TURN-13>>
仕組まれたデュエル!?届かない叫び

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遊星に氷室と矢薙、そして収容者全員が見守る中、デュエルは開始された。

先行は姫兎。


「私のターン、ドロー!『世紀の大泥棒[DEF/1000]』を、守備表示で召喚!!」


場に現れたのはひとりの大泥棒の姿。その一枚のカードに収容者のひとりが自分の託したカードの登場に歓喜の声を上げた。

今まで大事に持っていた、とは言っても収容所でたった一枚のカードをディスクにセットし姿を見る事が出来るなど殆どない。活躍する場面を期待するに違いない。
姫兎のターンはこれで終わる。
だが、その様子を不安げに見つめるのは氷室。


「気を付けろ。みんなの思いが詰まったデッキといっても、所詮戦略とセオリーを無視した寄せ集めデッキに過ぎない…」

「でも、きっとお嬢ちゃんなら…」


やれるような、気がする。

矢薙は姫兎のデュエルを見た事がない。だが、氷室と遊星のデュエルに対しての戦略分析、デュエリストとして詳しい知識。
そして、その未知の敵へと恐れず立ち向かう勇気。
例え少女でも、小さい背中が逞(たくま)しく見える。


「あんちゃんもそうだったが…不思議な子たちだ」


自分たちの希望を託したい、という気にさせる。

そっと呟いた矢薙は、奥先の部屋の鉄格子際で姫兎を見守り続ける遊星に視線を向けた。その表情は姫兎を信頼している、と同時にやはり不安を隠し切れていない。
ポーカーフェイスの遊星があれだけハラハラと焦りで表情を崩している。相手はセキュリティー、しかも権力を振りかざし姫兎に何をして来るか分からない所長。
不安になるのも無理はなかった。


「俺様のターンだ、ドロー!」


姫兎のターンは終わり、不吉に笑いながらカードを引く鷹栖。構えた姫兎に繋がれた鎖の痛々しい音が収容所中に響き渡る。


「『C(チェーン)・リペアラー[ATK/1600]』を召喚!」


鷹栖がそう宣言し現れたのは『C(チェーン)』モンスターの一種。モンスター効果で相手に追加ダメージを与えるのに長けている種類のモンスターだ。成る程、鷹栖は通常戦闘の他にもダメージを与えて行こうという魂胆のデッキか。
姫兎は内心で相手のデッキ内容と戦法を分かる限り分析していく。姫兎の得意分野だ。


「『C(チェーン)・リペアラー[ATK/1600]』で貴様のモンスターを攻撃!いけー!『C(チェーン)・リペアラー』!!」


鷹栖の宣言により、姫兎の場に守備表示で出されていた『世紀の大泥棒[DEF/1000]』は破壊されてしまった。
爆風が起こり姫兎は反射的に腕を顔の前に出した。

そして『世紀の大泥棒』の持ち主の収容者は、自分のカードが破壊されてしまった事を酷く残念そうにしていた。姫兎の場のカードが破壊されて喜ぶのは、目の前の敵である鷹栖くらいだが。


「この瞬間『C(チェーン)・リペアラー』の効果発動!」

「!」

「バトルでモンスターを破壊した時、相手に300ポイントのダメージを与える。覚悟するんだな…ゴミ溜めのお姫サマ」


姫兎はダメージが来るのかと身構えた。だが、その追加ダメージは予想外の方から襲って来た。

途端、自分のデュエルディスクに繋がれている鎖から僅かな電子音が聞こえて来た事に、姫兎ははっとした。
だが、その時気が付いては既に遅かった。


「きゃあぁぁぁぁあっ!!」

「!?」

「姫兎ッ!!」


姫兎が悲鳴を上げた。

繋がれていた鎖を伝って姫兎の体に電流が流れて来たのだ。ただのソリッドビジョンの域を越えた痛みに姫兎は膝を折る。姫兎の長い髪がさらりと宙を流れた。
氷室と矢薙はあまりにも有り得ない仕打ちに驚く事しか出来ず、遊星は鉄格子を掴み姫兎の名を叫ぶ。


「姫兎…姫兎…!」


やはり自分が行けば良かった。姫兎の名を力無く呼びながら後悔の大波が遊星の中で沸き上がる。
膝を付いた姫兎は下を向いてこちらを見てはくれない。

だが鷹栖は姫兎の姿に鼻を鳴らして笑うと、誇らしげに口を開いた。


「おっとすまない、まだ説明してなかったな。このデュエルディスクには特別な仕掛けがしてあって、ダメージを受けるとそれに見合った電流が流れるようになっている」

「…っ!」

「前例ではこのデュエルの敗者が生き残っているかどうか怪しいものでねえ…。生き残った者だけがディスクを外せると言ったのはそういう意味さ」


前例、という事は前にもこのデュエルを行った収容者がいるのだろうか。
しかも生き残っているのが怪しい、つまりそのデュエルをして負けた収容者は死んでしまった、という考えに辿り着く。

本来こんなデュエルをして相手を死なせてしまったら御縄ものだが、鷹栖は相手の姫兎が死ぬだろうと予想をしているらしいが躊躇が見られない。
相手が収容者なら殺しても問題無いと、命の尊さもあったものでは無い。


「俺様はカードを二枚伏せてターンエンドだ」

「こんなデュエル…理不尽過ぎる…ッ」


体に電流が流されると考えるだけでぞっとする。拷問と同じようなものだ。
遊星は鉄格子を掴むと、膝を付いたままの姫兎に向かった。


「姫兎、今から代われ!オレが奴とやる…!こんなデュエル、お前の体が持たない!」


大切な人が目の前で傷付いて、黙っていられる訳がない。なんとか姫兎をこのデュエルから助けたいという内心だけに遊星は叫んだ。
だが返って来た返事は、遊星が求めていた声でもなんでもなかった。


「それはできないなぁ…。コイツがデュエルをすると言ったんだ、途中で交代も放棄も許されはしない!ま、もしこの場でコイツがデュエルを降参(サレンダー)すると言うなら、試合放棄で俺様の勝ちだがなぁ!!」

「…ッ!」


返って来た鷹栖の理不尽な返答に唇を噛み締める遊星。
だが、それでも姫兎を危険な目に遭わすわけにはいかない。もう見ていられない。

自分が身代わりになるから、姫兎を助けてほしい。
そう言おうとしたその時だった。


「…、遊星…ッ!!」

「!」


名を呼ばれ遊星は顔を上げた。

声の先には姫兎が何とか自らの身体を支えながら立ち上がる姿が飛び込んできた。苦しそうに身体をよろめかせたが、何とかその場に立つ姫兎を見ていられなかった。
だが、その遊星の心配とは全く逆に姫兎は力強い笑みを見せた。首だけを遊星の方に振り向かせて。


「私は平気!勝てばいいんだから。私が受けたデュエルよ、投げ出すなんて私のプライドが許さないわ、遊星は見てて、ね!」


グッ、と親指を立てると姫兎はまた鷹栖と向き合った。

不意に遊星は体の力が抜けた気がした。本当か止めたいはずなのに、何処か内心で姫兎の言葉に安心したような気がしたから。どうして姫兎の言葉にはあんなに人を安心させる事が出来るのだろうか。
でも、そこもまた惹かれた場所かもしれない。遊星はふと笑みを零した。


「いくわよ、私のターン!私は手札から『ザ・キックマン[ATK/1300]』を攻撃表示で召喚!」


姫兎の場に現れた『ザ・キックマン』を見れば、その持ち主の収容者は勿論、周りの収容者たちは姫兎の場にモンスターが現れた事に活気が溢れた。鷹栖はそれを不服そうに眺めると、フンッと鼻を鳴らした。

鷹栖の場にいる『C(チェーン)・リペアラー[ATK/1600]』より『ザ・キックマン[ATK/1300]』の攻撃力は低いが、わざわざ攻撃表示で出した。というのは姫兎の事だ、なにか策があるはず。


「さらに装備魔法『ドーピング』を私の場の『ザ・キックマン』に装備!この効果により、『ザ・キックマン[ATK/1300]』の攻撃力は700ポイントアップするわ!」


禁断の薬品を飲み込んだ『ザ・キックマン』には一時的な与える。この『ドーピング』の効果により、『ザ・キックマン』の攻撃力は2000ポイントへと跳ね上がった。
これで鷹栖の場にいる『C(チェーン)・リペアラー[ATK/1600]』の攻撃力を上回った。


「『ザ・キックマン[ATK/2000]』で、『C(チェーン)・リペアラー[ATK/1600]』を攻撃!」

「そうはさせん!永続罠(トラップ)『ソウル・アンカー』!このカードは『C(チェーン)・リペアラー』の装備カードとなり、このカードが場に有る限り装備モンスターはバトルで破壊されない!!」

「それでも、ダメージ計算は適応されるわ!」


鷹栖の『C(チェーン)・リペアラー[ATK/1600]』を破壊する事は出来なかったが、『ザ・キックマン[ATK/2000]』による攻撃で鷹栖のライフを400ポイント削り、3600ポイントとなった。
これで姫兎同様、鷹栖のデュエルディスクに電流が流れるはず。

収容者全員が鷹栖にダメージが行く事に歓喜の声を上げた。


「だあぁぁぁぁぁあっ!!――…ハッハッハッハッ!!」

「!?」


電撃が降り懸かり悲鳴を上げたと思い気や、あっけらかんと鷹栖は電流が流れた気配も無く厭味に笑い出した。
そして何ともわざとらしく、芝居のかかったそぶりで不思議そうに自分のデュエルディスクを調べる仕種を見せた。


「こいつは参った。どーやらこちらのデュエルディスクは故障しているようだ」

「…!」

「なんだとっ!?」

「汚ねェぞ…!最初からそっちのデュエルディスクには電流が通っていなかったんだろ!!」


今まで黙ったまま遊星の隣で観戦していた青山が声を上げた。収容者全員が同じ意見なのだろう、青山の言葉に同意の声が投げかかっていた。
だが鷹栖はまるで謝罪も無いそぶりで淡々と答えた。


「変な言い掛かりを付けるのはやめろ、故障なんだから仕方ないだろう?」


これは収容者も黙ってはいられない。

ここまで罠を這っていとは、鷹栖は電流もデッキも全て自分が準備出来るので自分の良いように、有利なように考えられている。かなり根性が曲がっているらしい。収容者たちから「汚ねェ」と批判の声があちらこちらから飛んで来た。

自分たちの命運が賭かっているのに。


「こんなデュエルは無効だ!!」

「姫兎もうやめろ!」

「それは駄目だ、こんな事になって姫君サマには申し訳ないが…デュエルを中止する理由にならない!」


青山と遊星から姫兎に呼びかけがされるが、言葉を向けてもいない鷹栖の方から返事が返ってくる。
ふざけるな、と遊星が叫ぼうと口を開こうとすれば姫兎が先に叫んだ。


「みんな、良いわ!!デュエルはこのまま続行する!!」

「「!?」」

「どーせこんな事だろうと思ったわ、分かってて私はデュエルを受けたんだから」


全員驚きを隠せていなかった。こんな不利で理不尽なデュエル、誰が進んで受けると思うだろうか。

だが姫兎はやめない、と確かに言った。「途中でデュエルを投げ出すのは性に合わない」とか付け足したが、こんな姫兎だけ命の危険があるデュエルを続けるなど誰もが賛成できない。でも姫兎が降参(サレンダー)すれば自由が無くなる。

やめた方がいい、でもやめて欲しくない。遊星たちを除いた収容者たちは矛盾した心でただ姫兎を応援するという選択肢しかなかった。
姫兎がエンドの宣言した。鷹栖は「そうこなくては」と言うように怪しく笑った。


「俺様のターン!手札より『C(チェーン)・スネーク[ATK/800]』を召喚!!」

「?なにあれ…蛇?」

「そーよ!そして『C(チェーン)・スネーク』の効果発動!」


鷹栖の宣言を合図かのように、新たに召喚された『C(チェーン)・スネーク』は姫兎の場の『ザ・キックマン[ATK/2000]』へとのしかかるように巻き付いた。
驚いたのか『ザ・キックマン』はなんとか自らに巻き付いた蛇を払おうとするが、その力は無かった。『C(チェーン)・スネーク』の効果による影響だ。


「な、なにっ!?」

「『C(チェーン)・スネーク』は相手モンスターの装備カードとなり、攻撃力守備力を800ポイントダウンさせる!」


この効果で『ザ・キックマン』は『ドーピング』で投与した力を失った。『C(チェーン)・スネーク』に力を押さえ付けられ、攻撃力を800ポイントダウンさせられ攻撃力を1200までへと減らされてしまった。
これで鷹栖の場にいる『C(チェーン)・リペアラー[ATK/1600]』より攻撃力が下回ってしまった。


「行けェ!『C(チェーン)・リペアラー』!!」


鷹栖の攻撃宣言により、姫兎の場の『ザ・キックマン[ATK/1200]』が爆風を煽り破壊されてしまった。…と、同時に姫兎のデュエルディスクからピリッ、と不吉な音が鳴った。


「きゃああああぁぁぁっ!!」

「姫兎!!」


姫兎の身体に再び電流が走った。ぐらり、と体を揺らして何とか体制を立て直す。
だがこれでは終わらない。『C(チェーン)・リペアラー[ATK/1600]』のモンスター効果により、再びライフ300ポイント削られ、姫兎にまた電撃が襲った。
合計800ポイントのダメージにより、残りライフ3000ポイントとなる。

姫兎はがくり、と床に膝を折った。


「それだけじゃない、『C(チェーン)・スネーク』を装備したモンスターがバトルで破壊された時、コントローラーは装備モンスターのレベルと同じ枚数カードをデッキから墓地へ送らなければならない!」


破壊された『ザ・キックマン』のレベルは3。
姫兎は膝を折ったまま、震える手をなんとかデッキへと伸ばし、言われた通り効果に従いデッキの上から3枚のカードを引き、使われる事なく墓地へと送られた。捨てられたカードの持ち主はさぞかし残念だろう。

だがその姿を、鷹栖は嘲笑うようにして見下した。


「ダーッハッハ!すぐに故郷のゴミ溜めに戻してやるぞ?貴様の息の根を止めてからなぁ…!」

「…っ!!」


立ち上がろうとしても力が入らない。荒い呼吸を何とか整えるにも、頭がくらくらする。
姫兎は力無く下を向き、収容所に響く鷹栖の嘲笑う声を聞く事しか出来なかった。

次の瞬間、ぐらりと傾いた姫兎の体。遊星はその瞬間がスローモーションに見え、目を見開いた。




「姫兎―――――――ッ!!」






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