TURN-08>>
激突する三体のドラゴン!現れた赤き竜
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デュエルは終盤へと向かって行く。
ジャックの場には3体の竜、『レッドデーモンズ・ドラゴン[ATK/3000]』、遊星の『スターダスト・ドラゴン[ATK/2500]』、そして姫兎の『フルムーン・ドラゴン[ATK/2400]』が飛翔する。
「爽感じゃないか。三体のドラゴンのこの圧倒的な威圧感、魂の震えを感じるだろう遊星!…それとも、キングとドラゴンたちの前では、ただ脅えるだけの憐れな道化とでも呼ぼうか!!」
「…必ず取り返してみせる!」
姫兎は二人の闘いを見守るが、観客席に素直に座って落ち着いている事ができない。先程からずっと客席から顔を乗り出している。
「……遊星」
さっきから…いや、ずっと前から自分はどうなってしまったのだろうか。
遊星、改めてその聞き慣れている当たり前の名を呟くだけで、自分の胸は締め付けられるように苦しい、胸が高鳴る。昔から呼んでいた時は何ともなかった。
でも今は少し違う。
無表情の遊星。
少しとぼけた遊星。
眠そうな遊星。
悔しそうな遊星。
驚いた遊星。
デュエルで熱くなる遊星。
自分を信じろ、と私を見てくる遊星。
そして、微笑む遊星。
その全てを思い出すだけで、自分の心が満たされるような…そんな今までにない感覚。
彼を想うだけで苦しくも、優しくも感じる。
「遊星、なんだろう…コレ」
今の遊星が答えるはずもない。
だがどうしても今吐き出したい言葉に胸を押さえつつ、誰にも届かない呟きを漏らす姫兎の視線は遊星に向けられる。
だが姫兎の気持ちは関係なく、ふたりのデュエルは続行されていた。
遊星の発動した罠(トラップ)カード『悲劇の引き金』にから『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を守る為、ジャックは『スターダスト・ドラゴン』の効果を使い、スターダストをリリース(生け贄)した。
「素晴らしい悲劇だ。お前は自らスターダストのリリース(生け贄)という引導を渡した…、我が『レッド・デーモンズ・ドラゴン』は無傷!
見ろ遊星、『スターダスト・ドラゴン』の散る様の、何と美しいことか!」
リリースされ、墓地へと散っていく『スターダスト・ドラゴン』はその名の通り、夜空に輝く幾千万の星屑が流れ散るかの如く、儚く美しいものだった。
だが星の輝きは一瞬で消えない。
『スターダスト・ドラゴン』のモンスター効果、それは自らリリースされる効果を発動したターンのエンドフェイズに、自分の墓地に存在するこのカードを自分フィールド上に特殊召喚できる。消えてもなおまた輝こうとする、星の意志のような効果。
「さあ、第二幕の始まりだ!」
「…そう、第二幕」
不適に笑った遊星に違和感を感じたジャック。
「罠(トラップ)カード、『ハルモニアの鏡』!」
遊星が発動した罠(トラップ)カードから現れた巨大な鏡。そこに写された姿は、ジャックの場に再び蘇った『スターダスト・ドラゴン』の姿。
『ハルモニアの鏡』の効果は相手フィールド上のシンクロ召喚以外でシンクロモンスターが特殊召喚された時、そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚されるカード。
「飛翔せよ、『スターダスト・ドラゴン』!!」
掌を天に向け、それに答えるように遊星の場に『スターダスト・ドラゴン』が姿を現した。本来の持ち主の元へ、本来あるべき姿で。
先程まで隣に存在していた本来の敵、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』と向き合った。
「そしてこの瞬間、罠(トラップ)カード『月の涙』を発動!」
「な、お前まさか…っ!!」
「そのまさかだ、『月の涙』…それは自分の場にシンクロモンスターが罠(トラップ)の効果で特殊召喚された時、相手の場にいるシンクロモンスターのコントロールを得る!オレが選ぶのは…」
遊星の指差したモンスター。
それは圧倒的な力を持つ『レッド・デーモンズ・ドラゴン[ATK/3000]』ではなかった。
そう、かつてサテライトの空に輝きをくれた、『スターダスト・ドラゴン』の隣を飛ぶべき竜。
「姫兎の…『フルムーン・ドラゴン[ATK/2400]』!!」
「!?…なんで、フルムーンを…っ!?」
姫兎は遊星の宣言に驚愕する。
当然だ、普通に考えれば『フルムーン・ドラゴン』より『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の方が圧倒的に強いし攻撃力も高いはず。
なのに、遊星はフルムーンを選んだ。
「この二体の竜は、本来共に肩を寄せ飛び立つ…オレたちの夢を乗せて!!
これが、この二体のあるべき姿だ!」
「…!」
そうだ。サテライトの仲間との夢。
あの竜が初めて空へと飛翔したのは、確かにスターダストとフルムーンは一緒だった、隣同士に姿を見せた。光の届かないサテライトに闇夜の空を照らすが如く、閃光を差した竜は二体一緒。
姫兎の表情が疑問の色から穏やかになっていく。遊星なら勝ち負けの前にそう考えるだろう、長い間一緒にいたのだから、分かっていたはずなのに。
「舞い上がれ、『フルムーン・ドラゴン[ATK/2400]』!!」
遊星の掛け声と共に『スターダスト・ドラゴン』の隣に『フルムーン・ドラゴン』が姿を見せた。それはサテライトの空を初めて飛翔した時と同じ姿で。
そして正面と向き合った『レッド・デーモンズ・ドラゴン』に威嚇するかのよう互いに吠え始めた。
「キング、本当の第二幕の始まりだ!覚えているか、お前がオレに告げた言葉を!!」
デュエルとは、モンスターだけでは勝てない。罠(トラップ)だけでも、魔法(マジック)だけでも勝てはしない。全てが一体となってこそ意味を成す。
そして、その勝利を築き上げるために必要なものは―――…ここにある。
二年前、負けた遊星にジャックはそう告げた。
「お前は、それが何かは言わなかった。だがオレはその答えを見つけた!」
「聞いてやろう!その答えを!!」
遊星は二年前のジャックと同じように、親指で自らの胸元を指した。「全てのカードを信じる、《デュエリストの魂》!!」
それが遊星の導き出した答え。
いかにも彼らしい、そして共感できる姫兎は心の内に安堵を覚えた。
そして進んでいくデュエルの中、相対するドラゴンたちがぶつかり合おうとしたその瞬間――…。
―――ドクンッ
遊星とジャックの腕が同時に疼き始めた。
突然の違和感に顔を歪ませ、二人は自分の腕へと視線を落とした。
その二人の異変に姫兎は気が付き、何事かと居ても立ってもいられなくなった。
「ジャック…?遊星…!?」
一度顔を乗り出し二人を確認すると、客席からデュエルフィールドへ下りようとその場から足を動かした。デュエルフィールドへの出入口まで下りてくると、慌てて二人の元へ向かおうとした。
その時だった。
「……っ!?い、いたっ…!!」
突然の頭痛に襲われ、痛みに耐えるように頭を押さえその場に座り込んでしまった。
その痛みは何かに共鳴するかのような、そんな感覚で。それでも自分の痛みの前に遊星とジャックが心配で、重い体をふらつかせながら何とか立ち上がる。
「…あ、あれは…」
姫兎の目の前に現れたのは、点に巨大な翼を仰ぐような姿をした紅い影のような竜。
デュエルで現れる、ソリットビジョンなんかではない。
その竜を見上げた途端、姫兎の瞳が輝きを失い、その色は空色から現れた竜と同じ紅色へと変化する。
『……目覚メノ……時、ハ…』
「…誰…」
『我ヲ……シグ、ナー……マ…ター』
「……聞こえ、ない、貴方は一体誰……私に何を、伝えようとしてるの…?」
姫兎の意識が口を開いているのか分からない。
そのまま姫兎はゆっくりと竜から視線を地に落し、紅いままの目を閉じて床に倒れ込んでしまった。
「ゆう、せ……」
紅い竜は消えたと同時に、姫兎の元へと吸い込まれるように散ったように見えた。
そして凄まじい爆風が巻き起こり、姫兎の姿は爆風に見えなくなってしまった。
その時遊星とジャックは爆風に体を持って行かれ、『D・ホイール』ごと吹っ飛ばされてしまっていた。
決着はつかなかったのだろうか。いや、その前にあの紅い竜が現れてしまい、デュエルが途中で分からなくなってしまったのだ。壁にたたき付けられた遊星、その痛みより右腕に感じる異常なまでの熱さに耐える表情。
「なんだ、これは…!?」
熱さを感じる腕の袖をめくれば、そこには今までなかったはずの紅色に光る痣のようなものが浮き上がっていた。
そして遊星の正面に立つジャックの腕にも、形は違うが同じように光る痣が存在していた。
最初は互いの痣に驚愕し、ただ痣を見ていただけだったが直ぐさま二人に同じ人物の顔が頭を過ぎった。
「「…姫兎!!」」
慌てて姫兎が座っていたはずの客席へと目を向ける。
姫兎の姿がない。
「姫兎!!」
「姫兎、何処だ!?」
先ほどの爆風に巻き込まれたか、嫌な予感を必死に脳裏から振り払い、二人は腕の熱さを忘れデュエルフィールドを駆け出した。
怪我をしていないか、まさか飛ばされてしまってないか。
その時、遊星は先の方に何かを包むような、守るように渦を巻く紅い光を見つけた。
「姫兎…!?」
その光の中に影が見えた。
透き通った赤い光には確かに見覚えのある姿。見間違えるはずがない、確かに姫兎だった。
「姫兎!…っ!?」
姫兎に気が付いた遊星は駆け寄ろうと走った。
が、突然遊星は足を止めた。
姫兎に近寄った途端、反応するかのように遊星の腕にある傷の熱さが増し出したのだ。熱い、腕かそのまま焼け落ちてしまうのじゃないだろうか。
でも目の前に姫兎がいる、腕を庇っていられない。その一心で遊星は腕の熱さに耐えながら姫兎に駆け寄った。
「姫兎、姫兎!!」
遊星が側に寄った瞬間、姫兎を覆っていた紅い光がまるで遊星が来たので安心したかのようにゆっくりと消えていった。
「…な、なんだ…?」
「……ん…ん」
倒れた姫兎を抱えると、姫兎は唸り目を覚ました。その瞳の色はしっかり遊星を写し、空色に輝いている。
「ん、ゆうせ……!!遊星、大丈夫!?」
「それはオレのセリフだ、何があったんだ」
「私は二人の様子がおかしいから心配して…。…って、遊星その腕の痣…!?」
袖をめくったままさらけ出されていた遊星の腕に光る赤い痣。姫兎がそれに触れた途端、その紅い痣は消え肌色に戻っていった。
「…姫兎、一体…?」
遊星が口を開いた瞬間、暗かったはずのデュエルフィールドに突如二人を鋭く光が指した。二人を確認するように、それは優しいものではない。
僅かに見えるのは何人も同じ格好をした人物。
「こちらはネオ童実野シティーセキュリティーである!
ネオ童実野シティーは許可なくサテライト住民の侵入は認められない、
治安維持局の命により、拘束する!!」
デュエルフィールドに、セキュリティーの声だけが響いた。
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