TURN-04>>
想いを守れ!インセクトデッキ蟻地獄の罠

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「俺からいかせてもらうぜ、ドロー!」


お互いライフは4000から。そして先行は瓜生。瓜生は自分のデッキからカードを1枚引く。
姫兎はじっと睨み付けるような眼差しで、腕を組みながら瓜生の出方を伺った。

あれだけの口を叩いたのだ。いくらひん曲がった性格でも、デュエルの腕は自信がある方のようだ。姫兎は瓜生自身の事は先程の出来事で大いに嫌いになったが、デュエリストの本能故、やはり瓜生のデッキは気になる。


「手札より『電動刃虫(チェンソー・インセクト)[ATK/2400]』を召喚!」


瓜生の場に現れたのは、レベル4モンスターの中で最高クラスの攻撃力を誇る昆虫族モンスター『電動刃虫(チェンソー・インセクト)』だ。
さすがに1ターン目から攻撃力の高いモンスターが現れては、姫兎やナーヴたちも目を見開いた。


「いきなりプレッシャーかけてきやがったな…!」

「でも、強いカードを扱うにはそれだけのタクティクスが必要よ。『電動刃虫(チェンソー・インセクト)』は戦闘を行った場合、ダメージステップ終了時に相手プレイヤーはカードを1枚ドローする効果を持ってるわ」

「つまり、場合によっては遊星が有利になるって事か?」


ブリッツの問い掛けに、姫兎は静かに頷いた。
だが、今の状態を見ても遊星が次のターンで攻撃力2400のモンスターを召喚するのは容易ではない。モンスターの効果のリスクがプラスになるかマイナスになるか、それはデュエリストの腕に全てがかかる。


「(…どう来る…?)」

「さーらーに!永続魔法『蟻地獄の報復』を発動!」


瓜生がカードをセットすれば、瓜生の目の前に砂を引き込む蟻地獄が現れた。その蟻地獄を見て姫兎は思わず眉を寄せる。
永続魔法『蟻地獄の報復』は、互いのモンスターが破壊されるたびに、そのモンスターのコントローラーは800ポイントのダメージを受ける。だから瓜生はモンスターを簡単に破壊されないよう、パワーモンスターを出してきたという事。


「自分にもリスクの高い魔法だけど…ちゃんと効果を補うモンスターを出してるわ」

「なるほど…」

「だからこの魔法を出したのか…。そんだけ、自信があるって事か」


姫兎の説明にタカとブリッツが納得したように頷き口を開く。だが、姫兎は瓜生への納得の前に遊星の心配が先立った。

遊星のデッキはシンクロ召喚の為、殆どのモンスターの元々の攻撃力はあまり高くないのはいつも闘いを見ていた姫兎はよく知っている。次の遊星のターン、『電動刃虫(チェンソー・インセクト)』の攻撃をどう受けるのか。


「(遊星…)」


私、あいつらのトコには行きたくないからね!と、賞品のように物扱いされた苛立ちを含めた姫兎の心の叫びを聞き取ったのか、或いは姫兎の心配に気が付いたのか、遊星はふと姫兎の方に顔を向けた。
いきなりだったので胸が高鳴った姫兎に対し、遊星は僅かに微笑んで小さく頷いた。


「(…なっ、なに今のドキッての…!?)」

「どーだラビット!少しは俺に惚れたかーっ!?」


身になれない鼓動を感じ、顔を赤くし胸を押さえていた姫兎。
だが、姫兎の思考に割入ってきた瓜生の言葉に、一気にその感覚を無くし仏頂面に変えた。


「バカーッ!!そんなワケ無いでしょーが!」

「ま、これはまだ序の口だしな、俺はここでターンエンドだ。見せてやるぜ?『パワー・インセクトデッキ』の恐ろしさをよ!」

「よっ、瓜生さん最高っ!」

「シッシシー!」


パワー・インセクトデッキ、姫兎の予想通り瓜生は昆虫族の使い手、さらには力で征するパワータイプデッキのようだ。それとは別に瓜生が終了を宣言すると、やたらと瓜生の取り巻きたちがやかましくなる。


「女ーっ!早く瓜生さんに惚れちまえよー!!」

「シシシーッ!」

「はいそこ黙るっ!!」


瓜生の後ろで姫兎を茶化す取り巻きたち。…だったのだが、姫兎が怒りマークを飛ばしながら人差し指で取り巻きを指差しながら怒鳴ると、取り巻きたちはすぐに肩をすくませていた。
どうにも取り巻きたちは姫兎が苦手の様子。


「(黙ってれば、ラビット美人なんだけどな…)」

「オレのターン」


ナーヴの心の呟きの後、眉を寄せ少々苛立った様子を見せた遊星。瓜生や取り巻き達に、これ以上余計な言葉を言わすまいというようにカードドローを宣言した。

そして迷いなく1枚のカードを手札から外し、そのままディスクにセットする。


「手札より『シールド・ウォリアー[DEF/1600]』を守備表示で召喚!さらにカードを1枚伏せてターンエンド」


今の場合、相手の『電動刃虫(チェンソー・インセクト)[ATK/2400]』の攻撃力を超えるモンスターを出すのは厳しい。今は伏せカードを頼りに防戦になるになるしかない。
…と、姫兎やナーヴたちが思っていた矢先に瓜生たちが声を上げて来た。


「はっ、チキン野郎め!ちまちま守備表示とはよ!」

「ホント、笑っちゃうっス!」

「シシシッ!」


3人は明らかに遊星を舐めきっていている。それはあの瓜生たちの子供のような態度を見れば分かる事。
あれはデュエリストとして最悪と言ってもいいくらいの致命傷、相手をけなして真の勝利を掴む者なんていない。相手に敬意を持てないデュエリストなんて、勝利を取っても空しいだけだ。


「アンタたち、子供じゃないんだから少しは黙って見てなさいよ!」


そう考える姫兎は、キッと瓜生と取り巻き睨み付ける。「ひっ!」と声を上げ肩をすくませる取り巻きとは違い、瓜生は両手を上げて降参のポーズ。だが、顔は降参ではなく笑っている。

姫兎は瓜生に反論するのがなんだか嫌になり、力を抜き取られたように頭を落とした。そんな姫兎の頭にナーヴがポンッと手を置き撫でてやる。
顔は「諦めろ」と言っている。


「(あれか?瓜生のヤロー、実はMだったりするのか?)」

「そんじゃ、俺のターンだ!」


呆れた様子…いや、もうほぼ哀れな目で瓜生を見つめるブリッツの思考は、恐らく隣にいるナーヴやタカも分かち合えるだろう。

そんな事気が付かず瓜生は機嫌良くカードを引いた。姫兎は既に瓜生に対し引いている(※意味が違う)。


「『代打バッター[ATK/1000]』を召喚!」


名前通り、怪しいバッタが瓜生の場に現れた。
瓜生が出した『代打バッター』は、このカードが場から墓地へ送られた時に、プレイヤーは自分の手札から昆虫族モンスターを1体特殊召喚できる効果を持っているカード。
戦闘でもカード効果でも、とにかく場から墓地へ送られればこの効果を使用できるのだ。手札に強力な昆虫族モンスターがいれば、この効果はかなり有利に持っていける事になる。


「さーらーに!手札より昆虫族モンスター1体を墓地へ送り、『闘虫仮装』発動!」

「あれはっ…!」


頭を落としていた姫兎が急に復活した。
瓜生の発動した『闘虫仮装』という魔法カードの名を聞いた途端だった、何かに気が付いたのだろう。


「ショータイムの始まりだぁーッ!」

「「イエーイッ!」」

「ラビット!お前の男になる奴の活躍、よーっく見とけよ!」


無駄にテンションが高い瓜生一味。
最後の瓜生のセリフは姫兎向かって言ったのだが、姫兎は「そんなモノどこにいるのかしら」と、言うようにわざとらしく辺りをキョロキョロ見回し、スルーした。
その時再び遊星と目が合い、お互い様またしても顔をほのかに染める。
恥ずかしかった、いきなり過ぎて目のやり場に困ったのか、この感覚が分からずふたりは同時にそっぽを向き合ってしまった。
そんな姫兎にナーヴたちはとっくに気が付いていた。


「(全くコイツらは…こんな時まで…)」

「(ぜってー分かってねェな…)」


はぁ、とその場で顔を押さえため息をついたナーヴとブリッツ。その理由は当の本人たちは勿論知らない。
友の心、我ら知り本人知らず。


「『闘虫仮装』の効果により、昆虫族モンスターを手札に加える。その後、フィールド上の昆虫族モンスターを1体破壊する!」

「自分のモンスターを破壊だと!?」


びしっと構える瓜生の前にいる先程召喚されたばかりの『代打バッター』が爆発音と共に姿を消し、つまり破壊され墓地へと送られた。

その瞬間タカが驚愕の声を上げる。当然だろう。
モンスターが破壊されるたびにダメージを受ける『蟻地獄の報復』が存在しているのに自ら自分のモンスターを破壊したのだ。
余程余裕があるのか、そう考えているうちに瓜生に向かって、効果が発動した蟻地獄から竜巻が起こった。


「うわっ…!?」


直撃をした瓜生は当然だがライフが800ポイント削られ、3200ポイントになる。
またさっきのように「コレを受けるのが男ってもんだ!」とか騒ぎ出すかと思いきや、竜巻が止むと何が起こったの分からないかように、目を丸くしキョトンとしていた。


「何で俺のライフが減ってんだぁ!?」

「「……」」


一同、ひとときの沈黙。
そして姫兎たちが瓜生に向かって呆れた表情になる、5人の内心言いたい事は同じだろう。

当たり前といえば、まあ当たり前か。


「アンタ…自分が出した魔法くらい見直しなさいよ」

「確かに、そりゃお前の永続魔法の効果だろうが」

「ん?」


永続という言葉をご存知ですか、瓜生さん。
破壊されないかぎりはずっと場に残る魔法カード、まさか自分の出した『蟻地獄の報復』の存在を忘れているとは。もはや姫兎とブリッツはツッコむ気力も失せてしまった。

そんなふたりとは真逆に当の瓜生は「おー、そーだったぁ!」とディスクを見ながら頭を押さえていた。


「だがなぁ、このくらいどうってことないぜ!見やがれ!この時、『代打バッター』の効果を発動!」


馬鹿は立ち直りが実に早い、瓜生はまたテンションを上げて叫び出した。そう、この時破壊された『代打バッター』の効果が発動する。

破壊されて初めて発動する『代打バッター』の効果、それはこのカードが馬鹿らしい破壊され墓地へ送られた時、手札から昆虫族モンスターを1体特殊召喚できる。
わざわざライフを払ってまで(というか、忘れていたらしいが)『代打バッター』を破壊してこの効果を使った、つまり瓜生の手札には余程強い昆虫族モンスターがいると考えておかしくない。
瓜生は自分の手札からカードを一枚取り笑っていた。


「『メタルアーマード・バク』!攻撃力2800!!蟻地獄の効果を受けても、こんだけのモンスターを呼べたら儲けモンよ!」

「でけェ…!!」


突如現れた巨大な昆虫モンスターに思わずタカが声を上げる。
よく出来たソリッドビジョンとはいえ、さすがに迫力ががある、ラリーは思わず姫兎にくっつきの服の裾を掴む。思った以上、驚きのあまり姫兎も目を見開いていた。


「またとんでもないヤツを出してきたぞ…っ」

「あの『代打バッター』の効果を活かすために、『闘虫仮装』でワザと破壊したんだな」

「ライフを削っても…これだけの攻撃力を持ったモンスターを出せれば、リスクとして十分過ぎる…」


ナーヴ、ブリッツに続き姫兎が自分の顎に手を添えながら瓜生のタクティクスを分析。これはある意味で姫兎の癖ともいって間違いない。
人の振り見て我が振り直せ、他人のデュエルは誰であろうと自分のデュエルの改善点探しに勉強になるものだ。


「まだまだ!お楽しみはこれからよ!墓地の昆虫族モンスター2体をゲームから除外する!これにより、手札から『デビル・ドーザー[ATK/2800]』を特殊召喚!!」

「攻撃力2800が2体…っ!」


姫兎が思わず声を張り詰める。

遊星の場には守備力1600の『シールド・ウォリアー』しか存在しない、攻撃力2400と2800が2回かかってくる、無傷では済まないだろう。
と、同時に瓜生はバトルフェイズへと進めた。


「さあて、インセクトモンスター軍団のバトル!いくぜ!」

「(遊星…っ!)」


壁モンスター1体に対し相手は3体、最悪なこの上ない。姫兎の内に僅かな焦りが生まれた。


「まずは『電動刃虫(チェンソー・インセクト)[ATK/2400]』で『シールド・ウォリアー[DEF/1600]』を攻撃!」

「…っ、罠(トラップ)発動!『くず鉄のかかし』!」


遊星の場に伏せてあったカード表向きに変わる。

この『くず鉄のかかし』の効果は1ターンに一度だけ、相手モンスターの攻撃を無効にする事が出来る攻撃カウンターカード。
この罠(トラップ)効果で『シールド・ウォリアー』の前に現れた『くず鉄のかかし』が、変わりに『電動刃虫(チェンソー・インセクト)』の攻撃を受け、何とか『シールド・ウォリアー』の破壊は免れる事が出来た。

とにかく一度目の攻撃をカウンターし、最悪のパターンは免れたことになる。姫兎は小さく安堵の息を吐いた。


「さらに、『くず鉄のかかし』をセットした状態に戻す」


このカードは使い捨て罠(トラップ)ではない。
発動後は破壊されないかぎりそのままセットし直すことが出来る特殊な罠(トラップ)カード。


「ケッ、一回は凌いだろうがこっちには後2体いるんだぜ!『メタルアーマード・バク[ATK/2800]』!『シールド・ウォリアー[DEF/1600]』を攻撃!!」

「…ッ、『シールド・ウォリアー』…!」

「そーら来た来た!!永続魔法『蟻地獄の報復』の効果で、お前のライフを削ってやる!」


高らかに瓜生が叫ぶと先程のように蟻地獄から砂嵐のように、巻き起こった竜巻が遊星を800ポイントのライフを削った。

これで遊星のライフは残り3200、だがここで安心は出来ない。


「『デビル・ドーザー[ATK/2800]』、ダイレクトアタック!!」

「…ッ…!!」

「「遊星っ!」」


ナーヴたちが声を張り上げる。

この攻撃により一気に遊星のライフは400ポイントへと引かれた。直接攻撃は厳しい、この攻撃のダメージに遊星は顔をしかめた。


「遊星のライフが…っ」

「さっすが瓜生さん!」

「シシシシッ!」


口を押さえて慌てた表情を遊星に向ける姫兎。取り巻きたちが大いに騒ぎだすが、今回は睨み付ける余裕が無くなってしまった。


「このままじゃラビット、本当に奴らに連れていかれちまう…!!」

「そ、それは嫌ッッ」


焦るナーヴの言葉の内容は、実に鳥肌が立つ。姫兎は自分の両腕を押さえた。


「どうだ!反撃してみろや!」


勝ち誇った表情で遊星に向かって叫ぶ瓜生。

すると遊星はダイレクトアタックに耐える為に自分の顔を覆った腕を解くと、瓜生に対し身構える前に姫兎の方へと目を向けた。


「…ゆう、せい?」


その紺碧色の眼差しは何も言わないが真っすぐで、姫兎は思わず言葉を無くす。
姫兎はまるで、その瞳で遊星が「必ず勝つ、だから信じていろ」と言っているように感じた。それを感じた姫兎は不安そうな表情を無くし、「遊星を信じてる」と力強く頷いた。

姫兎が頷いたのを確認すると、遊星は自分の言いたいことが通じたと確信したように姫兎に向かって微笑む。
そしていつもの落ち着いた表情に戻り、再び瓜生に向き合った。


「オレのターン」


静かにカードをドローする。そしてドローしたカードを横目で確認し、手札に納めると元から手札にあったカードを選択した。


「オレは手札より『スピード・ウォリアー[ATK/900]』を召喚!」


遊星の場に現れたのは遊星のキーカードを召喚する為に必要としているモンスターのひとつ、『スピード・ウォリアー』だ。

このモンスターの登場に姫兎もナーヴたちも、何かを期待するように目を輝かせた。


「さらに手札より、魔法(マジック)カード、『二重召喚(デュアル・サモン)』を発動!この効果により、このターンにもう一度だけ通常召喚を行う事が出来る」

「…まさか、遊星っ!」


姫兎が笑顔で遊星に名を呼び掛けると、遊星はそれに応えるように手札にある1枚のカードを指に挟んだ。

それは姫兎、勿論ナーヴ達も期待したカード。


「チューナーモンスター『ジャンク・シンクロン[ATK/1300]』を召喚!」


待ってました!というかのように喜ぶナーヴたちの腕が上がった。
その期待に応えるかのように『ジャンク・シンクロン』は光を帯び、鈴のような音と共に『スピード・ウォリアー』が並んだ3つ輪を通過する。


「『スピード・ウォリアー[LV2]』に『ジャンク・シンクロン[LV3]』をチューニング!
集いし星が、新たな力を呼び覚ます――…光指す道となれ!シンクロ召喚!いでよ、『ジャンク・ウォリアー[ATK/2300]』!!」


閃光の電波を放ち、遊星のキーカードである『ジャンク・ウォリアー』が姿を現した。
ナーヴたちの元からは歓声が沸き上がる。


「なにっ…!?コイツ、シンクロ召喚を使うのか…!」

「なんて事ありませんぜ瓜生さん!まだまだ余裕!」

「シシーッ!」


遊星の場に出た『ジャンク・ウォリアー』を見て驚愕する瓜生をフォローするかのように、取り巻きたちが声を上げるが、取り巻きたちにも僅かな焦りが見える。
いくら瓜生のモンスターの攻撃力が『ジャンク・ウォリアー』を上回っていても、シンクロモンスターの効果は油断できない。

今度は遊星側が盛り上がる番だ。姫兎は拳を振り上げる。


「遊星、『ジャンク・ウォリアー』いけーっ!」

「更に手札より、装備魔法『ファインティング・スピリッツ』発動!」


姫兎の歓声の後、遊星が繰り出した魔法カードの効果により『ジャンク・ウォリアー』の腕に3つの輪が通される。
装備魔法、攻撃力や守備力を上げたり効果を追加したりと色々だが、この場合攻撃力を上げる効果に近いものだと考えてまず間違いないだろう。


「『ジャンク・ウォリアー[ATK/2300]』の攻撃力は、相手モンスター1体につき300ポイントアップする!」

「相手は3体!合計900ポイントのアップだ!」

「すげー遊星!!」


タカに続き、姫兎にくっついているラリーも声を上げる。

この装備魔法効果で『ジャンク・ウォリアー[ATK/2300]』の攻撃力は3200へと跳ね上がった。
つまり、瓜生の場の最高攻撃力を持つ『メタルアーマード・バク』と『デビルドーザー』の攻撃力2800を上回った事になる。


「なにっ…!俺のインセクトモンスター軍団のパワーを上回るのか!?」

「そんなのアリっすか…」

「シッシシーッ…」

「さらに永続魔法『ドミノ』を発動」

「『ドミノ』…?な、なんだそれは…」


遊星が瓜生に見せたカードは永続魔法『ドミノ』。
効果はまだ説明されなかったが、いきなりモンスターの高い攻撃力を1ターンで上回られ、次は何をするのか瓜生はビビッているようだ。


「『ジャンク・ウォリアー[ATK/3200]』!『電動刃虫(チェンソー・インセクト)[ATK/2800]』を攻撃!スクラップ・フィスト!!」

「うわっ…!!」


そのまま『電動刃虫(チェンソー・インセクト)』はぐらりと体制を崩しかける。そして2体のモンスターの攻撃力の差は800ポイント、よって攻撃を受けた瓜生のライフは2400へと削られる。

すると遊星は相手モンスターが倒れそうになるのを見届けると、自分の場にセットされてる2枚のカードをディスクから外した。


「そしてオレは今、『くず鉄のかかし』『ファインティング・スピリッツ』の2枚を墓地へ送る。さあ、これが『ドミノ』だ」


遊星の言葉と同時に、突然体制を崩していた『電動刃虫(チェンソー・インセクト)』は耐え切れず、隣にいる『デビル・ドーザー』と『メタルアーマード・バク』へとのしかかった。
そのまま瓜生のモンスター3体はドミノ倒しのように崩れ、道連れといっても言いように破壊されていった。


「『ドミノ』は、相手フィールド上のモンスターが破壊され墓地に送られた時、自分フィールドのカード1枚を墓地に送るごとに相手モンスターを1体破壊する」

「…そうか!墓地に送った2枚のカードで、『デビル・ドーザー』と『メタルアーマード・バク』がドミノ倒しで破壊されたんだ!」

「アイツの場で破壊されたカードは2枚…つまり…!」


ラリーが嬉しそうに声を上げる隣で姫兎は小さく呟く。そして何かに気が付いた途端言葉の最後に力が入った、そう、この闘いの勝敗が決したのだ。

遊星は静かに瓜生に人差し指を向けた。


「じゃあお前が仕掛けた『蟻地獄の報復』…受けてもらおうか」


瓜生の場にある永続魔法『蟻地獄の報復』、場のモンスターが破壊されるたびに800ポイントのダメージを受けるカード。
そう、瓜生が遊星の『ドミノ』で破壊されたモンスター合計3体、つまり受けるダメージは800×3で2400。そして瓜生のライフもちょうど2400。

瓜生は『蟻地獄の報復』の効果ダメージを受け、ライフは0となり遊星の勝利となった。


「やったっ!」

「遊星の勝ちだ!」

「やったわ遊星ーっ!」


ブリッツにタカ、そして歓喜に姫兎に飛び付いて抱き着くラリーに片手を添えながら拳を上げる姫兎。

それとは別に、遊星の正面で瓜生は力が抜けたように膝をついた。


「そ、そんなバカな…」


そう呟く瓜生の後ろの取り巻きたちも驚きを隠せていない表情。
すると遊星はゆっくりと瓜生に向かって足を踏み出した。


「昔…オレの友がこんな事を言っていた」


遊星がふと口を開くと、姫兎やナーヴたちの視線は遊星に集まった。そして遊星は瓜生が座り込む目の前で足を止める。


「デュエルは、モンスターだけでは勝てない、罠(トラップ)だけでも魔法(マジック)だけでも勝てはしない」

「(…遊星、それって……)」


遊星や仲間たちが思い出したのは2年前のあの出来事。
そして遊星は昨日見たあの夢の続きを、忘れもしないあの日の事を思い出して一度目を閉じ、痛む胸を押さえながらあの時ジャックに言われた言葉を重ねる。




『全てが1体となってこそ意味を成す、そしてその勝利を築き上げる為最も必要なのは――…

…ここにある』





その時ジャックが指した位置、それと同じ場所を同じように親指をあてる。
そう、そこは人間の『心』があるといわれる胸の位置。


「友は、それは何かは言わなかった…だがオレには分かる。全てのカードを信じる『デュエリストの魂』だ!」

「…遊星…」


姫兎は同じように自分の胸に手をあてる。
カードを信じる『デュエリストの魂』、それは人に必ず存在する心のありよう。姫兎は愛おしそうに微笑み、ゆっくり瞳を閉じた。

すると瓜生はふんっ、と笑うとその場を立ち上がり、遊星と向き合った。


「ふん…、言ってくれるじゃねェか」

「アンタならきっと分かるわよね」


姫兎がふたりの方に向かって歩みながらそう瓜生に対して口を開いた。近付いてくる姫兎の声に気が付いた遊星と瓜生は、ふと姫兎の方を振り返った。

そして遊星の隣に立った姫兎は腕を組みつつ、笑顔で瓜生を見上げた。


「最後は見事な散りっぷりだったけど、それまでは…まあ、魔法の使い方さえ気を付ければ強いじゃない!」


ね、遊星?と隣の遊星に笑顔で首を傾げると、遊星は赤くなりつつも姫兎に笑顔で頷いた。

すると瓜生はふと瞳を閉じ、口元に孤を描いて微笑んだ。


「ふん、まあ…今回は身を引いてやる。だがこれで終わりじゃねェ…次は俺が勝つ」

「…いいだろう」


遊星はつられるように笑みを見せる。

邪魔したな、そう言って瓜生は背を向けて去っていくかと思った途端、ふともう一度姫兎の方を振り返った。


「おっと、忘れるところだった!」


瓜生はいきなり姫兎の顎に手を添えると、頬に自分の唇を落とした。
…つまり、頬にキス。


「「な!?」」

「え!?」

「…!!」


当然キスをされた姫兎は勿論、ナーヴたちまで驚愕の声を上げる。
遊星は目を見開いた後、慌てて瓜生から姫兎を引ったくるようにして隠すように自分の胸に納めた。そして、まるで姫兎に触るなというように瓜生を睨み付ける。


「じゃ、またなラビット」

「いよっ!瓜生さんカッコイイっす!」

「シシーッ!」

「ば、馬鹿か―――ッッ!!」


遊星の腕の中で大騒ぎしながら、とっても満足げに去っていく瓜生の背中に怒鳴る姫兎。

その瓜生をぽかんと見つめるナーヴたち、そしていつになくピリピリしたように睨む遊星が残されたのだった。


「……姫兎」

「ふ、不意打ち…」


自分の腕の中で頬を押さえ、ずーんと沈む姫兎の名前を呟く遊星。

その後ろではなにかを察したのか、ナーヴたちがそそくさと席を外すように音を立てずその場を去っていった。


「姫兎、こっち見ろ」

「へ」


遊星に呼ばれ姫兎は落ち込んだ表情で遊星の方を向いた。すると、服の袖で乱暴に姫兎の頬を拭き始めた。


「何々痛い遊星!顔痛い痛いってば!」

「我慢しろ」


バタバタ両腕を振る姫兎を気にせず、遊星は姫兎の頬を拭くと瓜生が唇を落とした位置に同じようにキスをする。
もはや遊星はギャラリーがいない事も分かっていない状態、もはや周りは見えていないようだ。

勿論、本日2度目であり真っ赤になる姫兎。


「ゆ、ゆゆゆっ、ゆゆーっ!?」

「そんなに慌てるな」


声にならない程喚いてる姫兎、先程瓜生に不意打ちをやられたより騒いでいる。

しかも顔は真っ赤。


「な、なんでなんでななっ!?」

「…だから姫兎、オ、オレは……」


なんだか遊星の顔が赤い上に照れ臭そうに言葉を濁らしている。
珍しい、と思ったのか姫兎は暴れるのをやめてキョトンと遊星の顔を覗く。


「オレは、…なに?」

「オ、オレは……。…、姫兎の事が…」

「―――…すな!わ、ば、馬鹿っ!押すなって…!!」

「「うわ――っっ!!」」



ドカドカドカッ

パフッ



突然人が倒れる音に驚き、遊星と姫兎は体を離し音のした方へと目をやる。そこには下からタカ、ブリッツ、ナーヴ、そして1番上にはちょこんとラリーが乗っていた。
ナーヴたちは遊星と姫兎の視線を感じると、バレているにも関わらずゆっくりと起き上がると遊星たちに背を向けて去ろうと足を動かした。


「……おい」

ギクッ

「「ご…ごめんなさアァァァアいッ!!」」


鬼のように鋭い眼差しに地から湧き出たような低い遊星の声に、一度肩を竦めたナーヴたち。
そして謝罪の声を上げながら逃げるナーヴたちを、遊星は怖いオーラを放ちながら無言で追い掛けていった。

…肝心な姫兎を残して。


「…な、なんなのよ?」


どうやら姫兎は遊星の想いを知る事も、自分の想いに気が付くのもまだ先のようだ。






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