TURN-09>>
カードを愛する心!大切な秘宝デッキ!!
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遊星は自分と同じ罪人として居る人たちのの列に並びながら、目立たないように辺りを見回していた。
あの後、遊星はセキュリティーに捕まり身柄を拘束された。
気が付けば治安維持局の連中の目の前に突き出されていた所から覚えている。サテライトからネオ童実野シティーへの侵入は重罪とされ、『D・ホイール』とデッキを没収された上に頬にマーカーを刻印。気が付けば姫兎とも離されてしまった。
恐らく、姫兎も今どこかで同じ目に遭っているかもしれない。同じ時に拘束された、罰せられた時刻は多少ズレても収集されれば必ずまた会えるはず。
僅かな希望を持ちながら、周りでベラベラと今後の道程を話す連中がの話など耳にも入れず。今遊星が気にかけているのは、最愛の姫兎が今何処で何をされているかの不安のみ。他の事、ましてや自分の事など頭に入らない。
ただ、姫兎の身を案じるだけ。
収容所へ向かう移送車に物のような扱いで肩を押され、中へと入っていく。入ってくる人数を考えると狭いが、壁に伝うように席が設けられている。周りを見回しながら、遊星は空いた空間の席に腰を下ろした。
姫兎はいない。
この車に入る前、同じような移送車を何度も見た。まさか違う場所に送られるのではないだろうか。
ふつふつとそう考えていれば、不意に凛とした声が耳に入った。
「…遊星?」
「―――姫兎…っ」
遊星の瞳に輝きが戻った。
中に入って来た姫兎は遊星を見つけると、慌ただしく駆け寄った。遊星も思わず姫兎を迎えるように立ち上がる。
「良かった、無事だったのね!怪我は無い!?」
「オレは平気だ、それより姫兎は…」
「私も平気よ!」
ほら!と、姫兎は両手首を回す。その時遊星はふと、姫兎の頬に触れた。そこには姫兎の白い肌の上から黄色いマーカーが刻印されている。哀しげに指で姫兎のマーカーをなぞった。
遊星もマーカーを付けられたので分かる。付けられた時の痛みは優しくない。
「…すまない、姫兎」
「遊星?」
「またオレは―――…お前を、護れなかった」
あの時セキュリティーが来た時、姫兎だけでもジャックに預ければよかった。ジャックはキングだ。一言だけで姫兎をセキュリティーから助けられた。
そうすれば、姫兎の肌にこんなマーカーなど付く事は無かったはず。
だが、それを許さなかった。
否、許したくなかった。
姫兎を助けたい、と思う反面、姫兎が側からいなくなってしまう…離れてしまうと思ったのが怖かった。オレから離れてジャックの側に置かせるのが嫌だった。
我ながら矛盾した、我が儘で自分勝手な想い。遊星は皮肉にほくそ笑む事しか出来なかった。
「すまなかった…」
「……」
すると姫兎は突然、両手で勢い良く遊星の両頬を挟むように叩いた。
渇いた音が狭い車内に響き、痛みと驚きに遊星はキョトンと目を見開き、姫兎の方を見た。姫兎は笑っている。
「男がうじうじしないっ!それに、この事は当然遊星が悪い訳じゃないわ。責任なんてないの、アンタが落ち込んでどーするのよ!」
「…姫兎」
「私が知ってる遊星なら、過去を振り返らず過ちを繰り返さない努力をする、過去をいちいちグヂグヂいう奴じゃないでしょっ」
遊星は驚いた表情のまま、片手を自分の頬に触れたままの姫兎の手の甲に重ねた。
その心は温かかった。強くて、優しくて、力強い姫兎の言葉に遊星はいつの間にか包まれていた。昔から、遊星が好きで好きでたまらない感覚。
遊星はフ、と笑みを零すと想いを返すように瞳を閉じ、重ねていた姫兎の手を優しく握り自分の頬から離していった。
「…そうだな、オレらしくなかった」
そうだ、護るの意味が違った。
姫兎はオレが護る。だから姫兎はオレの側に居なければいけない。もう迷わない。護る、姫兎を、姫兎の側で。
そして移送車は背丈の低い、見るからに元気そうな老人を最後に、外へと走り出した。
その老人は位置的に姫兎が座る場所の隣へ飛び乗るように腰を下ろす。さりげなく、遊星は姫兎を老人とは反対側に座らせ、自分が老人の隣に座った。
「なあなあ…」
その老人は遊星の顔を覗くように声をかけて来た。何事?と、言うように姫兎も遊星の影から顔をひょっこりと覗かせた。
「アンタら随分見せ付けてたみたいじゃな〜、若いってのはいいねェ。それにお嬢ちゃん美人じゃないかい、あんちゃんも隅に置けないねぇ〜」
「あ、いや…私たちはそーじゃなくて…」
「………」
姫兎が両手の平を差し出し、赤面しながら老人の言葉をまるで否定するかのような仕種を見せた。
姫兎は気が付かなかったが、その時老人に肩を突かれて顔を赤くしていた遊星が「何故否定する」というように少々恨めしげな眼差しで姫兎の方を見ていたのは老人だけが気付いていた。
「それにアンタら、不法侵入で捕まったんだって?一緒にかい?」
「え、おじいさん何でそれを!?」
「実はワシもなんじゃよ〜、ワシゃ矢薙ってんだ、宜しくな」
「あ、私は姫兎、こっちは遊星」
全く相手をしたくないのか、或いは姫兎の先程の発言にふて腐れているのか。姫兎に紹介され指差されても、遊星は挨拶もする事なくあらぬ方向を向いている。
「遊星、そっちに矢薙のおじいさんはいないわよっ、ほらっ挨拶挨拶!」
再び遊星の両頬を両手で挟むと、ほぼ強引に遊星の顔を矢薙と名乗った老人の方へぎぎぃ〜っ、と音が出そうな形で首を回させた。そして頭を下げさせる。
無表情のまま遊星は頭を動かされているので、矢薙は少々吹いていた。
話は本題に戻る。
「アンタら、捕まったのデュエルスタジアムなんだろ?ワシさぁー、あん時近くに居たんだよ」
「え…でもあれ…」
真夜中だったはずなのに。この人はそんな時間に何故スタジアム近くなんかうろついてたんだろうか?なんて姫兎の思考に電光石火のような速さで駆け巡ったが、自分たちも人の事言えないのであえて何も言わなかった。
「凄かったよなぁ!みんな停電になっちまってさぁ!!」
「停電?」
「あんれ、お嬢ちゃん気が付かなかったのかい?」
「それがよく覚えてなくて…、あの時の記憶、途切れ途切れで…」
エヘヘ、と言うような表情で頭の後にに手をあてる姫兎。
その時、はっとした様子で遊星が姫兎の方へ振り向いた。
「覚えていない?何処からだ」
「え?えーっと…確か、遊星たちの様子がおかしいから、慌てて客席から立って―――…」
その後、2人に駆け寄ろうとしたら突然頭痛が襲って、目の前に赤い竜が出て来て…。
姫兎はひとり必死に記憶を探りだし、そして首を傾げた。その先が思い出せない。気が付いたらデュエルが中断されてて、フィールドには穴が空いていて、そして遊星に抱えられていた。その間の記憶がない。
赤い竜を見上げた後、自分は一体何をしていたのか。誰かが話し掛けて来ていたような気もする…。そんな風にぼんやりとしか記憶に無い。
…いや、それが本当に記憶なのか。夢だったような気もする。
姫兎は頭を抱えた。
記憶を探って考えている姫兎を、遊星は険しい眼差しで見つめていた。
あの時、爆風後に倒れていた姫兎を包んでいた赤い光。それはまるで現れた赤い竜が姫兎を爆風から護った、そんなように見えてならなかった。
自分の腕に現れた赤い痣。あれが姫兎に近寄って熱さを増した時、あの赤い竜の感覚を感じた、ような気がした。何か関係があるのかも知れない。
でも、自分も姫兎もそんなものに関わりはないはず。幼い時から共にサテライトで暮らしてた、一緒にいた。
自分たちは、ごく普通の人間だ、と。
「そうそう!一番びっくりしたのはあの真っ赤な竜でさぁっ!」
そんな時遊星の思考を途切らせすように、矢薙が声を上げた。
「おじいさん、アレ…見てたの?」
「アンタらー、あん時スタジアムの中にいたんだろ?」
「何を知っている」
矢薙のペラペラと進む話に全くの反応が無かった遊星が、初めて口を開いた。隣で姫兎が「あ、喋った」と、ポツリと呟いたのには気が付かなかったらしいが。
「あんちゃんこそ、アレをどうやって出した?ライディング・デュエルやってたんだろ、あんな竜…デュエルで出せるのか?」
遊星と姫兎は顔を合わせた。
確かにあれはソリッドビジョンにしては出来過ぎている。それに赤い竜が出現するようなカードも使っていないし、ましてやあんな爆発が起きるなんて想定外。
あれは一体、何なのだろうか。
その後、収容所に到着した早々セキュリティーの管理官らしき人物を先頭に部屋へ荒い案内をされた。収容所とはシティーで問題を起こした者が全て収容され再教育を受ける施設…、簡単には牢獄と同じようなもの。
案内された自室扱いの部屋には特殊なロックがかけられていて、セキュリティーが持つスイッチがロック解除の鍵。廊下を覗ける窓には鉄格子と。
入れ、と案内役のセキュリティーが手に持つスイッチを押せば、狭い廊下に道のように扉が一気に開いた。
「やっとベッドで眠れる―――っ!!」
暗い顔をしている周りの違反者とは全く裏腹に、矢薙だけは近くで開いた扉の奥の部屋にある、一番手近なベッドにダイブ。とても収容者とは思えないような喜び方をしている。
姫兎は矢薙の行動に小さく肩を上げると、近くにいたので同じ部屋に入っていった。続けて遊星が続く。
「再教育プログラムは午後から始まる、それまで十分に反省しているがいいっ」
セキュリティー案内役がそう部屋に入った一同に叫ぶと、荒々しく部屋の扉を閉めた。
ふぅっ、と姫兎は力を抜くように腰を下ろしたベッドに伝う後ろの壁に寄り掛かった。
「あー、なんだか疲れたわ…。セキュリティーの話ってやたらと尊卑が激しいから聞くのも疲れるわよ」
まあ、仕方ないかっ、と姫兎はやれやれと首を振る。それは遊星も同意なので、彼は姫兎の言う事に対し何も口にしなかった。
それとは別に、矢薙はいつの間にかベッドから出て、たったひとつだけの細長い窓にしがみつき外を見ていた。その様子は相変わらず上機嫌。
「ここは広いねぇーっ、それにまだまだ新しいときたもんだ!」
「矢薙のおじいさん…、一体いくつ収容所を渡り歩いて着たのかしらね。ピクニックじゃーあるまいし」
「まあワシゃ色々となっ」
半分呆れた様子で姫兎は組んだ足に腕の膝乗せ、掌には顎を乗せて矢薙を半目で見ていた。
そんな時姫兎の正面のベッドに座る遊星が珍しく自分から口を開いた。
「まだ質問に答えていない」
「ぁい?何の事だい?」
「赤い竜の事だ」
すると矢薙は窓にしがみついていた体を下ろし、さかさかと遊星と姫兎の元に寄って来た。
「あんちゃん、お嬢ちゃん。デッキは持ってきたかい?」
「はい?」
「話はそれからよ!」
こんな所に持ち込めるわけがない。
収容所に来る前、とっとと所有物は治安維持局の方に没収されてしまった。その中にはデッキも入っている。
ふと、遊星は「持っているか?」と聞くように姫兎の方を向いた。遊星の無言の問いに気が付いた姫兎は、残念そうにはたまた悔しそうに首を横に振った。姫兎もデッキも何も、押収されてしまったらしい。
「持ち込めるわけがない」
遊星が顔を戻し、僅かに俯きながらそう呟いた。
「じゃーんっ!じゃんじゃんじゃんじゃーんっ!!」
すると突然矢薙が謎のBGMを口ずさみながら、あちらこちらと体中の至る場所から何処からともなく何枚ものカードを取り出した。
姫兎に至ってはぎょっ、とした様に目を見開いている。
「ワシはさ、あっちこっちの収容所渡り歩いているうちに、何処でもデッキがいるって分かったんだよ」
「(やっぱ渡り歩いてるんだ…)」
「此処でデュエルをやるのか」
「中も外も同じさね。収容所の中でも仕切る奴と仕切られるがいる、そいつを決めるのがデュエルよ!」
ひとりで盛り上がり、2人の前でカードを広げた矢薙。
「…デュエルか」
先程まであまり興味を示さなかった遊星も、デュエルと聞いて目の色が変わっていた。
そこは遊星らしい。姫兎は心の中でくすりと笑っていた。
「「!!」」
突然鍵で開くはずもない扉が勢いよく開いた。まだ午後の再教育プログラムとやらには早い時刻のはず、驚いて中の三人の目線は扉の方へと向けられた。
そこから現れたのは明らかにセキュリティーではない、マーカーを付けた青い髪の男。そして後ろには数人取り巻きがついている。
男は不適に笑いながらズカズカと部屋へ入って来た。
「きゃっ!何すんのよっ!!」
三人は部屋から無理矢理出され、天井も高い広間のような場所へと連れて来させられた。
床にはデュエルフィールドがいくつもマーキングされている。収容所にデュエルフィールドがあるだろうか、矢薙の言っていた事は極力間違っていないようだ。
そしてひとつのデュエルフィールドに男たちは止まると、相手側の位置に三人を荒々しく押した。当然、こんな扱いに姫兎が黙っているはずもなく、反対側から男を指差して叫んでいた。
「やかましい奴がひとり居るが…まあいい、ようこ。、我がデュエル場へ」
先程のボスなのであろう、青い髪の男が取り巻きたちより一歩前に踏み出すと、両手を広げてまるで姫兎たちを歓迎するかのような仕種を見せる。だが顔や扱いが丁重な歓迎で無い事を物語る。
まるで、楽しいおもちゃを手に入れた子供のようだ。
突然の出来事でか、男たちが不適に笑うからか、矢薙だけは慌てているのか脅えているように肩をすくませていた。
「俺は氷室、此処を仕切っている」
氷室、と名乗った男は手に付けたデュエルディスクを作動させ、怪しく笑う。
収容所にデュエルディスクが、と驚いたりもしたかったが姫兎がその間を作らない。直ぐさま言い返した。
「アンタ、マーカー付きじゃない。なにが仕切ってるーよ、結局アンタも収容者じゃない!」
「はっ、その気強いお喋りな新入り女と後ろ二人に教えてやろう、収容所には中と外、ふたつのルールがあるって事を」
姫兎は遊星と矢薙の前に立ち腕を組み、近寄ってくる氷室を威嚇するかのように鋭い目付きで睨み付ける。
矢薙に至っては脅えていたはずが、姫兎のあまりにもの気強い発言に「あんちゃんの彼女、見かけによらず怖いのぉー」と、遊星に耳打ちをしていた。当然姫兎は氷室を睨んでいて気が付いていない。
「中と外…、外はセキュリティー警備側ってコトね。私たちは外でセキュリティーに仕切られてるって言いたいワケ、と」
「そう、そして俺が仕切るのは…中の方だ」
突然、矢薙がいがみ合い中の姫兎と氷室の間に割り込み、氷室の顔を見るなり歓喜の声を上げた。いきなり何?と、矢薙の態度の変化に遮られた姫兎は一歩後ろへと引いた。
「アンタ!プロデュエリストの氷室仁だろ!なななっ、そうだろーっ!?」
「黙れジジイッ!!」
「わあすっげーェ!こんなトコで会えるなんてワシゃラッキーだよーっ!!」
氷室に怒鳴られ、一度引いた矢薙だったが直ぐさま再び感動ハートマークを飛ばしていた。間に矢薙が割入って来たので、一気に怒りが引いた姫兎は追い出された気分で遊星の隣に戻る。
そして遊星と視線を合わせながら「なんなのこの態度変化は」と、無言で矢薙の方を指差した。
「ジジイ、中のルールってのは俺とデュエルして、この中での格付けを決めるって事だ。それが決まれば下の者は上の者に絶対服従だ!」
「ひひっ、やっぱりねぇ…。そんなコトだろうと思って、ワシもデッキを持ってきているぜーっ!」
「ほお…」
「ワシのデッキはすげーよ!レア中のレア、名付けて《秘宝デッキ》だぁっ!」
矢薙は自慢げに、先程部屋で遊星と姫兎に見せたカードを体中からひょいひょいと取り出した。その枚数はデッキも作れる、ざっと40枚はいっているだろう。
矢薙の《レア中のレア》、という言葉に氷室の取り巻きたちがざわつき始めた。レアといえばなかなか手に入らない、特に効果も格段に強いというタイプが多い。
だが、闘う氷室自身は特に声を上げず、むしろ怪しく笑っていた。
「準備が良いじゃねェか、お前らは?」
氷室の視線は遊星と姫兎に向けられる。
闘いたい、…のだが、デッキは全て治安維持局に持っていかれてしまった。今二人はカードを一枚も持っていない。遊星は悔しそうに視線だけを落とす。
「…持っていない」
「………」
遊星だけがそう呟いた。姫兎に至っては悔しくて唇を噛み締め、そっぽを向いている。
すると氷室はそれを嘲笑うかのように、姫兎に近付けた。
「フンッ…お前ら、確かサテライトからの不法侵入者だったなぁ、それじゃデッキなんて持ってる訳無いか。
サテライト住民ってだけで下の下だ」
「…っ!!」
姫兎は顔を上げ、近付けられた氷室の顔を鋭く睨み付ける。そして何かを言い返そうと声とついでに蹴りかかろうとしたのか、足を振りかぶりかけた時、二人の間に遊星が割入り、姫兎は驚いて口を閉じた。
遊星が氷室を睨み付け(氷室の顔が姫兎に近かったので腹が立ったから)、姫兎を庇う体制を取ると氷室は姫兎から離れ顔を上げた。
「へへへっ、それじゃデュエルディスク貸してくれよ」
空気が全く読めていないマイペース過ぎる矢薙が、氷室に要求した。本気でデュエルをやる気らしい。
そして受け取ったデュエルディスクを腕に嵌めると、それが嬉しいのか爽快の声を上げた。リアクションがいちいち大袈裟で、実に分かりやすい。
「氷室ちゃんとデュエル出来るなんて、ワシゃ幸せだあ!!」
「ジジイ!!」
ひとつ前に「氷室ちゃんと呼ぶな」と、怒鳴られたくせに懲りない人だった。
何度か氷室の取り巻きが矢薙のレア、と言っていたカードに気を付けろとの忠告をしたりがあったが、氷室と矢薙、どちらも負ける気はしないらしい。実に強気だ。
「「デュエル!!」」
騒ぎむなしく、氷室の繰り出した『大牛鬼』の直接攻撃を喰らい、矢薙は敗れてしまった。矢薙のカードは確かにレア物だが、使用者に大きなライフリスクを伴い、矢薙のダメージ殆どが自らのカード効果によるリスクダメージだった。しかもそのせいか、氷室のライフダメージは0。
攻撃の衝撃でカードはその場にばらまかれ、矢薙も倒れ込んでしまう。
「大丈夫か、じいさん」
「大丈夫矢薙のおじいさん…!ちょっと!年寄りに優しくしなさいよアンタたち!!」
駆け寄った遊星と姫兎がなんとか体を起こしてやると、矢薙は自分の勝敗を心配する前に、床にばらまいてしまったカードを慌てて拾い始めた。
氷室は姫兎の罵声に耳を貸す事なく、こちらに歩み寄って来る。そして床に落ちている矢薙のカード一枚を踏み付けた。
「この俺を馬鹿にするようなデュエルしやがって…。じいさん、お前は最低ランクの格付けだ!」
「馬鹿になんかしてないよ!ただ、アンタみたいな凄いデュエリストにこのカードたちを見て欲しかっただけさ…!」
迷い無い矢薙の言葉に、遊星と姫兎の瞳が揺れる。
「ワシゃコイツらが好きなだけなんだ、好きじゃいけないのかい…!」
この人は、本当にカードを愛している。
自分の憧れの人に自分の大切で大好きなカードを見せたくて、自分がこのカードを見た時の感動を教えたかったから。
「そりゃ、ワシゃあ効果の事とかよく分からんがな。このカードたちから人間の世界の不思議が伝わってくるみたいで、ワシゃとっても好きなんだよ!なあ頼むよ、足を退けてくれよ!大切なカードが痛がって…!!」
だが氷室は耳を貸す気が無いのか、それとも聞いててか、踏み付けている矢薙のカードを床に押し付けるようにぐりぐりと踏み付ける。慌てて氷室の足を退かそうと必死にしがみつく矢薙を見ても、まだ続ける。
ついに、2人が動いた。
「うぉっ!!」
一瞬の出来事だった。
遊星が氷室の肩に手を置き氷室が「なんだ」と、振り返ったかと思うと、遊星は自分より大きな氷室の体を足払いで倒したのだ。カードを乗せていた足を払い、氷室は軸足が無くなりそのまま床へ叩き付けられた。
「何すんだこの野郎―――…」
「五月蝿いっ!!」
姫兎が起き上がり、逆上する氷室を怒鳴り付けた。
姫兎はズカズカと氷室の前に立ち、氷室を身長差で下から指を差す。
「アンタ、矢薙のおじいさんのあの話を聞いてよく今カードを足の下に引けたわね!!
デュエリストに何より大切なのは《相手を尊重する心》、そして《カードを愛する魂》よ!矢薙のおじいさんはそれを全て持って、アンタはそれを全て持っていない!!勝敗なんて関係ないわ、大切なのは正々堂々、相手にどうぶつかっていくかよ!
今この場で真のデュエリストと名乗れるのはアンタじゃ無い…矢薙のおじいさんよ!!」
「んなっ…!!」
「お…お嬢ちゃん…」
遊星は氷室を倒した時の体制のまま、姫兎を背にしたまま動かない。
遊星自身、元々口数が少ないとは真逆に姫兎は思った事を全て口にする。遊星が言わない事を全て姫兎が言ってくれる。
そして、それを受け継ぐのは遊星。
「じいさん…、そのデッキ、オレに貸してくれないか?」
「えぇっ…!?」
「このデッキで勝ちたいんだ」
矢薙が大切そうに握るカードデッキを遊星が受け取る。そしてデュエルディスクを自らの腕に付け、デッキを入れる。
準備が調い立ち上がると、氷室と向き合っている姫兎の隣へ歩み寄りる。姫兎の肩を叩けば姫兎は小さく頷き、遊星のやろうとしている事が分かったのか、ゆっくりと後ろへと下がった。
「プロデュエリストとかいったな、次はオレとやろう」
「…面白い、その《とんでもデッキ》で、この俺に勝つって言うのか?」
「そうだ、この世に数多あるカードに、役に立たないカード等一枚も無い」
遊星の真っすぐな言葉。
後ろでへたれこんでいる矢薙は、自分の言っている事が認められたからか、瞳に輝きが増した。
「遊星」
「心配するな」
「してないわよ。遊星なら必ず勝つって信じているから…任せたわ」
してない、と言われ少々驚いた様子で姫兎に振り返った遊星。
だがいかにも姫兎、という言葉を貰い遊星は微笑し、氷室と向き合った。
「デュエルと、カードを愛する心は、必ずカードは信じてくれたその者を勝利へと導くから」
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