TURN-19>>
開催されたフォーチュンカップ!それぞれの宿命
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現在フォーチュンカップ会場控室から外れた廊下。そこでは遊星を始めとした応援席の姫兎や氷室に矢薙と天兵そして龍亞と龍可がいた。
「どう遊星?龍可にそっくりでしょー!」
だがひとつ普段と違う、龍亞が龍可と同じように髪を高い位置にふたつまとめ、おまけに口紅を濃く付けていること。
本来、フォーチュンカップへの招待状を受け取ったのは龍可だが、龍可は出る意思が全くない。そこで出たいと喚く龍亞が龍可に変装して大会へ出るというのだ。
その為、普段後ろでひとつに結っている髪を、龍亞は今日だけ普段の龍可と同じように高い位置でふたつに結っている。
「流石双子、全然解らんよ」
「でしょでしょでしょー!」
矢薙が一言いえば肯定されたことに喜び、龍亞はいつもの様子でその場を跳ね上がる。だが怒った龍可本人から足蹴りを喰い、龍亞は「ぁいたっ」と、小さく悲鳴を上げる。龍可は頬を膨らませていた。
「私、そんなんじゃない!」
龍可は龍亞が変装しているとばれないように、髪を帽子で隠し普段の服もコートで被っている。
だがめげない龍亞。まあまあ、と言いながら龍可の肩を楽しそうに叩く。
彼にとって憧れであるキングジャックとの闘いも期待がされ、舞台でデュエルが出来るというだけで既に浮かれ上がっている。そんな双子の兄に龍可は呆れたように息を吐いた。
そんな双子に笑いつつ、姫兎は遊星の方を向く。
「遊星、相手はあの治安維持局よ。いつ何があってもおかしくないから気を付けて」
「ああ、大丈夫だ、姫兎も用心しろ」
「私を誰だと思ってるのよ」
ふんっ、と言いそうな勢いで挑戦的に笑い、握りしめた拳を見せ付ける姫兎。
それもそうだな、と一言漏らしながら遊星は瞳を伏せた。そして次に真剣な眼差しで、姫兎の隣に立っている氷室の名前を呼ぶ。
「姫兎を頼む」
「…ああ。このフォーチュンカップ、なにか仕組まれたものに違いない。気をつけろ」
遊星はゆっくり頷く。
重々承知だ。わざわざ自分たちの仲間の居所を掴み、人質にしてまでこのフォーチュンカップへ出場させようとしている。
それは恐らく、シグナーを探していると考えて間違いない。あれだけ収容所で調べられたのだ。
自分にはシグナーの可能性がある。その事をこの大会で完全に暴き出すつもりだろう。
そして―――…。
遊星はちらりと姫兎を見る。
シグナーマスター。
赤き竜の存在を呼び起こす鍵となる人物。姫兎にその可能性が秘められ、しかも運悪くその事を治安維持局の局長に感づかれてしまっている。
大会の最中でも、姫兎に何かをして来るかもしれない。
「じゃあ遊星、行きましょうか?」
龍亞が女性のくねくねした口調でそう言えば、遊星は「ああ」と短く返事を返す。
そして2人は姫兎たちが後ろから見送る中、会場の方へと歩いていった。途中遊星が龍亞へ「化粧はやめておいた方がいい」等と短く会話を繰り返す。
そして、小さく後ろを振り返った。
「(姫兎、この闘いはお前を護る為にも…)」
負けられない、もう。
歓声の沸き上がる会場へ、足を進めた。
「Every body listennnn!!デュエル・フォーチュンカップついに開幕ー!」
長官ゴドウィンの座る前で、リーゼント頭のハイテンション司会実況のマイクから通じたその声は会場に響き渡った。それにつられるよう会場に詰め寄せた何万とも云っていい観客たちの歓声が一気に沸き上がた。
姫兎たちはその中に混ざり混むように座っている。
歓声で騒ぎ立てる観客の中に、特に興味なさげにしているので割と目立つように見えるが、周囲の人々の視線は全てて会場に向けられているので、誰も姫兎たちのマーカーに気付くものはいない。
「…ん?どうした姫兎」
そんな中、姫兎が女性らしかぬように足を組んで頬杖を付いて物凄く不快そうな表情で会場を見ている。
気が付いた氷室が声をかけた。
「こーゆー無駄にギャーギャー騒ぐ場所に慣れてないのよ。不・快!!窮まりないわっ」
「そ、そうか…」
不快、を完全に強調。ギスギスとした姫兎の表情に苦笑する氷室。
すると突然、より一層会場の歓声が高まり、自然と姫兎と氷室の視線はフィールドへ向けられた。
途端に突風が巻き起こる。
「―――…あっ、!」
姫兎が小さく声を上げる。
突風の中から現れたのはあの『レッドデーモンズ・ドラゴン』。そして次に『D・ホイール』に乗って現れたのは…。
「ジャック!」
姫兎は立ち上がる。
周りからは女性ファンだろうか、ジャックコールが黄色い声で響く。普段の姫兎ならウザったいと顔を歪めるところだが、今の姫兎は見慣れた『D・ホイール』でコースを一周するジャックを見つけたことに意識を持って行かれていた。
そしてジャックは高い台座で待つ『レッドデーモンズ・ドラゴン』の元に飛んだジャックは、『D・ホイール』から降りると空へ指を突き上げた。
「キングはひとり、この俺だ!」
いつもの決めゼリフを放つと、生で見るジャックに周りの興奮はピークに達していた。
するとジャックは周りの観客を見回し始めた。そして何万もいる観客中、姫兎と視線を合わせた。姫兎は目を見開く。
「(そうだ、私もジャックに言わないといけないんだ…)」
分かってた。
ジャックは自分に好意を寄せてくれていた。でも自分はいつもその想いから逃げていた。何故?
心の中で分かっていたんだ。
自分は恋愛対象でジャックを見れていない…、それは。自分の心には、いつも遊星がいたから。
「(…私は)」
遊星が好き。…やっと、やっと分かった。
だからジャックの想いには答えられない。いつまでも引きずってなんていられないはず、彼の中でも自分の中でも。
怖いのは…。
「(仲間に戻れなくなったら…、どうしたらいいの?)」
あまりにも自分の中では我が儘で、自分勝手な理由で。今までこんな想いを感じたことがないから、どうしたら良いのか解らない。
遊星にも、ジャックにも。二人に自分の気持ちを言ったら、もう昔のような関係には戻れなくなってしまうんじゃないか?
…幼い頃には、もう。
「キングとのドリームマッチを賭けて、幸運のチケットを手に入れたデュエリストたちよ!」
そんな姫兎の思考を遮るように、マイクスピーカーから司会者の声が会場中に響き渡った。つられて姫兎もフィールドへ視線を落とす。
フィールドの床が開き、下から上がって来たのは遊星や龍可に変装した龍亞を含めた、招待状を受けたというデュエリストたちが姿を見せた。
そんな中、観客席の人々の視線はある一人に注がれる。
「おいおい、マーカー付きがいるぞ」
「本当だ」
そう、遊星の頬にある黄色いマーカー。
シティーの人間からしては、マーカー付きはサテライトの人間に向ける視線と同じ。
その小言は全てフィールドの遊星にも届いている。遊星は同じた表情を見せないが、隣の龍亞が心配そうに遊星を見上げていた。
「あんな奴選ぶくらいなら、俺らを選んでほしいよな」
「誰かの招待状盗んで来たんだろ」
ざわめく会場。
すると遊星の隣側にいたひとりの大柄な男が動いた。男は司会者の前に行くと、おもむろにマイクを取り上げる。
その動きに会場はさらにざわめきを増した。
「お集まりの諸君!!」
会場は男の声に反応するように、一気に静まりを見せる。
「私の名はボマー、ここに立つデュエリストとして諸君が一体何を見ているのか問いたい。この男は我々と同じ条件で選ばれた紛れも無いデュエリストだ!カードを持てばマーカーがあろうがなかろうが、皆同じだ!この場に立っている事に何の恥じるものは無い。
…むしろ、下らぬ色眼鏡で彼を見る諸君の目は暴力の外ならない!!」
ボマーと名乗った男の言葉は静まり返った会場に響き渡る。
と、その沈黙の中に一つの拍手の音が聞こえた。その拍手をした本人、ゴドウィンはゆっくり立ち上り、マイクを取った。
「心強い言葉をありがとうボマーくん。私がこの場の用意したのはまさに今、君が語った事全てなのです」
ゴドウィンはそのまま続ける。
このデュエルは身分も貧富の差も関係無いという、聞いた事のあるような言葉に姫兎はあくびが出そうになる。だが、あのボマーという男。
そして沸き上がる歓声の中、フォーチュンカップが開催される。巨大なスクリーン画面に各対戦相手がランダムに表示された。
第1回戦は、龍亞とそのボマーという男だ。
「全て準備が完了しています。シグナーが揃うのも時間の問題でしょう…」
その後、フィールドを見渡せるキングの控え室では、ゴドウィンとイエーガーも待機をしていた。
相変わらず、妖しく笑うイエーガー。ゴドウィンは声をかけられても、ガラス貼りからフィールドを見つめている。
するとゴドウィンの横に通話モニターが現れた。
「こちらも全ての準備は調っております!後は存分にデュエルを行って頂くのみ!」
「…シグナーマスターと思われる少女は?」
「はいぃ、そちらの方も万全でございまーす!」
ピコッ、という電子音と共にモニターに表示されたのは、客席に座る姫兎の姿。その姫兎に気が付いたジャックはソファーから驚愕した顔で立ち上がる。
「頼みましたよ」
「待て貴様!!何故シグナーマスターと姫兎の関係がある!」
今まで何も言わずだんまりだったジャックがゴドウィンに掴み掛かる。だが、ゴドウィンは何も動じる様子はなくいつもの薄い笑みを見せていた。
「彼女には貴方がたシグナーの力を引き出し、赤き竜を呼び出す存在の可能性があります」
「俺が聞いているのはそんな事では無い!!何故姫兎にシグナーマスターという可能性が―――…っ!」
その途中、ジャックはある事を思い出した。はっ、と、目を見開く。
あの日、遊星と闘った時の事。
赤き竜が現れたあの瞬間、確かに自分の『レッドデーモンズ・ドラゴン』、そして遊星の『スターダスト・ドラゴン』がぶつかり合い、そして…姫兎がいた。
その光景が走馬灯のように駆け巡る。
ジャックは舌打ちをし、元座っていたソファーに全体重を落とした。
「…この闘いで、全てが解ります」
モニターには、氷室や龍可と話をしている姫兎の姿が映されていた。
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