TURN-26>>
新たなシグナー?光無き世界ダークシンクロ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

辺りは新たなキングの名を叫ぶ観客たちの歓声で満たされていた。しかしその中には、サテライトの人間である遊星に対した非難の声も混ざっている。しかし怪我をしたジャックが運ばれていくのを見守る遊星には、今はそんなもの気にとめない。いや、元々気にはしない性格だが。

ジャックが担架で運ばれていったのを確認すると、隣に立っていた姫兎がほっと息を吐いた。それは遊星も一緒だ。
と、姫兎がふと何かに気が付いたように視線をずらした途端、ぎょっと肩を上げた。気がついた遊星は、どうした?と聞こうとしたが、その前に姫兎に腕を捕まれた。


「姫兎?」

「に、逃げるわよ遊星!」


何から、と聞く前に姫兎が先ほど見ていた方からわあわあと人の声が聞こえてきた。遊星までぎょっとしてしまった。
そこにいたのは観客ではなく(いや、先ほどまで観客だった人物はいるかもしれないが)、カメラやらマイクやらを持って喜々とこちらに走ってくる山のような人々。明らかにそれはテレビの取材、報道の集団だ。捕まったらもみくちゃにされるのは目に見えている。


「嬢ちゃん、あんちゃんこっちだよ!」


矢薙の呼びかけに気が付き、姫兎は、早く!と遊星のDホイールを引く。分かった、と遊星も珍しく慌てた様子で事態を把握すると、姫兎からDホイールを半ば奪う形で取り、矢薙たちの元へ走った。

報道陣からの逃げ道を誘導してくれたのは氷室だった。
カツン、カツンと人数分の足音が窓のない通路にこだまする。今遊星たちは、スタジアムを作る際に使われていたという地下通路を歩いていた。氷室の話は、今では誰も使われていないらしい。


「氷室詳しいわね」

「雑賀の情報さ」


ああ、と姫兎は納得する。流石屈指の情報屋、伊達ではない。その情報は正しいのがよく分かる。現に、自分たち以外の人間が居る気配は全くないのだ。
あの大量の報道陣もうまく巻いたようで、後ろから迫ってきている様子もない。一応姫兎は後ろを振り返る。うん、いない。


「それにしてもスゲェよあんちゃん!本当にキングになっちまった!」

「うんうん!遊星なら必ずキングになるって信じてたよ!」


心配事がなくなったのか、矢薙が嬉しそうに遊星に切り出した。龍亞も便乗すると隣の天兵も同意するようにうんうんと頷く。

遊星がキングか、姫兎は隣を歩く遊星を見ながら彼と彼の新しい称号を照らし合わせる。あまりキングという柄には見えないのは仕方ないのだろうか。この事をラリーたちが聞いたら、どんな反応をするだろう。
それより、彼らは無事だろうか。ジャックが彼らの身を解放するように言ってくれていた。それにラリーたちを攫った治安維持局も、元は自分たちが目的だったらしい。接触に成功できたなら、もうラリーたちをむやみに人質に取っている必要はないはず。きっと大丈夫だ。今は信じるしかない。

その姫兎の前で、陽気な龍亞と矢薙を見ながら溜息を吐く氷室が居た。そんな呑気な事言ってる場合じゃないぞ、と言えば全員の視線が氷室に集まる。


「遊星たちの仲間を誘拐するような連中だ、何をしてくるか分かったもんじゃねぇぞ」


とりあえず、と氷室は全員が居ることを一度確認する。


「今は雑賀の隠れ家で大人しくしてるしかねぇな。龍亞と龍可ちゃんも一緒にいた方が安全だろう」

「本当に!?やったあ!遊星と一緒にいられるー!」


声を上げて喜んだのは龍亞だ。相当遊星に懐いているようで、彼の名前を聞いただけでぴょんぴょん跳ねた。
姫兎の隣を歩いている龍可もほっとしたようだった。息を吐いて胸を撫で下ろしている。気が付いた姫兎も、笑って龍可の頭を撫でる。それが嬉しかったのか、龍可は目を細めて姫兎の手をぎゅっと握った。

そして緊張が解けたのか、顔を上げると、あの…、と龍可は自分の右腕を見ながら切り出した。


「シグナーって、なんなの?」

「そういう事ならワシの出番だ!」


喜々として龍可の前に飛び出たのは矢薙だった。いいかい?と、龍可が驚く前に矢薙はぺらぺらとシグナーの話、と思いきや遡り自分の冒険記を語り出した。なんだか見に覚えがある、遊星は思わず和やかになった空気を感じ口元が緩んだ。

氷室の奨めで、遊星たちは雑賀の隠れ家に邪魔をしていた。そこでは全員で、今までのありすぎた出来事の整理を行っていた。フォーチュンカップにいたシグナーとされた存在、姫兎がそのシグナーたちの中心シグナーマスターであること。赤き竜の存在。
氷室が腕を組み、ふんと納得したように相づちを打った。


「そのじいさんが昔見たって言う、赤き竜の絵があの時姫兎の背中に現れたってわけか」

「そうさね、もう随分前に見たもんだが間違いない、ワシゃしっかり見た、嬢ちゃんの背中で光ったものは赤き竜のシグナーたちの痣全てが合わさった姿じゃった」


おれも見たよ!と、龍亞が片手を上げる。
姫兎の背中に現れた赤き竜は、あの時側に居た氷室たちも見ている。確かに遊星や龍可の腕に現れた痣の一部が、そのまま繋がり竜の姿になっていたように見えたが、定かではなかった。しかし実際に遺跡で見たという矢薙が言うのなら、おそらく間違いないだろう。
氷室の視線が姫兎に向いた。


「それで、今その赤き竜の痣はまだ姫兎の背中にあるのか?」

「さ、さあ?背中は確認できないし…」

「じゃあ見てあげよっか姫兎!」

「ちょ、ちょっと龍亞!」


龍可が恥ずかしそうに龍亞に向かって怒鳴った。しかし龍亞はなぜ怒鳴られたのか分かっていないようで、なんだよ?と首を傾げた。素直にあるかないか確認で、純粋に言っただけなのだろう。
しかし困った。光った場所からして、背中なのは間違いない。それは即ち、姫兎は上半身服は脱がなければならないのだ。それは龍亞以外承知しているようで(龍亞も承知しているだろうが)、氷室が気まずそうに姫兎から視線を逸らした。
しかし姫兎に赤き竜があるか無いか、今痣となって残っているのか確認するのは今後の行動として重要だろう。


「わ、わたしが確認しようか姫兎…?」

「え、えーっと…。ええいこの際言ってられないわ!みんな知る必要があるし、ちょっと待ってて!」


観念したのか、龍可の申し出を断り姫兎は部屋の隅のさらに物陰に足を進めた。
しかし、遊星の腕に黙って止められた。ちょうど姫兎の腹の部分に遊星の腕が引っかかり、姫兎は女性らしかぬぐえと声を漏らす。


「ちょっと遊星!ここで脱げってのー!?」

「…………」


ぐ、と姫兎は押し黙った。というか黙らされた。まさに無言の圧力である。何も語っていないというのに、遊星の背後からはそれ以上動くなオーラがびしびし痛いほどに伝わってくる。精神的にも、何故か物理的に痛い。
逆だ、脱ぐなと言うことか。姫兎ははあ、と息を吐き苦笑いするしかできなかった。
どうやらそのオーラは龍亞を除く全員に伝わっているらしく、氷室までたじろいでいる。おお怖い。

遊星は姫兎の腹に回したままの腕を使い、ぐいと姫兎を引き寄せた。抵抗する気も起きなかった姫兎はされるがまま、遊星の胸に納まった。


「別室でオレが見る」

「今すぐここで脱いでやるわっ!」


なんやかんや、結局全員知るべきだと、遊星の無言の反対を押し切って姫兎の背中を露わにした。前は当然上着で隠している。


「これは…!」


氷室が声を上げると、隣にいた矢薙が飛び跳ねた。
姫兎の背中には、遊星たちと同じような痣となって、体を円のようにした竜の姿が刻み込まれていた。それは遊星や龍可、そして今はいないジャックやアキの腕にあった痣が集まったものだ。尾は遊星の、龍可は手、ジャックは確か翼でアキは足だった。ならば残るひとりのシグナーが頭の痣を持っていることになる。
矢薙も間違いない、と言った。昔見た赤き竜の姿が、痣となりそのまま姫兎の背中に存在する。これは間違いなくシグナーマスターの証だと。


「昔はこんなもの無かったはずなのに…」

「ああ、一緒に風呂に入ったときに見た記憶はないな」

「大昔の話ね!子供の時の話だからね!?」


何食わぬ顔、いや少し苛立っているような遊星がさらりと爆弾発言したのを姫兎が必死に訂正する。
だが気にする様子はなく、もういいだろう、と言うと遊星は騒ぐ姫兎を無視して自分のジャケットを、彼女の背中を隠すように肩にかけてやる。姫兎には少し大きめな遊星のジャケットは、うまい具合に姫兎の背中と前を隠してくれた。


「で、ワシの聞いた星の民の伝説は、赤き竜の“頭”“翼”“手”“足”“尾”の五つの部分がそれぞれ分かれたのと、それがシグナーと呼ばれる人たちに痣となって封印されたということじゃ」

「なら、全てが印された姫兎のは…」


氷室が問いかける。


「シグナーマスターは、その人物が云わば赤き竜に値する存在。即ち嬢ちゃんのその痣は赤き竜がひとつとなる場所とされとるんじゃろ」

「待てよ?今分かってるシグナーは、遊星、龍可、ジャック、それに十六夜アキの4人。でも姫兎の背中の痣が浮かんで、赤い竜が現れたって事は…」


あの会場に、側にいたんだ、最後のシグナーが。それを聞いた龍亞はワクワクしながら自分の体を確認し始めた。どっかに痣ないかなー、と喜々としている。
しかし今までの疲労、心労が重なってしまったせいか倒れてしまった龍可を寝かす為、そのまま話は一時中断することになった。




全てが寝静まった真夜中。それは姫兎たちも例外ではなかった。
すうすうと、床で毛布にくるまりながら寝息を立てる姫兎の髪を撫でたのは遊星だ。ぐっすりと眠っている姫兎を見て、遊星は僅かに微笑んだ。愛おしそうに。

遊星はこれからの事を考えていた。やはり姫兎はシグナーマスターだった。その事実は先ほどの痣で、もう背けない現実だ。だが、自分がシグナーだったことは、ある意味救いだった。
これから先のことは分からない。しかし治安維持局の…、ゴドウィンのように姫兎の存在を狙う者が他にもいるかもしれない。姫兎を関わらせたくなかったが、もう存在がバレてしまった以上、姫兎を隠し通すことは出来ないだろう。
だが関係ない。姫兎は自分が護る。シグナーマスターと同じ場所に立つことが出来るシグナーの自分なら、いや仮にシグナーではなかったとしても守り抜くつもりだった。ずっと側で。
そっと姫兎の頬を撫でる。


「姫兎、オレが絶対に護る」


次の瞬間、眠っていたはずの姫兎がぱちりと目を開けた。驚いた遊星は慌てて手を引っ込める。


「す、すまない姫兎、起こしたか?」

「……い、たい…っ!」

「…姫兎!?」


突然頭を抱えて唸り始めた姫兎を見て、ただ事ではないと遊星は悟り、慌てて姫兎を抱き起こす。途端、遊星も自分の痣が疼き出した事に顔を歪ませた。


「…いる、遊星!何かが、近くに…!」


姫兎は頭を抱えつつ遊星と立ち上がると、窓際を指差した。確かに何かが居る。遊星は自分の痣がある腕を掴んだ。それはまるで痛みを押さえ、追い出そうとするかのように。
痣が疼いたのは今が初めてではない。だが今回は、明らかに今までとは違う。まるで抉られるかのような痛み。ぎゅっ、と腕を押さえ込んだ。

それに気が付いたのか、姫兎は遊星の腕を押さえる手に自分の手を重ねた。心配して一緒に押さえ込もうとしてくれた、姫兎の手が触れる。すると、先ほどより確かに痛みが和らいだのだ。ほぅ、と遊星は息を吐く。


「もう大丈夫だ、すまない。それより姫兎は…」

「私ももう平気、でも外に…!」


そうだ、と遊星と姫兎は窓に走り、明かりが殆ど無い真夜中の外を覗いた。
そしてそれは、すぐ目に入った。


「あれは…!」


姫兎が声を上げた。フードで顔を隠しマントを羽織った男が確かにこちらを見ていたのだ。
そして、その腕には光る痣。しかし光は赤ではなく真逆の青紫、形は竜の体ではなく蜘蛛の形を模していた。


「シグナーなのか…っ!?」


しかし男は遊星たちが自分の存在に気が付いたことを確認すると、走ってその場から離れてしまった。
遊星たちは慌てて部屋を出ると、男を追いかけた。


「ねえ遊星!あれって…!」

「ああ、間違いなくシグナーの痣だった!だが…!」


自分たちの持つ痣とは違いがありすぎる。それに昼の矢薙の話が正しいなら、最後のシグナーが持つ痣の形は竜の頭のはず。
しかしあの男の痣は竜でもなんでもなかった。何かの生き物の部分が刻まれているわけではなく、蜘蛛が単体が浮かび上がっていた。
とにかく接触して話を聞くのが早い。


「…だけど、私あの痣を見て嫌な感じがしたわ…、なんていうか…!」


走りながら話をしているうちに、古ぼけた立体駐車場に辿り着いていた。
中に入り階段を駆け上がると、そこには先ほどの男が立っていた。男は遊星たちが追いかけてきた事に驚いている様子はなかった。むしろ、追いかけてくるのが分かっていたかのように、待ち構えているかのようだった。

不気味に笑う男に遊星は嫌な気配を感じ、自分の隣に来ようとした姫兎を腕で制止した。姫兎も突然で驚いたのか素直に立ち止まってくれたので、彼女を背中に庇うように前に出た。


「お前は何者だ!知っているのか、サテライトに何が起きるのか!」

「闇のデュエルに聞け、闇が全てを知っている」


闇のデュエル?姫兎が聞き慣れない言葉を復唱する。


「…いいだろう、全てを聞き出してやる!」

「ちょ、ちょっと遊星危ないわよ!そんなワケ分からないデュエルなんか…!」

「こいつは今何が起きてるか、サテライトに何があるかを知っているはずだ。ここはオレが行く!離れていろ、姫兎」


姫兎の制止を聞かず、遊星はデュエルディスクを作動させてしまった。ここまで来てしまってはデュエリストとして止めることはできない。
分かったわ、気を付けて!姫兎は遊星に従って素直に一歩後ろへ下がろうとした、時だった。

何もなかったはずの姫兎の足下から、ぶわりと青い炎が燃え上がったのだ。


「きゃあっ!?」

「、っ!?姫兎!!」

「っ、ごめん、平気よ!」


姫兎は顔を上げて炎を見上げる。それは勢いを増すと、まるでデュエルフィールドを被い囲うように地を走った。瞬く間に、炎は遊星たちを逃がさないというように辺りを被ってしまった。
これではデュエルをしない姫兎も逃げることはできない。


「我らは闇の祭壇に捧げられし生け贄…。もう逃れる事はできぬ」

「何を言って…っ」


遊星の困惑を遮るように、デュエルは開始された。

男は『ブリザード・リザード[DEF/1800]を守備表示で召喚し、伏せカードを1枚場に出すとターンを終えた。今のところ普通のデュエルと変わった部分は無い。しかし始まったばかりだ、油断はできない。
遊星のターン。遊星は魔法カード『調律』を発動し、効果でデッキからチューナーモンスターを手札に加える事ができる。だが、その加えたモンスターのレベル分手札を捨てなければならない。遊星が選んだのはレベル3の『ジャンク・シンクロン[ATK/1300]』で、そのまま場に召喚すると、効果で墓地に存在するレベル2以下のモンスターを一体守備表示で召喚することができる。先ほど墓地に送った中にいて、遊星が選んだのは『スピード・ウォリアー[DEF/400]』だ。
遊星の場は、あっと言う間に準備が整った。


「レベル2の『スピード・ウォリアー』に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!
集いし星が、新たな力を呼び起こす!光指す道となれ!シンクロ召喚!」


遊星の場に現れたのは当然、十八番の『ジャンク・ウォリアー[ATK/2300]』だ。思わず姫兎も遊星のコンボに息を吐く。


「凄い遊星…、1ターン目からシンクロ召喚なんて」

「バトル!『ジャンク・ウォリアー[ATK/2300]』で『ブリザード・リザード[DEF/1800]』を攻撃!」


遊星の攻撃宣言と同時に、『ジャンク・ウォリアー』は相手モンスターに向かって拳を振り下ろした。
しかし『ブリザード・リザード』は突然、尾を勢いよく回し出したのだ。モンスター効果、姫兎は顔を乗り出した。
確かに『ブリザード・リザード』は攻撃を受け破壊された。が、男は笑う。


「効果発動!このカードが破壊された時、相手に300ポイントのダメージを与える!」


この効果ダメージにより、遊星のライフは4000から3700に削られた。
まさか攻撃した遊星のライフが削られて、相手はモンスターが破壊されたものの無傷なんて、姫兎は苦い顔をした。

途端、目の前で、ドサッ、と何かが崩れた音がした。え、と顔を上げると前でデュエルをしているはずの遊星が苦しそうに膝を折っていた。


「遊星っ!?」

「バカ、来るな!」


遊星が声を張り上げて駆け寄ってくる姫兎を制止をするが、聞くはずもない姫兎は遊星の体を支えた。
そしてふと、姫兎は足下にあるコンクリと鉄板でできている床に目を落とした。そこで、ぞっと背筋が凍る。床が真っ二つに割れて崩れていたのだ。デュエルのソリッドビジョンじゃない。


「…なによこれ。まさかアイツ、アキと同じ…!」

「いや、確かに衝撃は本物のようだったが、何か違う…」


姫兎の手を借りながら、遊星は立ち上がった。
このデュエルは普通じゃない。男は闇のデュエルと言っていたが、まさかデュエル自体に何か特殊な力が働いているのか。

しかしまだ1ターン目だ、闇のデュエルでも何だろうと闘うしかない。遊星は姫兎に礼を言い構えた。


「遊星平気なの!?もし無理したら…!」

「蹴られるのはごめんだからな」

「分かってるじゃないの」

「平気だ。確かに特殊な力が働いているかもしれないが、闘わなければ分からない。危ないから離れていろ姫兎」


姫兎に片手を上げると、遊星は場に2枚伏せカードを出してターンを終了した。姫兎は未知のデュエルをする遊星が心配なのか、離れてろと言われてもせめてデュエルの邪魔にならない程度に一歩だけ離れ彼の側に立った。

男は何事もない様子で、ドローをする。やはり、相手は遊星がダメージを受けることは分かっていたようだ。


「私は永続トラップ『リビングデッドの呼び声』を発動」


あれは墓地にいるモンスターを攻撃表示で場に特殊召喚できる永続罠カード。

男が墓地から引きずり呼び出すモンスターは1体しかいない。男の場に先程遊星がライフを削って破壊した『ブリザード・リザード[ATK/600]』が戻ってきてしまった。
しかし攻撃力は遊星の『ジャンク・ウォリアー[ATK/2300]』には到底及ばない。ならば壁モンスターとして使うわけではない。この場合考えられるのは、強力なモンスター召喚への生け贄。
姫兎は顔を上げた。


「遊星、気を付けて!」

「さらに手札から魔法カード『アイスミラー』を発動!」


あのカードは場にいるレベル3の水属性モンスターを写し身を造り出す、即ちデッキから同名のモンスターを場に特殊召喚できる。冷たい氷の鏡は、場の『ブリザード・リザード』を写し込み、同じ姿へと変えていった。
それだけではなかった。男はまた同じようにもう1枚の『アイスミラー』を発動。


「場に『ブリザード・リザード』が3体…!」

「なにをしようとしている!?」

「2体の『ブリザード・リザード』をリリース!レベル8のダークチューナー『カタストローフ[ATK/0]』をアドバンス召喚!」


男の場に現れた禍々しいモンスター。レベル8という高モンスターでありながら、攻撃力はない。チューナーモンスターのようだが、様子が違う。


「ダーク、チューナーって…?」

「残り1体の『ブリザード・リザード』にダークチューナー『カタストローフ』をダークチューニング!」


黒い闇が辺りを包み、『ブリザード・リザード』は『カタストローフ』に呑み込まれていく。チューナーモンスターはレベルが8、そして『ブリザード・リザード』はレベル3。この場合、普通のシンクロ召喚ならならばレベル11の高モンスターが現れてしまう。
しかし、違う。遊星は気が付いた。チューニングするとき必要なレベル、即ち星が黒く染まっていく。


「どう云う事だ!?」

「星が、闇に…!」

「そう、光は闇となった…。ダークシンクロ召喚とはチューナー以外のモンスター1体のレベルからダークチューナーモンスターのレベルを引いた数と同じレベルのシンクロモンスターを召喚できる!」


遊星と姫兎は同じ反応を見せた。
つまり、『ブリザード・リザード』のレベル3からダークチューナーの『カタストローフ』のレベル8を引くことになる。


「それじゃあ、レベルがマイナスになるわ!そんなモンスター…」

「あるのだよ光なるシグナーマスター、我らの闇の世界には、レベルマイナス5のモンスターがね」


男がシグナーマスターと姫兎を呼んだと気付き、遊星は姫兎の前に腕を出し立ちふさがった。こいつは姫兎がシグナーマスターだと知っているのか。
だが、男はその動きさえ愉快に感じるのか、怪しく笑い1枚のカードを手に取る。


「闇と闇重なりし時、冥府への扉は開かれる――光無き世界へ!」


黒い闇が、姿を現した。


「いでよ、『氷結のフィッツ・ジェラルド』!!」






To Be Continue...
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -