TURN-07>>
宿命の対決!vsスターダスト・ドラゴン&フルムーン・ドラゴン

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「ジャック…」

「姫兎、久しぶりだな…。そしてずっと待っていた」


自分の名を呟いた姫兎を、空から愛おしげな眼差しで見つめ口を開いたジャック。

今すぐ駆け寄りたい、という欲をジャックは何とか押さえつつ言葉を重ねていく。
やっと目の前に現れた。
短いようで、それでも彼女が居ないので長く感じた時をずっと会っていなかった。シティーヘ来ても変わらない想いを抱いた、自分の最愛の女性…。
ただその想いがジャックの内を渦巻く。


「…あの月を見ていたら、お前が来るような気がしてな」


同じ高さ、正面にあるかのような、暗い夜空を一転大きく照らす満月を見つめる。まるで暗きサテライトを唯一照らす、姫兎のような月。
あの月を見る度、必ず思い出していた。


「…お前と、姫兎と離れ…短く長い間だった、もう何年になる?」

「2年よ」


間髪入れずに答えた姫兎。
空を仰いでいたジャックは、しみじみとその年月を繰り返すように呟いた。


「…良い『D・ホイール』を造ったなぁ…、流石だ」

「アンタが乗っていたもの、今何処にあるのよ…」


ジャックの後ろにある『D・ホイール』、あれは2年前に遊星と姫兎が作ったものではない。ジャックは空を見上げていた視線をゆっくりと姫兎に落とした。


「もう壊れたに決まっているだろう」

「…ッ!!アンタ…ッ!」


さも当たり前のように答えられ、姫兎が何かを怒鳴ろうとしたその時。今まで黙っていた遊星が見えないところで拳を握りながら、片腕で制止するように姫兎の前に腕を出した。
少々驚いた姫兎の目の前には、僅かな怒りに表情を歪ませる遊星の顔。


「オレと、姫兎のカードは…!」

「『スターダスト・ドラゴン』と『フルムーン・ドラゴン』か?」


久し振りの姫兎との会話に突然割り入られ、少々苛立ちに表情を歪ませたジャック。だがすぐほくそ笑むと、何処からか出したカード2枚を遊星と姫兎に突き出した。

モンスターカード、縁が白いのでシンクロモンスターであると分かる。


「スターダスト…ドラゴン…、フルムーン…ドラゴン」


突き出されたカードの名前を呟く遊星。

カードに描かれているモンスター、1枚は星屑が鏤められたように輝く空色に澄んだ竜、『スターダスト・ドラゴン』。そしてもう1枚は薄い白桃色の透明に澄んでいる、夜空に輝く満月のように美しい竜、『フルムーン・ドラゴン』。


「…オレたちの夢だった」
   ・・
「オレたちの?」

「サテライトの仲間、そして姫兎…みんなの夢だ」


2年以上も前に遊星と姫兎が作った『D・ホイール』の完成を祝うように、薄鼠色の空に飛びたった『スターダスト・ドラゴン』と『フルムーン・ドラゴン』。

それは仲間たちとの夢。
やっと叶った夢だった。

だが、その夢となった竜はジャックの元へと虚しく飛び去ってしまった。仲間たちの歓声と笑顔、そして夢、その全てを捨て去って。


「まだそんな子供地味た事を言っているのか!キングになった今、この『スターダスト・ドラゴン』は不要なカードだ」


返してやろう!その言葉と共に『スターダスト・ドラゴン』が遊星の元に飛んで来た。僅かに驚いたような表情を見せつつ、遊星はカードを受け取る。
それを確認したジャックは返すそぶりを見せない姫兎の『フルムーン・ドラゴン』をゆっくりと自分の元へと寄せた。


「姫兎、お前は覚えているか?2年前の約束…」

「当たり前よ。その為に私は此処に来たんだから」


一歩、ジャックの元へと歩み寄る。


「2年前…遊星が俺に負けた時、お前はこのカードを差し出し遊星のカードと引き換えにした…。姫兎、お前が見ているのは変わらず遊星…今も昔もずっとだ」


俺を見てはくれない。
キングになっても、お前の中で
俺は今も昔も変わらず遊星の影に在る。
どうすればお前は、俺に振り向いてくれるか。


「姫兎。俺はこの2年間…お前がやってて来るその時の為にずっとキングの座を守って来た」


そう、お前の為に。

ただひたすら、お前だけを…想って。
2年前のあの日に約束した。




『約束をするわ!
いつか必ず私はアンタより強くなって、次の闘いでそのカードは返してもらうわ!』

『ならば姫兎、俺からも賭けをひとつ出そう…。次の闘いで俺が勝ったその時には――――、
俺の傍に、来てもらおう』





当然、その約束は遊星も聞いていた。

あまりにも不利で傾いた賭け、だが姫兎が賭けの不利有利で逃げたしたり断ったりするはずがない。あっさり承知した。
姫兎は悔しそうな、辛そうな様子で視線を反らした。サテライトに居る時当然、ジャックは好きだった。幼なじみで、いつも一緒にいた。

好き。
だが、恋愛による感情とはなにかが違った。

《仲間》として《友》
としての好き。

積極的なジャック、サテライト時代から変わらず同じような事を言われ続けて来た。それでも姫兎が頷かなかったのは、ジャックの言葉を恋愛としての《好き》ではなく、友としての《好き》と解釈していた。

そして何より…姫兎の内には必ず遊星がいたから。
姫兎は遊星に対する何か分からない感情が内で渦を巻き、幼なじみとしての想いが確実に別の想いへと変わっていた。


「それでも―――…」


お前を愛しているんだ。
ジャックの中にある、今までと変わらない姫兎への想い。遊星を見ていて、自分を見てくれない姫兎を、自らへと振り向かせるには―――…。


――――…シュッ

ジャックが口を開こうとした、その瞬間だった。
目の前に遊星に返したはずの『スターダスト・ドラゴン』が戻って来たからだ。


「どうした、デッキに納めないのか?」

「お前はひとつ忘れている」


遊星は姫兎の前へと、ジャックとの間に立ち塞がるように立った。


「あの日の事、オレは忘れていない」

「…フン、お前は俺に負け姫兎に守られた、大切な者を守れない…。所詮お前に姫兎を守る資格など無い!!」

「…っ!」


間違ってはいない。
2年前のあの日、確かにデュエルに負けカードを全て無くしかけた時、姫兎によって守られた。

あれは間違いなく、自分が弱かったから―――…。
否定は出来ない。僅かに押し黙る遊星を見て、ジャックは勝ち誇った笑みを見せた。
が、すぐに力強い眼差しで顔を上げた遊星にジャックは疑問の表情を浮かべる。

何故、そんな強気な表情になれる?


「もう…昔のオレとは違う。姫兎は必ずオレが守る!デュエルだ、ジャック!『スターダスト・ドラゴン』はデュエルで返してもらう、姫兎の『フルムーン・ドラゴン』と共にだ!!
お前も、そのつもり来たんだろう」

「…フ、良いだろう…、お前とのライディング・デュエル、楽しめそうだ!どちらか姫兎を守る者として相応しいか…ハッキリさせようではないか!」

「ちょ、ちょっと待った!」


姫兎が2人の視線の間に踊り出た。
本人の意見関係無しに自分の名が出ているのが、よく分からなかったからだ。


「良く分からないけどジャック!私とのデュエルは―――…」

「姫兎」


遊星の方から声がし、ジャックへの視線を移動させ表情を見せない彼を瞳に写す。
いつも以上に真面目な彼の声。そして顔を上げた遊星の眼差しは真剣そのものだった。


「もう、昔のオレじゃない…言っただろ、頼れって」


ドクンッ―――…。
またあの時と、同じ胸の高鳴りを確かに感じた。
前ともっと近いものに、そしてハッキリとしていくこの胸を締め付けられるように感じる感覚に、姫兎はただ戸惑う事しか出来なかった。


「わ、分かった…。ジャックとは必ず決着をつけるけど、今回は遊星に任せる、わ」

「…ああ」


僅かに微笑んだ遊星。そしてもう一度ジャックと向き合い、これから闘いの幕が開かれる事を互いに確認しあった。
互いの想いを賭けて。

3人はネオ童実野シティーの摩天楼を挟んだ道を『D・ホイール』で進み、そしてやって着たのはデュエルスタジアム。普段、ジャックがキングとして挑戦者を迎え撃つ、ライディング・デュエルが行われている場所。


「追われるとは気分が良い。自分がキングなのだと実感できる…」


今デュエルスタジアムに居るのは遊星と姫兎、そしてジャックのみ。
昼に行われている喝采と賑やかさがまるで嘘のように、静けさと暗さを纏うスタジアムには、ジャックの声が良く響いていた。


「キングはその座を常に守らなければならない、守る事は攻める事よりも難しい…。遊星、お前に《守る》という言葉の重さが分かるか?」

「……」

「難しい…しかし、それを成し遂げてこそキング!!」


その台詞と同時に、ジャックが片腕を上げたかと思うと一気にスタジアム中の電灯に明かりが燈された。

暗闇からいきなり強烈な光を浴び、遊星と姫兎は腕で自らの顔を遮った。そしてよく見れば、上げられたジャックの手には2体の竜のカードの姿が。
紛れも無く、『スターダスト・ドラゴン』と『フルムーン・ドラゴン』だ。


「既にこの時点で、お前はこのカード、そして姫兎を手放す選択をしたも同然!!…愚かな選択をしたものだ」


ジャックは『スターダスト・ドラゴン』と『フルムーン・ドラゴン』を、さも当たり前のように自らのデッキに納める。
取り戻したくば、2体の竜を相手に闘え、と言うかのように。

姫兎はジャックに誘導され、客席へと腰を下ろした。そして姫兎が客席に座ったのを見届けると、遊星とジャックは同時にエンジンをかけた。


「さあ、楽しもうじゃないか!観客が姫兎だけなのが、少し寂しいがな!」


少し後ろに待機する遊星に向かい叫ぶと、互いに『スピードワールド』を発動させた。
珍しく心配そうにそわそわしている姫兎、遊星は横目で彼女を確認した。


「(姫兎、オレはまだお前に想いを伝えていない、この闘いに必ず勝って…必ず伝える、この想いを…)」

「(…何だろう…この感じ。最近遊星を見てると胸の中で何かが締め付けるような…感覚)」


姫兎はギュッと服の胸元を握りしめた。


「「デュエル!!」」




デュエルは遊星が有利に思えたかと思えば、ジャックが優性を奪っていった。そして、デュエルは中盤を迎えていく。

今はジャックのターン。
通常召喚でチューナーモンスター『ダーク・リゾメーター[LV/3]』を召喚。


「LV5の『ビック・ピース・ゴーレム』に、LV3『ダーク・リゾメーター』をチューニング!
王者の鼓動、今ここに熱を成す!天地鳴動の力を見るがいい!」


ジャックの場に紅く黒い光が舞い降りる。


「シンクロ召喚!我が魂『レッド・デーモンズ・ドラゴン[ATK/3000]』!!」


姫兎は思わず客席から身を乗り出す。

今や、キングの最強エースカードであると謳われている、《紅き悪魔の竜》。
正直、凄いと思ってしまう。紅き闇に君臨し、その姿は禍々しくも美しい―――…。


「だが、これで終わりではないぞ!今夜の特別ゲストを紹介しよう!」


だが、驚きはそれだけではなかった。
場にある罠カード『スターゲート』の効果を使用。そして、現れたチューナーモンスター。


「大いなる風に導かれた翼を見よ!シンクロ召喚!!響け、『スターダスト・ドラゴン[ATK/2500]』!!」


現れたのは遊星のエースモンスタードラゴン、ジャックが先程デュエル前デッキに入れていた。遊星は目の前に現れた、仲間との夢を繋いだ絆のカードの名を小さく呟く。
夜の空に鏤められている星屑のように輝く、その姿は闇の中に瞬く無数の星々を思わせる。


「遊星!今夜は特別だ、まだこれでは終わらない!」

「…!」

「罠(トラップ)カード、『月夜の願い』を発動!このターン、2度のシンクロ召喚に成功した時、墓地に存在する決められたチューナーモンスターと素材モンスターを除外、シンクロ召喚!!」


墓地よりLV5の『ビック・ピース・ゴーレム』に、LV3『ダーク・リゾメーター』が墓地から除外される事で、LV8のシンクロモンスターを特殊召喚できるカード。

LV8のシンクロモンスター…遊星と姫兎には現れるモンスターの正体が分かってしまった。


「闇を切り裂く光輝く翼を現せ!シンクロ召喚!輝け、『フルムーン・ドラゴン[ATK/2400]』!!」

「…!フルムーン…ッ!!」


ジャックの場に現れたのは、紛れも無く姫兎のエースドラゴン。
黄金の光粒を鏤め、その白桃色の姿を暗い夜空に輝かせた。夜の闇の中に光を授けるたったひとつの存在、大きくも淡い光を放つ満月のような。

ジャックの場には三体の竜が出揃う、彼の高笑いがデュエルスタジアムに響き渡った。


「この場に揃うべきものは揃った!パーティーの幕は上がったぞ、その第一幕、始めようじゃないか!!」

「く…っ、お前に姫兎は渡さない!」


遊星…?これは、なんだろう。
私の中に芽生えているこの感覚…。

ねえ
貴方は分かるの――――…?






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