TURN-12>>
カードに賭ける思い!デュエリストの魂と共に

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「……なんだと?」


広く明るい部屋に、ジャックの低い声が響き渡った。
姫兎の名が予想外の人物、ゴドウィンから放たれジャックの瞳(め)の色が一変する。その様子を見過ごさなかったゴドウィンは内の中で口角を吊り上げた。そしてひとつの確信へ繋がる。

キング…ジャックは雪鏡姫兎の事を知っている、と。


「聞こえませんでしたか?では、もう一度言わせて頂きます。雪鏡姫兎、という少女をご存知ですか?」

「知っていたら何だというのだ」


ジャックはそう素っ気なく答えつつ、ゴドウィンに気が付かれぬようその手に大事そうに持っていた姫兎の『フルムーン・ドラゴン』を、そっとテーブルに置かれている自らのデッキの中へと滑らせた。
そして何も知らぬような顔をし、ゴドウィンには背を向けたまま腕を組む。
ゴドウィンを信頼しているわけではない。否、故郷と仲間を捨てた自分に信頼という言葉を使うのも考えられない。

特に、この男は尚更だ。
何食わぬ顔をして、何を考えているか分からない。「治安に関わる為」と、言って何でもするような人間。そんなやつに余計な情報を、ましてや自分が想いを寄せている人物の事をあっさり話せる訳がないだろう。

もし、話をしたらゴドウィンは姫兎に何をするか分からない。わざわざ彼女を危険な目に合わせる事等、できるはずがない。


「いいえ、ただの興味です。今日収容所にいた少女…少し気になる事がありまして」

「―――…!!」


ジャックは驚愕のあまり声も出ない。収容所という言葉に目を見開き、ゴドウィンの方へと振り向いた。

感情的になりやすい。性格を見抜かれているゴドウィンにまんまと乗せられてしまった。こんな反応、あからさまに「知っている」と言わんばかり。ジャックはハッ、と我に返ると慌てて体制を直した。


「…っ!仮に知っていたとしても、貴様に教える筋合いはない!何故そんな事を知りたがる!!」

「以前、《星の民》についてお話した事、覚えていらっしゃいますか?」


ジャックは口を閉じ、ゆっくりとゴドウィンの方へと視線を向けた。その眼差しは険しい。

何故、姫兎の話をしているのに《星の民》が出てくるのだろうか。ジャックの瞳(め)には興味と疑問の色が互いに混じり合っている。
ゴドウィンはジャックの興味を引いたと確認し、そのまま続けるように口を開いた。




――――場所は変わる。


遊星と姫兎達、こちらは収容所…、とは言っても、今まで居た小さな収容所ではない。
収容者が期間中生活をする大きな建物である。当然、大きくても良い所ではない。


「今日からお前たちの住む場所だ」


そう言ってひとりひとり個室連れて来られた。

その中の姫兎はかなりご立腹であった。
部屋では基本二、三人の人数で共同生活する為か置かれている二段ベッドの段一番下のベッドに姫兎は腰を下ろし、足と腕を組み不機嫌そうに頬を膨らませている。
正直、退屈なのである。

個室に分けられた時、遊星と部屋を分けられ、しかもこの部屋はどうやら使用されていなかったらしく、ひとり使用。暇になる。女だからか、セキュリティーの親切だか、男尊女卑だか分からない行いに少々不満げの様子。

そんな時、姫兎の懐辺りから小さく電子音が鳴った。「ん?」と、首を傾げ懐に手を突っ込む。そして取り出したのが銀色の海中時計。


「あ…」


忘れていた、こんな大事な物を。
サテライトを発つ前、遊星から貰っていた通信機が内蔵されている海中時計。流石のセキュリティーも姫兎の服の中までは物色しなかったので、海中時計は無事だったらしい。…したらセキュリティーが逆に捕まるだろう。

音が鳴っている、という事は遊星から通信だろうか。姫兎は海中時計の端(すみ)にあるスイッチを押した。
すると通信が繋がった機械音がし、鳴っていた音も止み変わりに遊星の声が機械独自のフィルターがかかったような音と共に聞こえて来た。


『―――姫兎、平気か?』

「全然、ひとりでつまらないわ。この際ドア破壊して抜け出しても良いんだけど」

『…やめろ』


冗談だか本気だか姫兎ならやりかねない。遊星は一言だったが、通信先で僅かに焦った様子を見せつつ本気でやめろと言っていた。

そんな時遊星の声の後ろから「誰だ?彼女と連絡か?」等と、質問責めする小さく聞き慣れない男の声が聞こえて来た。
電波が悪いのか聞こえる機械音とは明らかに違う人間の声、姫兎は聞き取ると首を傾げた。


「遊星、誰か他にいるの?」

『やあ、君の彼と同じ部屋の青山ってんだ、宜しくな』

「(………君の彼って!?)」


青山、と名乗った通信機先の男の言葉に姫兎が少々赤面してると、通信機先から「余計な事言うな」とか「照れんなって、顔赤くなってるよ」とか、ガヤガヤ騒ぎ声が伝わって来た。
しかし姫兎はほうけて聞いていなかったが。


「お嬢ちゃん…」


そんな時、姫兎は聞き覚えのある声を耳にし我に返った。ついでに軽くドアを叩く音が響く。

声のしたドアの方へ顔を上げれば、そこには小さな窓に付けられている鉄格子の間から顔を覗かせ手を振る矢薙の姿があった。そして後ろには氷室もいる。


「矢薙のおじいさん!氷室!」


今は収容者の自由時間であり、互いの部屋ヘ行き来が可能となっている。それで同じ収容所へ送られた矢薙と氷室が顔を出しに来てくれたらしい。
姫兎はふたりの顔を見るとベッドから立ち上がり、ドアの外へと出た。


「ふたりも此処に移されたの?」

「ああ、姫兎もって事は遊星もか」

「ほらっ、あんちゃんなら此処だよっ!」


いつの間にやら移動した矢薙が、姫兎の居る部屋の少し先にあるひとつの部屋の前でおいでおいでのサインをしていた。
すると矢薙の立っている部屋のドアが開き、中から片手に懐中時計を持った遊星が顔を出した。


「遊星!」

「…姫兎!」


互いに感動の再開、というように駆け寄り合った。
なんだか氷室は目を向けられなくなり、頭を掻きながら「俺たち邪魔か?」と、遊星と姫兎を指差しながら苦笑する。矢薙も同意見らしく、ケタケタ笑っていた。


「それより、一体なんでワシらはこんな事になってんの?こっち側は長期収容者の場所だぞ。ワシは奉仕作業に回されて、すぐにこっから出られるはずだったのに…」

「俺だって同じだ」


此処は長期収容者、つまり懲役の長い連中が収容される場所。
今まで居た収容所は短期で、しっかりと言い渡された仕事をすればすぐ出られる罪人のみがいる。つまり遊星たちはすぐに収容所から出られるはずだった。

だか、事態は一変して何故か長期収容の方へと移された。これは何を意味するのだろうか。
この事について心辺りがないか、と矢薙に問われるが、遊星も姫兎も考えが行き着かないのか黙っている。姫兎は小さく首を振った。


「とにかく、此処に送られて来たからには所長の鷹栖には気をつけろ。奴は権力を振りかざして好き放題してくるって噂だ」


「げ、まだそーゆータイプ居るわけ…?」

「…見つけた時勢い余って蹴ったりするなよ。姫兎ならやりかねない」

「自信ありませーん」


片手を上げ、分からない質問に答えるのんきな子供のように返事をした姫兎。

前のゴドウィンの件から、治安維持局やセキュリティーに姫兎を関わらせるわけにはいかない遊星にとって、不安はマックスに到達してしまっている。
姫兎が素直に聞く訳無いか。やれやれと遊星は小さくため息をついた。




その日の夜。

姫兎は自由時間も過ぎひとり暇そうにベッドに寝転がっていた。そんな時、突然懐中時計が鳴った。
遊星からだ。


『明日の夜、8時から9時の間に此処を出る』

「はい?」


当たり前のように前置きなく、そう言い放った遊星に姫兎はマヌケな声が出る。唐突に言われては、姫兎も理解が出来ない。
口数少ない遊星の特徴だが、これは困る。


『オレたちの部屋に抜け道がある。そこから脱出する』

「…あ、成る程ね」


すると遊星の隣から、自然と青山の声が聞こえて来た。

遊星たちは抜け穴を通り、今ネオ童実野シティーの上層部へと繋がる吹き抜けにいるという。吹き抜けはかなり高さがある。そこで、明日の夜に青山の仲間がネットでマーカーから発せられる警報システムを妨害し、ここまで救出に来てくれるという。
その計画には、姫兎は当然矢薙と氷室も混ぜたい、という遊星の声に青山は了解してくれた。


『決行は明日、8時から9時に脱出出来なければ二度とチャンスはない、いいな?』


青山の声に姫兎は「了解」と、答えた。

抜け出す、とはさしずめ脱獄犯となってしまうだろう。
そんな罪を背負う事となっても、今自分はこんな所でのうのうと生活しているわけにはいかない。氷室の話によればこの収容所に移されたからには良くて半年以上、収容(い)る事になってしまう。下手すればもっとだ。
そんな長期間なんて冗談ではない。

収容所を出て、やるべき事がある。姫兎は唇を噛みしめながら、通信が切れた懐中時計を握りしめた。




そして次の日。
昨日計画された、この収容所を抜け出す日。

――――だが、その計画は音を立てて崩れていった。

それは、ひとつの重苦しい悲鳴から始った。氷室のものだ。
声に気が付いた姫兎は慌てて鉄格子を握り外へと顔を出そうとした。そして目(ま)の当たりにしたあまりの悲惨さに目を見開き声を無くし、口元を両手で押さえる。


「氷室…っ、なんで!?」


中央にある吹き抜けに倒れる傷だらけの氷室。姫兎は友人の痛々しい姿に声が出てこない。そしてその倒れた氷室を嘲笑うように立つひとりの大男…。服装と誰が見ても腹立だしいその威張った様子から、氷室の言っていた所長の鷹栖に間違いない。

すると鷹栖は氷室を踏み付けながら、すべての収容者に聞かせるほどの声で叫び出した。


「氷室は重大な罪を犯した!この責任は此処に居る全員で償ってもらう!!今後1年、貴様らの自由時間は没収!それぞれの部屋(ごう)からの外出は禁止する!!」

「(氷室が…そんな訳無いわ!!)」


カシャッ、と鉄格子を握り鷹栖を睨み付けながら怒りに震える姫兎。先程まで氷室の姿にショックを受けたが、今は友人をあんな目に遭わせた鷹栖への怒りしか感じない。
そして周りは鷹栖の理不尽さに、「待ってくれ」「独房と変わらない」等と反論を始めた。だか、鷹栖が耳を貸す訳が無かった。


「黙れ!!貴様らゴミが何をほざく!貴様らはこの世界に不要な人間共だ!!」


ひとつの部屋の、鉄格子がミシッと音を立てた。


「貴様らごときに自由も権利も無い!!あるのは永遠に日陰でこそこそ生き続ける惨めさだけだ!貴様らもこいつと同じ目に遭わせてやる!ハッハッハ…」

「いい加減にしなさいアンタ!!」


鷹栖の下品な笑い声が遮られた。

ひとりのソプラノで高く綺麗で、それでも鋭い声。この収容所にソプラノの声が出せるのは女性の姫兎だけ。
鷹栖だけではなく、収容者の注目は全て姫兎に集められた。
姫兎の瞳は鉄格子の間からも、鋭く鷹栖を睨み付けているのが良く分かる。


「良くも好き放題言ってくれたわね…!!」

「おやおや、サテライトのお姫サマじゃないか。所詮貴様が何を言おうと貴様もサテライトのゴミに過ぎないんだよ!!」

「えーえー何度でも言ってなさい!!
此処に居る誰が不要な人間ですって!?この世界には不要でゴミな人間なんか存在しないわ!!
人間は必要とされる為に生きてるの、必要があるから生まれて来ているのよ!必要性の無い人間はこの世に居ないわ!!」


怯まない姫兎の言葉を倒れた氷室も顔を上げ、そして遊星も矢薙も青山も…収容されている全ての人間が希望の光を見つけたかのように聞いていた。

ただひとり、鷹栖だけは感心なさ気。
たかがサテライトの人間にこれだけ言われるのが釈に触る、という様子。だが我勝利、と言わんばかりな腹立つ笑みは消していない。


「氷室が重大な罪を犯した、とか言ってたわね…全ての証拠を並べて何をしたか答えてみなさい!!私は彼のデュエルを見たから分かる、氷室は本物のデュエリストよ!」

「ほお…、それは俺様がデュエリストと知っての発言か?」

「アンタの事なんか知らないわよ!!」


すぱっ、と突っ込む姫兎にまたカンに障ったのか鷹栖は顔を一瞬歪ませた。だがすぐフンッ、と鼻を鳴らし元の意地汚そうな表情に戻る。


「フン、つまり奴は本物で俺は偽物だとでも?」

「…デュエリストに上下なんてないわ。私は彼のデュエルを見ても彼のデュエリストとしての魂は本物だと言いたいのよ!」

「姫兎…」


氷室は姫兎の真っすぐな言葉に安心と嬉しさを感じたのか、ふと姫兎の名を零した。

プロを辞めて堕落していくばかりの自分。自分はそれでもデュエルをやめられず、勝利にしがみついた結果違法のデュエルまでし、この収容所に送られた情けないデュエリスト。
なのに、姫兎は自分をデュエリストと言ってくれた。本物だと、"魂"が。


「(感謝するぜ…姫兎)」


氷室は笑い、目を閉じた。


「フッフ…良かろう、ならば全員の前でデュエルで決着をつけよう。貴様が勝ったら氷室たちの積荷は目を瞑り自由な時間を奪わないと約束してやる。ただーし!俺様が勝ったら…」

「屈辱なんか捨てるわ!一生、アンタの言う事聞いてやるわよ!」

「バカ、姫兎!」


さも乗せられた姫兎はさらりと答えてしまった。遊星は驚愕のあまり、らしくない叫び声を姫兎に上げた。だが此処まで来れば姫兎が耳を貸さなくなるのは分かり切っているが。
途端、周りもデュエルと聞いて哄(どよ)めきだした。何と言っても、自分たちにまで関わる決闘だ。驚いて当然。あまりにも唐突な話についていけない、というのもあるだろう。


「面白い…、デュエルは今夜8時半だ!分かったな?」

「デュエリストに二言は無いわ、受けたデュエルからは逃げないわよ!」


と、姫兎の声の後、弱々しく抵抗する矢薙の声が聞こえて来た。
そこにはセキュリティーに鷹栖の元へ連行される矢薙の姿だった。姫兎は目を疑う。何をすると言うのだろうか。
途端、セキュリティーは矢薙の懐のあちらこちらから無数のカードを取り出し始めた。大切なカードを取られていく様に、矢薙も必死に抵抗する。


「待ってくれ!それはワシの宝なんだ!!返してくれ、頼む!頼む!!」

「フンッ」


鷹栖は必死に叫ぶ矢薙の姿に目もくれず、老人の矢薙を殴り飛ばした。老人を労る心も何もあったものではない。
あっさりと泣き喚く矢薙の姿を無視し、鷹栖は矢薙が隠していたデッキ程の枚数をカードを没収する。


「いいか!これがお前らにとって最後の自由時間となるのだ!せいぜい悔いの無いように過ごすんだなぁ!!」


そして下品な笑い声を残し、鷹栖はその場を去っていった。残された収容者たちはただ沈黙するのみ。姫兎は鉄格子を掴み、唇を噛み締めた。

騒動後、自由時間となり姫兎は部屋に戻された矢薙と氷室が気掛かりになりふたりの部屋へと向かった。
そこには一足先に遊星、そして氷室の取り巻きたちがいた。


「みんな、大丈夫!?」

「姫兎!」


遊星は姫兎を視界に入れた途端、血相を変えて姫兎の元に駆け寄り彼女の肩を掴んだ。


「バカ!何であんな真似を…約束をした…!!」


叫ぶ遊星なんてらしくない。後ろの氷室や矢薙は心配そうに遊星の背中を見守っている。
だか、姫兎は最初突然で驚いたような表情を見せたが、すぐに元の顔へと戻った。


「あんな真似じゃないわ!友達にあんな事を言われて黙ってなんかいられないじゃない!!それに…私が言わなかったら、あの一秒後に遊星、同じ事言おうとしたでしょ」

「…!」


お見通しか、遊星はあの時鷹栖の言葉に反論しようとしたのは事実だ。一足姫兎が早かっただけで。
遊星は悔しそうに下を向くと、咄嗟に姫兎を抱きしめた。


「ゆう…っ!?」

「なんで…お前はそう無茶ばかりするんだ。何でオレを頼らない…っ!確かに頼れない男かもしれない…、だが…!デュエルならオレが代わる、だからもう姫兎は…無茶をしないでくれ…」


お前を傷付けたくないんだ。

遊星の姫兎を抱きしめる腕に力が入る。
見た事が無い、遊星の弱々しい姿に姫兎は眉を下げ、フ、と微笑むと彼の背中にそっと手を回して優しくさすってやった。


「バカは遊星よ…、そうやっていつもひとりで苦しむ、抱え込もうとするんだから。でも有難う…、私はバカかもしれないけど後悔はしてないわ、アイツを倒すのは私の為でもあるから。
私が行くわ、デュエリストに二言なんて無いわよ!」


ポンポンッ、と姫兎は遊星の頭を叩く。ふ、と顔を上げた遊星はまだ心配そうな眼差し。
ふうっ、と姫兎はわざと大袈裟なため息をつくと、遊星の腕から離れいつもの強気な笑顔になり、腰に手をあてる。


「頼るとかじゃなくて、私の事信じて!」


どんっ、と胸を張る姫兎は女性の弱々しさしか想像できないは男には驚く程頼もしかった。
それは遊星だけでなく、後ろにいる矢薙や氷室たちも同じ。彼女を信じれば、どんな困難だってなんとかなる。そう思えるくらい。

だが、ここまできてひとつ問題があった。その問題が脳裏を過ぎれば、氷室の顔が曇る。


「だが…俺とじいさんのデッキは取られちまった…。分かったろ、これが所長のやり方なんだよ、やつは最初からまともにデュエルするつもりなんてない」

「……」

「姫兎はやつの挑発にまんまと引っ掛かったんだ。デッキが無いんじゃ話にならない」


氷室の言葉に姫兎は顎に手を添え考えるそぶりを見せる。やはりこれしきの事で諦める姫兎ではなかった。デッキねぇ…、と声を漏らす。
そんな時、やって来た青山がひっそりと遊星に耳打ちした。


「なぁ、俺たちだけで逃げよう…。あの様子じゃお前の彼女もあのふたりも無理だ」

「それはできない」


答えた遊星の言葉が意外だったのか、青山は一瞬驚いたそぶりを見せる。


「どうして!?此処の連中に義理はないだろう!」

「デュエルをしたならそいつは友(仲間)だ。
友(仲間)を置き去りにしたその先に、本当の未来は無い」


逃げる事だけ、しかもチャンスは今日の一時間だけ。逃せば二度と出られない。そんな場所の収容所に執着する理由はない。
カッとなった青山は「好きにしろ」と吐き捨て、自室へと走り去っていった。
すると、代わりに別の人間がやって来た。収容されている人々だ。


「姫兎…っていったな、随分派手にやらかしてくれたじゃねェか」

「ちょい顔貸せや」


言われるままに、姫兎は彼らについていった。




時刻は午後8時半、約束の時間だ。

セキュリティーに扉を開けられ、姫兎は外へと出る。そして黙って鷹栖の目の前に立った。
そこにはデュエルディスクを付けず、やる気があるのかと言わんばかりな鷹栖が勝ち誇った笑みで姫兎を見下していた。


「よく逃げずに来たなぁ、サテライトのお姫サマ。デュエルをするにはデッキが必要だか…勿論お前は持っているよなぁ?」


ニヤニヤと下品な笑みで首を傾げ問いかけてくる鷹栖。それはもう「持ってないだろう?」と聞くばかり。
姫兎の周りの人間はデッキは疎か、カードも持っていない事は知っている。なぜなら自分がそうなるように仕向け、没収させたから。これでデッキを借りる事さえ出来ない。

だが姫兎は柄にも無く、黙って言い返さず凛とした様子で鷹栖の話を聞いている。


「まさかとは思うが、もし持っていないならデュエルは俺様の…不戦勝となる!」


すると姫兎の先程までの無表情が、フ、と笑みを零した。鷹栖は不機嫌そうに「何がおかしい」と問い掛けてくる。


「デッキなら、ここにあるわ!」


そう叫び、姫兎の手から鷹栖に向けられたのは確かにカード…否、ちゃんとしたデッキだった。
鷹栖はまさか姫兎がカードを持っているとは思わなかったのか、驚愕の声を上げた。


「私がデッキを持っていない事を期待したみたいね、周りからカードを奪い不戦勝になる為に!それはただの卑怯よ…いえ、それ以前にデュエルで私に勝つ自信がなかったからかしら?」

「な…っ!!き、貴様ァ!サテライトのゴミの分際で俺様を侮辱する気か!!」

「アンタには勇気が無い!だから自分より弱い人間を支配する!それで勝った気になってるなんて…アンタはデュエリストの誇りを持ってないのね!!」


アンタは知らない。デュエリストが1枚のカードにどれだけの気持ちを託し、大切にするか。

不要な人間が居ないように、カードもまた不要なものは存在しない。必要とされるから生まれた。先程収容者たちに連れて来られた姫兎は、たくさんの収容者に囲まれた。
そして託された。みんなの想いを。



『デュエリストってのは、とっておきの一枚は肌身離さず持ってるもんさ』
『これをお前に託したい、あの時お前が奴を否定しなかったら、俺たちはずっと惨めな気持ちのままでいた』
『お前ならやれる』
『奴を打ち負かしてくれ』


『貴方たちの気持ち、私が預かったわ!!』




その全ての想いが、ひとつのデッキとなり、姫兎の刃となり盾となった。
あの時歓声を上げた収容者たちの希望は確かにあった。それはカードとなり姫兎の元に集結した。

悔しそうに唸る鷹栖。予定外の出来事に悔しくて堪らない。


「…まあいい、デッキがあるならデュエルで叩き潰すだけだ!」


周りに立っていたセキュリティーがデュエルディスクを持ってくると、互いの腕へと装着された。付けられたデュエルディスクは普通のものより重い。よく見れば先に鎖が取り付けられていた。


「ん?なによコレ」

「なぁーに、ちょっとした余興だ。このデュエルディスクは生き残った者だけが外す事が出来る」


じゃらじゃら、と鷹栖が自分のディスクに付けられている鎖を見せびらかしながら説明する。生き残った者、つまり文字通りこのデュエルは"命懸け"。


「今に分かる…」

「薄気味悪いわね、まあ良いわ!いくわよ!」

「「デュエル!!」」






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