TURN-06>>
脱出!ニトロ・ウォリアーvsゴヨウ・ガーディアン
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「先行は俺だ」
半ば強制的なデュエルへ巻き込まれてしまった遊星と姫兎、それでも前に進む為に戦う覚悟を決めた。
まずは相手、牛尾のターン。
「俺は『ゲート・ブロッカー[DEF/2000]』を守備表示で召喚!」
「うあっ…!?」
途端、遊星と姫兎が走る前方に壁画のような板が現れたと同時にふたりの『D・ホイール』がパイロット意思関係なく一気にスピードが落ちた。
まるで前方の『ゲート・ブロッカー』が2人の行く手を塞ぎ、そのスピードを奪ってるかのように。
「何よ、コレ!」
「俺はさらにカードを伏せて、ターンエンド」
牛尾ターンエンド宣言、次は遊星にターンが回ってくる。
遊星はカードをドローしようとした時、自分の『D・ホイール』にある異変に気が付いた。
――スピードカウンターの数が変わらない…。
本来スピードカウンターというのは『スピード・ワールド』が発動している間、互いのスタンバイフェイズにひとつずつ上がっていく、スピードデュエル専用のルール。
「小僧、スピードカウンターが上がらないんじゃないのか?」
「「!」」
遊星がなかなかカードを引かないので、その事を疑問を持っていた姫兎の不安が一気に吹き飛んだ。
牛尾の口ぶりは遊星の異変をあたかも自分がやった、と言っている。
「アンタ、なんかしたワケ!?」
「モンスター効果だ!『ゲート・ブロッカー』が表側表示で存在する時、お前らは『スピード・ワールド』の効果を受けられない。よってお前らのsp(スピードスペル)は…」
「封じられる…」
sp(スピードスペル)は通常デュエルに見立てれば魔法カード同然、使えないのはかなり不利という事になる。
さらに言えば『ゲート・ブロッカー』は牛尾のカード、この圧倒的な効果は遊星だけでなく姫兎にも影響する。
「…待った!『ゲート・ブロッカー』のようなモンスター効果はデュエルのバランスを大きく左右する、つまり使用制限を持っているはずよ!」
「ハッ、だが俺のデッキはセキュリティー特権によって『ゲート・ブロッカー』が自由に使える特殊デッキ。お前らはもう俺から逃げられねェ…!」
「…権力、ってやつか」
その瞬間、遊星がぽつりと呟いたその言葉が合図かのように時刻はパイプライン操業停止時間である12時を回ってしまった。
操業停止時間はたったの3分、もうデュエルをしていたら、間に合わなくなる恐れのある。
遊星たちの闘いをパソコンを通じて見守っているナーヴたちにも、僅かな焦りが芽生えてきた。
「アイツ…ッ」
「……気にいらねェな」
姫兎が唇を噛み締め、牛尾に何か怒鳴ろうと次の口を開いた瞬間だった。
不意に呟いた遊星の言葉に、姫兎は固まってしまったのだ。
あの遊星が、本気で怒っている…。
口調からしても、それでも付き合いが長いので分かる。彼の少ない感情変化に対し、姫兎は敏感に察した。牛尾の権力を象徴したような言葉によって、遊星の記憶から蘇った人物。
ジャック…。
仲間を捨ててまでキングの座…権力を手に入れて姫兎を自らの傍に置く為に。
彼は権力…キングの座あれば何でも出来ると、姫兎をも振り向いてくれるだろうと。そんな事で姫兎が振り向く…訳が無いのに。彼女の性格を、しっかり理解していなかった。
「気にいらねェ…」
アイツと、同じ。
だが…。
「オレは……」
オレは正面から、
彼女の全てを愛しているから――…。
正面から、彼女へと近付くその為に。
「前に進む!!」
「…遊星!」
そうこなくっちゃ!
姫兎はそう笑いながらスピードを上げた遊星についていった。
バトルロイヤル。牛尾が1枚カードを伏せターン終了を宣言すれば遊星にターンが回ってくる。
「オレのターン!『スピード・ウォリアー[ATK/900]』を召喚する!」
「ハッ!そいつぁ、召喚したターンのバトルで、攻撃力を2倍にする事が出来るんだったなぁ…?だが甘いぜ、それでも『ゲート・ブロッカー[DEF/2000]』の守備力には及ばない!」
牛尾の言う通り、『スピード・ウォリアー』の効果で最初の攻撃力が2倍になったとしても『ゲート・ブロッカー』の守備力には足りない。だが遊星は言い返す事もなく、自分の手札にある1枚のカードを大切そうに手に取った。
「(ラリー…お前のお守り、使わせてもらう…!)
さらに手札より、『ワンショット・ブースター[ATK/0]』を召喚!」
遊星が場に出したそのカード、出発前にラリーからお守り"として受け取ったカード。
自分のお気に入りにも関わらず、遊星たちの身と安全の為に貸してくれた大切な絆の1枚。
この時の召喚は特殊召喚、『ワンショット・ブースター』のモンスター効果は自分がモンスターの召喚に成功したターン、このカードを手札から特殊召喚できるのだ。
「バトル!」
遊星のその一言が合図かのように『スピード・ウォリアー』は『ワンショット・ブースター』の上に乗り込んだ。
これは『ワンショット・ブースター』のもうひとつの効果が適用される準備。
「『ワンショット・ブースター』をリリース!」
「…ほぉ…、そこまでするかぁ!」
「『ワンショット・ブースター』のリリースには、それだけの価値がある!」
もうひとつの効果、『ワンショット・ブースター』はその身を犠牲にする事でこのターン自分のモンスターと戦闘を行ったモンスターを1体破壊できる。
そう、それが例え自分より守備力や攻撃力が高くても。
だが、ひとつリスクがある。
「甘いぜ!例え『ゲート・ブロッカー』を破壊しても、『ゲート・ブロッカー』の守備力は高い!自分のライフにもダメージが跳ね返ってくるぜ?」
「…っ、それでも!」
『ワンショット・ブースター』によって破壊効果を得た『スピード・ウォリアー[ATK/1800]』だが、『ゲート・ブロッカー[DEF/2000]』の守備力を下回った分の200ポイントが遊星のライフに跳ね返ってくる。
遊星のライフは残り3800ポイント。
それでも壁であり、スピードカウンターを封じていた元凶の『ゲート・ブロッカー』の破壊には成功した。
「遊星、ナイスよ!」
「…時間が無い、このまま行くぞ姫兎!」
「了解!」
「ラリー、お前のおかげでオレは…、オレたちは…」
――――前に進める!!
その瞬間。
なんとか2人共同時に操業停止中のパイプラインへの侵入に成功した。此処まで来れば、まさに人の通る場所ではない。
だが、牛尾は執念深かった。
「あの野郎…まさかサテライトから脱出する気か…!?身の程を知らねェクズ共が!!」
ふたりに続いて、牛尾はパイプラインへと突入して来た。維持でも捕まえるまで追いかけてくるつもりのようだ。
「う、しつこいっ!!アンタ、パイプラインの中でデュエルするつもり!?」
「ヘッ…、あったりめェだ!逃がさねェぜ?罠(トラップ)カード『ブロークン・ブロッカー』発動!!」
牛尾の出した罠(トラップ)カード、『ブロークン・ブロッカー』は自分フィールド上に存在する攻撃力よりも守備力の高い守備モンスターが戦闘によって破壊された時、破壊されたモンスターの同名のカードに2体まで特殊召喚できるカード。
守備モンスター固めのデッキには打ってつけの罠(トラップ)だ。
「見たか!これが権力ってやつよ!!」
「…くだらないわ」
「なに?」
下を向いて表情を見せない姫兎が呟いた冷たく低い声、牛尾の耳にも当然遊星の耳にも届いていた。
「下らないって言ったのよ!さっきから聞いていれば権力権力って五月蝿いわね!!どうせ権力にしか頼れないアンタたちは本当の強さを持ってない、他人と権力にしか縋れないアンタたちの事を本当の負け犬って言うのよ!!」
「なっ、なんだと!コイツサテライトのクズの分際でこの俺に…っ!!」
「何度でも吠えていればいいわ!ただひとつ言えるのは、アンタたちみたいな奴らより、自分の力で闘い前に進もうとする遊星の方がアンタたちよりずっとずっと強いって事よ!!」
「…姫兎」
姫兎の背を見ながら目を見開く遊星。
確かに他人の力に縋り自らの力を見せようとしないアイツらは弱い、正しい事だ。
だがひとりであそこまで言い切れる姫兎は凄い。あの牛尾でさえ言い返せなくなり、悔しそうに歯を食いしばっているだけ。
姫兎だって、十分心の強さがある。
「遊星…」
「!」
姫兎は振り向かず、不意に彼の名前を呼んだ。遊星が返事を待っていると、姫兎はいつもの笑顔でこちらを振り返ってきた。
「次のターンは任せて!あんな脆い壁、すぐに叩いてやるんだから!」
「…ああ、次は任せた!オレはカードを2枚伏せてターンエンド」
「私のターン!」
次は姫兎にターンが回る。
当然だが『ゲート・ブロッカー[DEF/2000]』が牛尾の場に存在するので、牛尾以外はスピードカウンターが上がる事はない。つまりこのターン、姫兎のスピードカウンターは0…sp(スピードスペル)の使用を許されない状態。
「私は『ムーンピクシー・ナイト[ATK/800]』を攻撃表示で召喚!」
「ほぉ…大口叩いた割にはちっこいモンスターだな」
姫兎の場に現れたのは幼い姿をした月色をした妖精の騎士。牛尾の口ぶりにカチンときながらも、今回は言い返しをしなかった。
理由は簡単、彼女らしく。
「小さいのは見かけだけ、女の子は見かけで判断すると怖いわよ!『ムーンピクシー・ナイト』のモンスター効果は、相手の墓地にあるモンスターカードを1枚選びこのターンのみ、そのモンスター効果を使用できる!」
相手の墓地、つまり姫兎にとって今の相手は牛尾だけでなく遊星もカウントされる。
つまり、彼女が選ぶのは当然――…。
「遊星の墓地にある…『ワンショット・ブースター[ATK/0]』を選択!」
ラリーからのお守り、…私も使わせてもらうわ!
そのデュエル姿を見ていたナーヴたち、再び『ワンショット・ブースター』の登場にラリーが歓喜の声を上げていた。
遊星だけでなく、姫兎の力にもなれる。ラリーは自分が彼にあのカードを渡したのは間違いではないと確信した。
「ラリー…みんな、私にも力を貸して!『ムーンピクシー・ナイト』のモンスター効果により、遊星の墓地から『ワンショット・ブースター]』を私の場に特殊召喚!!」
そしてこのターンのみ、姫兎は『ワンショット・ブースター』の効果を使用できる。先程の遊星と同じく、『ワンショット・ブースター』を再びリリース。
「この効果により、このターン『ムーンピクシー・ナイト[ATK/800]』はモンスター破壊効果を得る!」
「ハッ、クズの考えることは同じだなぁ?ダメージが反射されてもいいならな!」
「そんなもの…構わないわ!!」
ラリーのカードの効果、無駄になんてしない。
だが姫兎の『ムーンピクシー・ナイト[ATK/800]』の攻撃力と『ゲート・ブロッカー[DEF/2000]』の守備力は1200もの差がある。例えこの効果で『ゲート・ブロッカー[DEF/2000]』を破壊できても、下回った1200ポイントのダメージが跳ね返ってくる大きいリスクがある。
遊星は多少ハラハラしたが、姫兎の性格は分かり切っている。こんなところでダメージを気にして、後ろを向くなんて姫兎の性格上有り得ない。
「『ムーンピクシー・ナイト[ATK/800]』の攻撃!!」
「うぉっ!?」
2体の内、1体の『ゲート・ブロッカー[DEF/2000]』が姫兎の『ムーンピクシー・ナイト[ATK/800]』によって破壊される。と、同時に姫兎に下回った1200ポイント分のダメージが跳ね返って来た。
先程の遊星より強い衝撃、姫兎のライフは一気に2800ポイントまで下がってしまう。
「…くっ、『ムーンピクシー・ナイト[ATK/800]』のもうひとつの効果、発動!相手モンスターを戦闘によって破壊した時、手札に同名モンスターがいれば特殊召喚できる!」
姫兎の手札にはしっかりもう1体の『ムーンピクシー・ナイト[ATK/800]』が存在した。そのカードは効果で場に特殊召喚され、もう一度『ムーンピクシー・ナイト[ATK/800]』の効果を使用できる。
「…『ワンショット・ブースター[ATK/0]』!!」
姫兎に呼び声に答えたかのように、戻った遊星の墓地から再び『ワンショット・ブースター[ATK/0]』が姫兎の場に姿を現した。再び『ワンショット・ブースター[ATK/0]』リリースし、姫兎のもう1体の『ムーンピクシー・ナイト[ATK/800]』にモンスター破壊の効果を授けてくれた。
「もう一度!『ムーンピクシー・ナイト[ATK/800]』で最後の『ゲート・ブロッカー[DEF/2000]』に攻撃!!」
「うぐぁ…!!」
『ムーンピクシー・ナイト』が攻撃をすれば、行く手を塞いでいた『ゲート・ブロッカー』は跡形もなく消えていった。
だが代償として、また下回った1200ポイントのライフが削られ姫兎の残りライフは1600ポイント。
「んなっ…!?チィ、2体の『ゲート・ブロッカー』を破壊たぁナメた真似を…!」
「これが権力じゃない…仲間との力の強さよ!!私はカードを1枚伏せ、ターン終了!」
これで2人の行く手を塞いでいた壁は無くなり、次からスピードカウンターの効果を得る事が出来る。
牛尾は一度舌打ちをしたが、自分のターンが回ってくるとまた不吉な笑みを見せた。
「まあいい…俺のターン!オレは『ゴロ・ゴル[ATK/1350]』を召喚!」
「――…!しまっ…」
姫兎の出かけた言葉に、牛尾は我勝利というような笑みを見せた。
相手の攻撃力は1350、そして遊星の場にいるモンスターは現在攻撃力が900の『スピード・ウォリアー』、姫兎の場には攻撃力800の『ムーンピクシー・ナイト』が2体。
この時、『ゴロ・ゴル[ATK/1350]』の攻撃対象になるのは―――…。
「いけェエ『ゴロ・ゴル[ATK/1350]』!デス・フラット!!」
「…っ!」
「遊星!!」
今場に出て一番厄介な、遊星の『スピード・ウォリアー[ATK/900]』が対象にされた。この攻撃で遊星のライフは3350ポイントへと下がり、場もがら空きになってしまった。
姫兎の『ムーンピクシー・ナイト』は効果自体絶大だが、この効果は場に出て一度しか使えない。つまり効果を使い果たしてしまった『ムーンピクシー・ナイト』は、今通常モンスターも同然。
「逃げ場はねェぞ!!」
「っ、俺のターン」
遊星にスピードカウンターがやっとひとつ乗る。
姫兎が自分のライフを削ってまであの『ゲート・ブロッカー』を破壊してくれた、無駄には出来ない。その思いが通じたのか、遊星のドローしたカードは前へと確実に進めるものだった。
遊星の口元が弧を描く。
「…来たか」
その一言で、姫兎は彼が引いたカードが何なのか検討が着いた。
「チューナーモンスター、『ジャンク・シンクロン[LV/3]』を召喚!そして永続魔法『エンジェル・リフト』をオープン!」
「なっ…この展開は!?」
前に一度この2人は闘っている、前回のラリーの盗難事件の時飛び出していった遊星が。前にも同じ展開があったのか、驚愕の声を上げる牛尾。
姫兎もこの展開は理解できる。
「これにより、自分の墓地からLV2モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚できる…、来い!LV2モンスター『スピード・ウォリアー』!!」
「いけー遊星!!」
「『スピード・ウォリアー[LV/2]』に『ジャンク・シンクロン[LV/3]』をチューニング!!」
この展開なら、誰もが先を予想できるだろう。
3つの光の輪が『スピード・ウォリアー』を通過させ、互いに重なる。
「集いし星が、新たな力を呼び覚ます――…光指す道となれ!
シンクロ召喚!いでよ、『ジャンク・ウォリアー[ATK/2300]』!!」
遊星の十八番である『ジャンク・ウォリアー』が、遊星の隣に閃光の道より現れた。
そしてバトルフェイズ、『ジャンク・ウォリアー[ATK/2300]』が牛尾の『ゴロ・ゴル[ATK/1350]』の背を取り破壊。牛尾のライフは無傷だった4000ポイントから3050ポイントへと引き下がった。
「ふん!お前の手の内は分かってるぜ?」
「言ったわね、私のターン!私はチューナーモンスター『エンペラー・ナイト[ATK/1200]』を召喚!」
姫兎も遊星同様、チューナーモンスターの召喚。そして場にはLV2の『ムーンピクシー・ナイト』が1体。
牛尾はまさか姫兎までもがシンクロ召喚を使うとは思わなかったのか、目を見開いて口を開けた。
「LV2『ムーンピクシー・ナイト』に、LV3『エンペラー・ナイト』をチューニング!
月の輝きが、光への道を指し示す――…結束の掛橋となれ!シンクロ召喚!いでよ、『ブレーヴ・ナイト[ATK/2000]』!!」
現れたのは姫兎の十八番エースカード『ブレーヴ・ナイト]』。そしてモンスター効果によりこのカードの攻撃力は、自分の墓地に存在するLV2のモンスターの数×400ポイントアップする。
今姫兎の墓地にいるLV2のモンスターは『ムーンピクシー・ナイト[LV/2]』が1体。効果で『ブレーヴ・ナイト[ATK/2400]』の攻撃力が上がった。
「『ブレーヴ・ナイト[ATK/2400]』で、ダイレクトアタック!セイクレッド・レイ!!」
「ぐぉっ…!」
姫兎の『ブレーヴ・ナイト』の攻撃により、牛尾のライフは650ポイント、一気に叩き込みたいがもう1体残っている『ムーンピクシー・ナイト[ATK/800]』はモンスター効果を使用した次のターンは攻撃できない。
姫兎はカードを1枚伏せてターンを終了した。
「俺のターン!俺は…『ジュッテ・ナイト[ATK/700]』を召喚!」
「…な、なにアレ…!チューナーモンスター?」
「そうだ、シンクロ召喚ならこっちだってできんだよ!」
そして牛尾は最初のターンに伏せたカード、『リビングデッドの呼び声』により墓地に存在する『ゲート・ブロッカー』を再び蘇らせた。
「いくぜ!『ゲート・ブロッカー』に『ジュッテ・ナイト』をチューニング!
シンクロ召喚!!『ゴヨウ・ガーディアン[ATK/2800]』」
シンクロモンスターでも上級の攻撃力を持つ『ゴヨウ・ガーディアン』、遊星の『ジャンク・ウォリアー[ATK/2300]』の攻撃力を上回ってしまっている。
「見やがれ!これが権力だ、いけェェ!!」
遊星のライフはこの攻撃を受けて残り2850ポイント。牛尾の攻撃宣言と共に、『ジャンク・ウォリアー』は破壊された…と考えたのはつかの間だった。
なんと『ゴヨウ・ガーディアン]』は破壊したと思った『ジャンク・ウォリアー』を縄で縛り付け、牛尾の場に引っ張ったのだ。
「な、なんで遊星の『ジャンク・ウォリアー』が…っ!?」
「ハッ、『ゴヨウ・ガーディアン』は、相手モンスターを破壊した時、その破壊を無効にしコントロールを奪う事が出来るのだ!お前のモンスターは俺のものだ!!」
だがこの効果で奪ったモンスター…つまり『ジャンク・ウォリアー』は守備表示となる。
攻撃をされる事はない、が遊星にとってエースモンスターを奪われて困らないわけがない。もっと困るのはパイプラインを潜ってかなりたっている、もう1分40秒しか時間がないという事。
だが、その事を知らずそっちのけな牛尾。スピードカウンターが4つになった事を満足そうにしている。
「手札よりsp(スピードスペル)を発動!『ソニック・バスター』!」
「…sp(スピードスペル)を使って来たわね…!」
牛尾の出してきたのは『sp(スピードスペル)ソニック・バスター』。自分のモンスター1体の攻撃力の半分のダメージを相手に与えるカード。
選択されたのは当然『ゴヨウ・ガーディアン[ATK/2800]』、このモンスターの攻撃力の半分…つまり1400ポイントが2人のどちらかから削られる。まず対象になったのはライフが1600ポイントの姫兎だった。
「さっきは散々大口叩いたからな。お前にも権力の差を教えてやる!」
「くっ…!!」
ダメージを受けた姫兎を見ながらそう笑う牛尾。姫兎のライフは1400ポイント削られ、残りは200ポイントとなってしまった。
「さらに手札よりもう1枚、『sp(スピードスペル)ソニック・バスター』を発動!」
次の対象は遊星、3350から2850へとライフが削られる。ダメージを受けた遊星と姫兎は『D・ホイール』のスピードを失い、後ろを走っていたはずの牛尾と並んでしまった。
「ざまぁみやがれ!此処から逃げる事なんざ、できねェんだよ!!所詮お前らのクズデッキじゃ…俺のデッキは破れねェ!!」
「なっ…!?私の事を好きに言うのは構わない。でも私たちのデッキの事を言うなら許さないわよ!!」
「ハッ、所詮クズのデッキはクズなんだよ!!」
今『D・ホイール』に乗っていなければヘルメット投げ付けてやりたい、なんて姫兎が拳を握ると不意に遊星が口を開いた。
「何度も何度もクズとばかり…、他の言葉を知らないのか?」
「なに?」
「オレのターンだ!チューナーモンスター『ニトロ・シンクロン[ATK/300]』を召喚!」
新たな遊星のチューナーモンスター『ニトロ・シンクロン[ATK/300]』が姿を現した。
だが、今遊星の場にいるのは『ニトロ・シンクロン[ATK/300]』のみ。本来シンクロ召喚はチューナーモンスター、そして素材モンスターを必要とする、今の状態でシンクロ召喚は無理に見える。
「またチューナーか?シンクロするモンスターもいないくせに、悪あがきか、クズめ!」
「…そこにいる」
遊星が指差したのは牛尾の『ゴヨウ・ガーディアン[ATK/2800]』にコントロールを奪われた『ジャンク・ウォリアー[DEF/1600]』。
だが、今の『ジャンク・ウォリアー[DEF/1600]』は牛尾の場にいる、シンクロ召喚するには自分の場にいなくてはいけない。そして遊星が発動したのはなんとスピードカウンターを必要とする『sp(スピードスペル)ダッシュ・ビルファー』。今の遊星にはスピードカウンターは存在しないはず、牛尾は驚愕の声を上げていた。
すると遊星はゆっくり姫兎の場を指差した。
「…彼女の場を、よく見てみろ」
「あ?…あ、あ―――っ!?」
姫兎の場にはいつの間にか2枚の伏せカードが、こちらに姿を見せていた。
1枚目は『スリップ・ストリーム』。
自分のスピードカウンターが相手のスピードカウンターよりも少ない場合、相手がsp(スピードスペル)を使った時に発動できる罠(トラップ)カード。
そして2枚目は『魂の交差』。自分が罠(トラップ)カード対象効果のを発動した時、その効果を相手にも使用させる効果を持つ罠(トラップ)のコンボ。
つまり、今の遊星のスピードカウンターは姫兎によってこのターン増えた数も数え5つまで跳ね上がっていた。
「これが…オレと姫兎の、結束の力だ!」
「こいつらっ…!!クズカードの分際でナメたマネを!」
「『ダッシュ・ビルファー』!『ジャンク・ウォリアー[DEF/1600]』を開放しろ!」
『sp(スピードスペル)ダッシュ・ビルファー』の効果はスピードカウンターが4つ以上の時、相手の表側守備表示モンスター1体のコントロールを得ることが出来る。
『ゴヨウ・ガーディアン』の束縛から開放された『ジャンク・ウォリアー[DEF/1600]』は、居るべき場所遊星の場へと舞い戻った。
「遊星、後1分よ!!」
「分かった」
2人の会話の内容を聞きつつ、牛尾は見えて来たメンテナンスハッチに気が付き、同時に2人の目的に気が付いた。
「…そうか!ヤツらはあそこを狙っていやがるのか!!」
「気が付いたようね、もうすぐあそこからゴミが流れてくるわ。ゴミと一緒に排気処分されたくなかったら…降りるなら今のうちよ!」
「ちっ…冗談じゃねェ!!負けが見えるからって今度は挑発か!?」
「あら、ならよく見てた方が良いわね!」
得意げな姫兎。途端、遊星遊星の場に光の道が示される。
「『ジャンク・ウォリアー[LV/5]』に『ニトロ・シンクロン[LV/2]』をチューニング!
集いし想いが、此処に新たな力となる――…光指す道となれ!!」
姫兎と…自分の結束の絆が呼び出した、新たなシンクロモンスターが現れた。
「シンクロ召喚!燃え上がれ、『ニトロ・ウォリアー[ATK/2800]』!!」
シンクロモンスターが、更なるシンクロという名の絆の結び付きで生まれた、新たなシンクロモンスター、牛尾の『ゴヨウ・ガーディアン[ATK/2800]』と攻撃力が同じ『ニトロ・ウォリアー』。
そして、強さだけが力ではない。
「『ニトロ・ウォリアー』は、sp(スピードスペル)を使ったターンにおいて相手モンスターとバトルする場合、一度だけ攻撃力を1000ポイントアップする!」
「ナニイィッ!?」
牛尾のライフは残り650ポイント、そして互いのモンスターの攻撃力の差は1000ポイント。
遊星と姫兎はお互い顔を合わせ、何か通じ合ったように頷くと2人同時に片手を上げた。
「「『ニトロ・ウォリアー』!!」」
2人の力で、今目の前にある壁を破壊する。
そして…2人で前に進む!!
「「砕け、ダイナマイトナックル!!」」
同時に攻撃宣言。
その2人に答えるように『ニトロ・ウォリアー[ATK/3800]』は2人に合わせ、牛尾の『ゴヨウ・ガーディアン[ATK/2800]』を破壊した。
「ぬああああああぁぁぁぁっ!!」
この攻撃に牛尾のライフは0へと尽き、一気に『D・ホイール』のスピードが落ち、遊星と姫兎の後ろへと消えていった。
ふたりは勝利を分かち合うが、もうひとつの問題に時間が無い。と、同時にメンテナンスハッチの開いている唯一の3分が終わりを告げてしまった。
「遊星!!」
「姫兎!!」
メンテナンスハッチという名の唯一の扉ががゆっくりと閉まっていくと同時に、前方からゴミが流れ初めて来た。巨大な家具用品の粗大ゴミが転がってくる事によって、互いが見えない。
だがふたりは『D・ホイール』を止めず、メンテナンスハッチへと走り込んだ。
遊星なら、姫兎なら、
必ず抜け出し、会える事を信じているから。
そのまま、2人が何処にいるかも分からずメンテナンスハッチが閉まったのを、サテライトで見守っていたナーヴたちが唇を噛み締めていた。
「遊星とラビットは!?」
「…駄目だ、何も反応がねェ…」
「大丈夫!遊星とラビ姉なら絶対に行けたよ!!」
パソコンから、ふたりの反応が消えてしまった――…。
まさか、2人揃ってゴミに流されてしまったか。
全員の脳裏に、大丈夫といったラリーにまで絶望的な考えがが過ぎっていた、その時だった。
ピッ……ピッ…
規則正しいふたつの電波音が、ブリッツの握るパソコンから聞こえて来た。その反応を見た途端、僅かに不安そうだったラリーの表情がゆっくりと笑顔に変わっていった。
それは間違いなく、遊星と姫兎のものだった。
「やっぱり行ったんだ!」
「アイツら、ホントに抜け出しやがった!!」
「ああ、すげェ!!」
仲間たちに笑顔と歓喜の声が戻って来た。パソコンの前で喜び合う4人、此処まで来たならあのふたりはもう大丈夫。
ふたりで力を合わせて前に進める、自分たちはそれを影で応援していくのが義務だと、そう4人は確信した。
その頃、遊星と姫兎はメンテナンスハッチからの裏道を出てしっかりと再会していた。
道路に出て『D・ホイール』を止めると、ふたりは互いを確認し合うようにヘルメットを外した。
「やったわね、遊星!」
「ああ」
と、不意に遊星が上にある道路の方を力強く睨み付けた。
喜んでいた姫兎も、その遊星の様子を不思議に思い、同じように上を見上げた。
そしてその光景に目を見開く。
「―――…!」
「ジャック…」
そう、そこに居たのは遊星と姫兎のドラゴンを持って行ったかつての仲間であり友だった人物…。
ジャック・アトラスが月を背にこちらを見下ろしていた。
「久しぶりだな遊星、
そして―――…、
待っていたぞ、姫兎」
To Be Continue...