TURN-10>>
シグナーと伝説の赤き竜と

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「何だこれは!何でお前たちがこんなものを見ている!!」


とある一室で、男性の低い声怒鳴り声が響いていた。

そう怒鳴る声の人物はジャック。
あのデュエルの後、どうなったのか彼は覚えていなかった。気が付けば自室のベッドに伏せていた。だが秘書である狭霧の話によれば、デュエルの決着が着かなかったので取り乱していた、と。その一言で、自分たちのデュエルが見られていたと確信したジャックは理由を突き止める為、治安維持局のゴドウィンの元まで直々にやって来た。
そして薄暗い部屋にいたゴドウィンや、特別調査室長のイエーガーまでもが居る上、ビジョンには自分と遊星の昨晩のデュエルが映されている。怒るの当然。


「気を御静め下さい、此処は治安維持局であります。ネオ童実野シティーの平和を守る砦…、街の異常を知るのは我々の勤めなのです」


ご尤もな内容の言葉をすらすら並べ、ジャックを宥めるゴドウィン。だが目覚めたばかりで状況が読めず、戸惑いもあるジャックは自身に対する興奮はなかなか押さえられない。
だがゴドウィンは冷静な声色で続けた。


「特に、《星の民》に繋がる情報はとても重要な事なのですよ」

「なにか知っているんだな!?」


コイツは昨晩のデュエルに出て来た謎の赤い竜、或いはその関連を知っている。
確信したジャックは自分の右腕の袖をめくり、ゴドウィンに突き付けるように露わにした。そこには赤い色をした翼を象ったような痣が印されている。


「あの赤い竜が出た時、俺のこの痣が疼いた!」

「…そうですとも。伝説に倣って呼ぶなら、貴方は《シグナー》…、竜の痣を持つものなのです」


ゴドウィンを含め、ジャックの周りにいる人物は彼に対し深々と頭を下げた。それまるで神のような存在を崇め、敬意を表するかのように。

《シグナー》
それは選ばれし星の民。

その時ジャックは昨晩の事を思い出した。
遊星の腕に、確かに自分と同じように赤い痣のようなものが浮かび上がった事。そして赤い竜のような光が姫兎を守っていたかのように、覆っていた事を。

遊星の事はゴドウィンにあっさり告げ口をしたが、姫兎の事は言わなかった。…否、言えなかった。姫兎の事に関しては言ってはいけない、ジャックの本能がそう叫んだ。
彼女の身になにかあってはいけない。巻き込みたくない一心だった。

そこでやっと遊星の所在が(遊星が居るなら、姫兎もいると考えた)収容所と聞き、また声を張り上げるハメになったジャックだった。




「良いデュエルだったわね!」


姫兎が遊星に声をかけた今、遊星と氷室のデュエルが終わったところだった。なんと遊星は一度もバトルを行わず、カード効果による反射ダメージで氷室を打ち破ったのだ。

その戦いにぶつかり見ているうちに、氷室の心境は変わったらしい。表情も柔らかくなっている。


「良い戦略だったぜ、恐れ入ったよ。お前…名前は?」

「…遊星」


感服した氷室は遊星の元に歩み寄る。その様子は最初の挑戦的で相手を馬鹿にする雰囲気は無く、遊星に敬意を表していた。
遊星もしっかり気が付いている、氷室が変わったのを。小さく微笑んだ。
そして氷室は遊星の隣に立ち、彼とアイコンタクトをとった姫兎の方へ視線を向けた。


「お前は?」

「え?」

「お前の言っていた事は間違ってなかったからな。女なのに度胸があるやつだ。…名前はなんていうんだ?」


氷室は姫兎がデュエル前に怒鳴った言葉を覚えていた。
あの時の氷室は怒りつつも姫兎の言葉を聞いていたが、理解しようとしなかった。だが、今なら理解できる。
カードが力を貸した、と。


「姫兎、姫兎よ」

「姫兎か。じいさん、さっきはカードを踏んで悪かったな」

「なぁに、良いって事よ!」


矢薙は遊星から返してもらったカードを握りつつ、とても嬉しそうに返事を返した。
効果が使えないと馬鹿にされていたカードたち。だが遊星によって勝利へと導かれ、カードたちは喜んでいる。そう矢薙には感じられたようで、とても自慢げにカードを見せて来た。


「あんちゃん、お嬢ちゃん…アンタら、本当に凄いよ!」

「私はなにも…してないわ」

「いや、姫兎の言葉には最初から揺らされた。遊星のデュエルも凄かったが、姫兎の言葉には感服だ」


氷室が笑いながら謙遜した姫兎にそう割り入れば、姫兎は少々気恥ずかしそうに頬をかいていたが、すぐにいつもの笑顔を見せた。その笑顔に周りは全員つられ、辺りは楽しそうな笑顔に包まれた。
そしてまたデュエルをしよう、と。遊星と氷室が固い握手を交わした。

これは、デュエリストたちの新たな絆が生まれた瞬間だった。

――――…だが。


「88号!」


そこに現れたのは明らかに柄の悪そうなセキュリティーの人間。

88号、とはこの収容所での遊星のコードナンバーのようなもの。恐らく遊星を呼んでいる。遊星は振り返りつつ、表情が険しくなっていた。


「取り調べだ、所長直々に行う。来い!」

「!ゆうせ―――…」


何で遊星だけ、と姫兎が遊星の方へ寄ろうとした時、遊星は片手を上げ姫兎を止めた。


「姫兎を頼む」


氷室にそれだけを伝えると、遊星はセキュリティーたちに無理矢理かのように連れていかれた。

駆け寄ろうとした姫兎の肩に氷室の手が置かれる。
姫兎はそれを確認すると悔しそうに唇を噛み締めながら、連れていかれる遊星の背中を見送る事しか出来なかった。


「取り調べだ、待っていれば帰ってくる」

「……。分かった、わ」




「遊星!?」


自由時間が終わり、自室へと戻っていた矢薙と姫兎。

遊星が部屋に帰って来たのは、もう完全に日が落ちて明かりがない部屋が真っ暗になっていた時だった。しかもただの取り調べをしたにしては遊星の様子がおかしかった。
セキュリティーに無理矢理引きずられ、部屋に投げ捨てられるように戻って来た遊星は体が疲れ切っているかの様。扉が開いた瞬間に駆け寄った姫兎が受け止めていなければ、床に叩き付けられたくらいだった。

姫兎は倒れ込んで来た遊星を守るように抱きしめ、当たり前の様に去っていくセキュリティーの顔を鋭い目付きで睨み付けた。


「遊星!大丈夫!?」

「しっかりしなよ!何されたんだい…!?」


姫兎に支えられながら何とか上半身を起こす遊星。


「《痣》を…探してた」

「痣?」

「赤い竜が出た時、オレ達の腕に浮かんで消えた…」


姫兎は昨晩の事を思い出した。確かに自分が目を覚ました時、自分を抱えていた遊星の右腕に赤く光る痣のようなものがあった。
だが、あれは消えたはず。

矢薙は遊星の話を聞けば驚きつつも口を開こうとした。と、廊下の方に監視役のセキュリティーが歩く音が聞こえ、一旦口を塞いだ。セキュリティーが去った事を確認すると、矢薙はもう一度口を開いた。


「あんちゃん、《シグナー》なのかい?」

「しぐなー?」


聞き慣れない言葉を、遊星は姫兎に体を預けたまま繰り返す。矢薙はベッドに座りながらいつになく真面目な顔で問いに答えてくれた。

それは矢薙が南米を歩き回っていた頃、《星の民の伝説》を聞いたらしい。
カードでも『水晶ドクロ』やら『トーテムポール』等、古代や伝説に関連したものが大好きな矢薙はその話をしっかり記憶していた。

星の民の伝説によれば、赤い竜が神でありその神を呼び起こす《竜の痣》を持つ人物の事を《シグナー》と呼ぶ。シグナーは全員で5人、それぞれの力を引き出す竜を従えているという。
つまり、5人のシグナーと5体の竜。


「だけどな、シグナーの力だけじゃ竜は呼べないんだと」

「どういう事だ」

「そのシグナーが5人居て、竜が5体居れば呼び起こせるんじゃなかったの?」

「まあまあ、話は最後まで聞くもんじゃよ。でな、その赤い竜の力を操る事が出来る最も強大な力を持つ、神に近い人が居るんだと、それを《シグナーマスター》と呼ぶんだそうだ」

「マスター?」


シグナーマスターには痣が存在しない。最も神である赤き竜の側に於ける、その人間自体が赤き竜に値するとまで言われている。
だかもっと詳しい事は、矢薙でも分からないらしい。そのマスターも力は強大だか、シグナーと同じく竜を従えているとか。


「じゃあ、腕に痣があるかもしれない遊星は…シグナー?」

「考えられるね、6体の竜は時空を越えて姿を変えながら生き続けてるんだって。…あっれ、待てよ…あんちゃん!あんちゃん竜を!?」



遊星には身に覚えがある。

《竜》
そして《痣》

竜とはさしずめ『スターダスト・ドラゴン』の事で、赤き竜と共に赤い痣が現れた。シグナーの条件はピッタリ過ぎる。
ならば、あの時遊星とぶつかり合い同じ右腕で痣を光らせていたジャックもシグナーなのだろうか。確かにジャックも『レッド・デーモンズ・ドラゴン』という名の竜を従わせている。シグナーと考えて間違いはない。

ならば、あの時赤き竜に守られていた姫兎は―――…。


「竜はカードになって生きているのかい!?そのカードみたいねぇー」

「カードは無い」

「かぁーっ!悔しいねぇ、見たいねぇカード!!」


遊星の思考を元のテンションに戻った矢薙が遮るが、遊星は至って冷静に回転の早い脳内で思考を巡らせていた。

ちらりと姫兎を見る。
赤き竜が出た時、姫兎の記憶は途切れていた。それは現れた赤き竜が姫兎に何かしたからか?
もしそうなら何をした?
姫兎もシグナーに関係があるのか。


「あれぇー?だけど変な話だねぇ、何で収容所の連中はそんな事に興味持つんだ?」

「言われてみれば…そんな架空臭い話なんか信じる連中には思えないわよね…?」


姫兎、お前は気が付いていない。だが、もし今此処でお前に赤き竜に守られていたなど言えば、どうなる。


オレたちはこんな話に関係はないよな…?
幼い時からずっと一緒で、シグナーだからなんて理由はないよな。
この気持ちも、そんな架空の話ではないよな…。

姫兎――――…?






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