!と姫兎は顔を上げアキの場を見る。
アキの場にはチューナーモンスター『ナチュル・コスモスビート[LV2]』、そして『ボタニティ・ガール[LV3]』と『ローズ・トークン[LV2]』…。レベルの合計は綺麗に『ブラック・ローズ・ドラゴン』に一致した。


「現れよ、『ブラック・ローズ・ドラゴン[ATK/2400]』!!」


黒薔薇の花びらが辺りに撒き散らされる。アキの後ろから赤い光の柱が聳え、舞い戻った『ブラック・ローズ・ドラゴン』。姫兎の『フルムーン・ドラゴン』も、『ブラック・ガーデン』の呪縛から解き放たれ、同等の攻撃力2400へと戻った。

2体のドラゴンが互いに対峙し合う。


「…私は、負けはしない!手札から『薔薇の刻印』を発動!」


アキの魔法(マジック)カード『薔薇の刻印』の効果で、墓地の植物族を除外し姫兎の『フルムーン・ドラゴン』の額に薔薇の印が刻まれた。
この効果で、アキの場に『フルムーン・ドラゴン』が写ってしまった。


「これで…終わりだ!!」


アキは一斉に攻撃宣言を開始する。姫兎は足元の砂を、じゃり…と、音を立てさせた。フルムーンとブラックローズの攻撃力は同じ2400、この攻撃を同時に受けたら姫兎の負けは確定する。しかも、姫兎の場にカードは1枚も無い。

攻撃をしようと、アキは腕を振り上げた。その瞬間、姫兎の様子を見て動きを止めてしまった。


「…な、何故逃げない!私の力を受けたら…無事ではすまないのに!!」

「逃げる?悪いけど、私逃げるって言葉がいっっちばん嫌いなのよ」


動じない様子で立っている姫兎。
今までに、そんな反応をされた事が無いアキは動揺した。普通の人間なら遠ざかったり、攻撃の反動から逃げようと背を向けるデュエリストばかりだった。当たり前だ、攻撃を受けたらその身も傷付けるのだから。

なのに、何故…!


「…っ!2体の竜、相手プレイヤーにダイレクトアタック!!」


一瞬躊躇いを感じたが、負けるわけにはいかない。アキは宣言の言葉を振り落とした。
2体の竜は一斉に姫兎に体を向かう。だが、姫兎はその姿を見上げているだけで動こうとしない。

あの攻撃を受けたら、また―――…。

自分に始めて相手側から接してくれた、話し掛けてくれた。怖がらず、デュエルをしてくれている。
そう、私はそんな人を探していた。もう…そんな人に出会えるかも解らない。この攻撃が通ったら、もう――――…!


「―――…っ、あぁっ!!」


アキが震えながら言葉にならない声を上げた。やめて、と何故が反射的に叫んでしまいそうになった。だがその悲痛な声とは裏腹に、その瞬間には2体の竜が姫兎に攻撃をしてしまったところだった。

闇と光の攻撃が、姫兎を撃って見えない。アキはぎゅっ、と辛そうに目をつぶった。涙が、何故か出そうになる。


「…勝っ、た」


勝ってしまった。
また、人を傷付けた。

その場にへたれ込むように、体の力が抜けてしまう。




「――――…まだ、終わってないわよ!!」


はっ、とアキは顔を上げた。まさか、確かに相手の声がした。
攻撃によってできた煙が晴れて、姫兎の姿をうっすらと現していく。アキは目を見開いた。確かに、姫兎は呼吸を整えながらそこな立っていた。ニッ、と笑いながら長い金髪を後ろに払う。

姫兎のライフは0ではなく、400と示されていた。


「な、何故…」


アキは動揺したようにその場から立ち上がれないが、震えた声がやっと喉から出た。
あの攻撃を受け止めて、立っていられるなんて。


「あの時『フルムーン・ドラゴン』の攻撃時に、手札からこの『ブラベリ・エンジェル』を墓地に捨てる事で、戦闘ダメージを半分にしたのよ」


姫兎が見せた一枚の効果モンスターカード。手札から捨てることによって効果が発動する、特殊な効果モンスターだ。

ほぅ、とアキは下を向きながら息を吐いた。


「…アンタは人を傷付けたくないはず」

「ッ!」

「さっき、私を攻撃しようとした時迷いがあった、現に今も…」


姫兎はアキに歩み寄る。驚いたアキは逃げようと身体を動かそうとしたが、何故か安心と同様に動けない。
気が付けば、琥珀の瞳が金色でいっぱいになった。アキは目を見開く。姫兎が、自分を優しく抱きしめてくれている。


「心を閉ざしたら解らなくなる。光も闇も。だから…闘って答えを見つけようとした。でも違う…、本当に人に触れたいなら、相手を見ないと駄目」

「…相手を、見る…?」

「アンタが背を向けたら、誰もアンタを見る事が出来ないわ。…こっちを見て!自分を見せないと、他人も見てくれない!!」


ビクリ、とアキは肩を震わせた。
こんな事、言われた事が無い。自分を見せるには、どうしたらいい?他人と向き合うには…。
ゆっくり、姫兎の腕の中から姫兎の顔を見上げる。自分とは真逆の金色の髪に、その優しげな空の瞳。

アキは小さく、下を向いた。


「…『薔薇の刻印』の効果…、自分のターンのエンドフェイズ時、装備モンスターのコントロールを相手プレイヤーに戻す…」


アキの場にいたフルムーンが鳴き声を上げた。
アキはその竜を見上げる。真っ白い、夜の闇によく栄える光を放つ満月が眩しかった。琥珀を細める。

姫兎はフ、と笑う。


「私のターン。場に戻った『フルムーン・ドラゴン[ATK/2400]』のモンスター効果を発動、自分の墓地のレベル4以下の光属性と闇属性モンスターをそれぞれ1体ずつ選択してゲームから除外、そのモンスターの攻撃力分『フルムーン・ドラゴン』に攻撃力を加算するわ」


姫兎が選んだモンスターは光属性『イノセント・ナイトATK/1600]』、闇属性は『ディメント・ナイト[ATK/1600]』、合計攻撃力は3200。つまり、姫兎の『フルムーン・ドラゴン』の攻撃力は2400+3200で5600となる。

姫兎はアキから腕を離して立ち上がり、アキに手を差し出した。アキは動揺しながらも黙ってその手を取り立ち上がった。


「『フルムーン・ドラゴン[ATK/5600]』!『ブラック・ローズ・ドラゴン[ATK/2400]』に攻撃!
ルナ・ラジェーション!!」


アキの『ブラック・ローズ・ドラゴン』に、姫兎の『フルムーン・ドラゴン』の攻撃が炸裂する。光線がブラックローズに降り注いだ。

破壊されたブラックローズは爆発を起こさず、その薔薇の花びらをまるで光が散るように消えていく。
アキはその姿を、夢を見るかのように見つめていた。




「…アキ!」


会場の裏にある花壇に座るアキに、男が声をかけて来た。それはアキが会場でデュエルをした時、一人客席座らず立っていた男。
アキはその声に気が付くと、男…ディヴァインの名を小さく呼んだ。


「こんな所にいたのか、会場を探しても見つからないから心配したよ」

「ごめんなさい、…私…」

「良いさ、会場の騒ぎなど気にする事はない。さあ、行こうアキ」


ディヴァインはアキの手を取ると、そのまま歩き出した。アキも引かれるようにディヴァインに付いていく。

あの闘いの事、ディヴァインには伝えなかった。
さっきまで姫兎と闘っていた方を振り返る。あれは、夢だったのだろうか。本当に、そんな気分にさせられてしまうほど、不思議なデュエルだった。


「(…また、会いたい)」


その名を、次会った時に呼びたい。
姫兎、いつかまた…。






「あぁ、姫兎だ!」


龍亞の声が廊下に響き渡る。全員が龍亞の指差した方向を振り返った。そこにはこちらに向かって歩いてくる姫兎の姿があった。


「…姫兎!!」


遊星が真っ先に声を上げ、姫兎の方へ駆け出した。その声に気が付いた姫兎も顔を上げ、遊星の名を呼んだ。


「バカ!お前、ひとりで何処に行っていたんだ!!」

「ごっ、ごめんっ!ちょっと野暮用があって…!」


ヤバイ、という顔をしながら慌てて謝る姫兎。遊星の後ろの氷室たちも「探したぞ」とか「危ない事をして」など結構責められる。
何が野暮用だ、と遊星は息を吐く。


「…無事で良かった」

「え…」


ふと呟いた遊星の言葉。気が付けば姫兎は遊星に抱き寄せられていた。


「ゆっ、遊星!ちょっと…!」


真っ赤になりながら姫兎は慌てるように声を上げた。だが、遊星は無視をして確かに姫兎がいると、姫兎の体温を確認するように優しく抱きしめる。
その温かさを感じ、姫兎もいつの間にか大人しく遊星の腕の中に埋まった。

ちなみに後ろでは氷室が男子供2人(龍亞と天兵)の目を隠しているとは知らずに、だ。
場所を弁えない2人だが矢薙は「若いねぇ〜」と、ケタケタ笑っていた。

その時、遊星はふと姫兎の髪に一枚の花びらが引っ掛かっている事に気が付いた。
そっと拾い上げる。真っ黒な、薔薇の花びら。

これは…遊星は姫兎が今まで何をしていたか、直ぐに解った。だが、無事に帰って来たのだからこれ以上は追究しない事にした。






「…これで確定しました。
雪鏡姫兎は、シグナーの頂点シグナーマスターに間違いありません」






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