TURN-25>>
赤き竜とシグナーたち!目の当たりにする運命と未来

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赤い光に呑み込まれたシグナーたち。ふと、最初に龍可の意識が浮上した。

目を開ければ、もうそこには会場もフィールドも、ましてや観客たちの声も姿も無い。龍可は自分の状況を確認し、辺りを見回した。


「ここは…、」


まるで、そこは宇宙。

龍可は自分を取り巻く光の球体に身を浮かせ、その宙を飛ぶように移動している。
下には、宇宙に造られた一つの光の道。そこには遊星とジャックがフィールドでライディングデュエルをしていた時と変わらず、『D・ホイール』に乗り三体のドラゴンとその道を走っていた。
龍可は自分の後ろに人の気配を感じ、振り返った。


「アキさん…!」

「……ここは、一体」


そこにいたのは、龍可と同じように球体に包まれ浮いて移動するアキ。彼女は龍可の存在を目で確認すると、辺りを同じように見回し始めた。


「…あれは、っ!」


すると、『D・ホイール』に乗りながらも状況を把握しようとしていた遊星が、何かに気が付いたように声を上げた。
つられてアキ、龍可、そして遊星の横を走るジャックも彼の視線を追う。

そこには、何かのモニュメントのような物の前で、古代人のような服装の人々が何かに乞うように頭を下げていた。
その彼らの先には、腕を空に掲げる五人と、一番高い位置で腕を広げている人物。


「あれは…いつかゴドウィンが語った星の民!」

「星の民、?……っ!あれは、オレたちと同じ痣!」


遊星が腕を掲げる人物たちのそこには、自分たちのものと同じように紅い光を放つ竜の痣。
じゃあ…、と遊星は五人のシグナーと思われる人物の上に立つ人へ視線を向けた。


「…あれが、シグナーマスター…」


姫兎と、同じ存在の。確かにあの人物の背中には、赤き竜が円を描くようにしている光があった。

遊星たちは止まる事なくその敷かれた道を走る。そして、道なりに進んでいくと、全員に必ず見慣れた町が見えてきた。見間違えるはずがない。

隣り合わせに存在する、ネオ童実野シティーとサテライト。


「なんだ…っ!」


さらに進んだサテライトには、まるで燃えているような紫色の光の巨大な地上絵のような物が描かれていた。

その光は、まるで蜘蛛のような絵を描いている。
姿を知らしめるならと、遠慮なしに建物を突き破って、光は禍々しく燃える。光は止(とど)まる事を知らず、サテライト中を飲み込んでいく。
生まれ故郷と全く同じ姿をしたその廃墟街が、ガラガラと崩れ去る音。

遊星は信じられない、と目を見開く。


「サテライトが、…滅んでいく…」


消えていく、跡形もなく。
これはいったい何の光景なのか、過去であれば幻影か。それとも、赤き竜が見せている、


「未来、なのか…っ!?」


すると、低い竜の唸り声が響いた。
なんだと遊星たちが顔を上げれば、そこには自分たちの真上を赤き竜が飛び立っている姿。


「赤き竜!これが…これが、未来なのかっ!?サテライトは滅びる運命にあるのか!!」


答えるとは思っていなくても、遊星は叫ばずにいられなかった。
自分の育った町、仲間と出会った町、大切な人といた町。それが、こんな無惨な姿で滅びようとしているのか。

すると赤き竜は再び声を上げると、なにやら動きを見せた。どこかに向かって飛び立ったのだ。
遊星たちが目で追った先には先程のシグナーたちが。


「赤き竜…、一体なにを見せる気なんだ…?」


遊星がそう呟くと、赤き竜は両腕を広げるシグナーマスターの元へ降り立った。

次の瞬間。


「………えっ、?」


遊星は目を見開いた。

シグナーマスターは、まるで吸収されるように赤い光に包まれ、そのまま赤き竜に取り込まれていった。
赤き竜は再び飛び立つ。

よく解らない。思考がついて行かない。遊星はその光景を暫く見つめている事しかできずにいた。何故、シグナーマスターは赤き竜に消えていった?
これでは、呼び起こす者なんかじゃない。

生け贄。

その一つの単語が頭に浮かび、強く頭を振った。
これが正しいシグナーマスターの運命なら、姫兎はどうなってしまう。この行く先、彼女に待ち受けているのは…。


「うそ、だ…」

「っ!!遊星あれっ!」

「!」


ぐらりとした意識を、龍亞の叫び声で浮上させた遊星は顔を上げた。
龍可が指し示した先は、上、宙。


「姫兎ッッ!!」


そこには、光のない赤い瞳で浮いている姫兎の姿。ぼんやりした瞳で、見つめている先は何もない。はっ、と遊星は気が付いた。
赤き竜が、姫兎の辺りを飛び回っている事に。


「姫兎!目を覚ませ!!」

「姫兎…っ!?」

「姫兎ッ!!」


遊星、ジャック、龍可は姫兎の名を必死に叫ぶ。だが、姫兎はぼんやりしたまま、宙を立っているだけ。


「あの子が…シグナーマスター…?でも……、っ!」


するとアキは言葉の途中で、はっ、と顔を上げた。遊星の場を飛んでいた『フルムーン・ドラゴン』が動きを見せたからだ。
遊星の攻撃宣言も、ましてや今はデュエルが中断されているはずが、バサッと翼を大きくはためかせた。


「フルムーン…?」


遊星がそれに気が付き、名を呼んだ。
するとそれが合図かのように、『フルムーン・ドラゴン』が姫兎に向かい、一気に飛び立った。
アキたちも、黙ってその光景を見ていた。
すると、フルムーンが姫兎の元に行くと、今まで離れなかった赤き竜は、まるで安心したかのように声を上げ、そのまま消えていったのだった。


「…な、なんだったんだ?」


一体、赤き竜ににとってシグナーマスターはどう云った存在になるのか、まだ解らない。
遊星の不安は、募っていくばかりだった。
赤き竜が姿を消すと、姫兎の瞳が、いつもと変わらない空色の光が戻っていった。


「………え、へ?」


ぱちくり、と瞬きをした姫兎は一瞬何がなんだか解らない表情を見せた。
意識は完全に戻ったようだ、……が。


「え、ちょっ、と…、きゃああぁぁぁぁあっ!?」

「姫兎!?」


ついでに空中で体を支えていた力もなくなったのか、姫兎の体が一気に傾いた。

アキや龍可も浮いているので、姫兎も平気だとばかり思っていた遊星だったが、姫兎が落下してきて、慌てて『D・ホイール』を走らせる。
姫兎が落下してくるだろう場所へ走り、そこで受け止められるように両手を広げた。


「姫兎!こっちだうわっ!」

「ひゃあっ!?」


だが、受け止められはしたが当然機体は大きく傾き、二人で悲鳴を上げた。ついでに遊星、軽く自分の頭を機体にぶつけたようです。上げた顔の周りでちかちか星が瞬いてます。


「えっ、あれ遊星!?なんで…今デュエル中、って此処ドコ!?」


正気に戻った姫兎は慌てるように辺りを見回し始めた。

今姫兎は『D・ホイール』の一人用運転席に、遊星に抱えられている状態でいた。気恥ずかしく、慌てて降りようとしたが、走っているしかもデュエル中でスピードがある『D・ホイール』から飛び降りるなど自殺行為だ。

顔を青ざめさせると、姫兎は何とか体を縮めてできるだけ運転の邪魔にならない体制をとる。


「……遊星、デュエルを続行する!」

「なにっ!?」


途端、前を走っているジャックの言葉に、遊星は信じられないというように驚いた。
こんな状態で、しかもあんな未来の光景であろう者を見たにも関わらず。


「俺は、このデュエルの果てが例え地獄に続こうとも、貴様とは決着をつける!!」

「ジャック…!!」

「解らんのか遊星!俺たちのデュエルが俺たちを此処に運んだ!ならば、此処から抜けるには俺たちのデュエルを完結させなければならない!」


遊星は唇を噛んだ。

確かに、ジャックの言い分には一理ある。
此処に来た原因、赤き竜を呼び出したのは間違いなく自分たちのデュエルだ。

しかし、今は……。


「遊星、私やっぱ降りようか?」

「…この状況でどうやって飛び降りる気だ」

「う」

「いい、ジャックはああ言い出したら聞かない、デュエルには決着をつける。
だから……、」


ぎゅっ、と遊星が姫兎を抱えている腕に力を入れる。
真っ直ぐ、姫兎を見て。


「側に、居て欲しい」


真剣な、遊星の言葉。そして眼差し。

姫兎は一瞬、戸惑ったように目を見開いたが、すぐに笑った。


「分かった、私は絶対に手を出さないから。
……勝ってよ、遊星」

「…分かっている」


遊星はそのまま姫兎から腕を抜くと、しっかりカードを握った。















キキィッ、と『D・ホイール』が強制的に止まる音が響いた。
辺りは唖然、と沈黙した。状況が把握できていない、というように。先ほどまで騒がしかったのが、嘘のようだ。
そこには、辺りの観客と変わらずぽかんと口を開けている氷室、そして矢薙たちの姿も。

そこは、フォーチュンカップデュエル会場。


「なっ、なにが起きたんだ?」

「確か赤い竜が飛んだと思ったら、目の前が光になっちまったよ!」

「ああっ!あれ見て!」


興奮したように龍亞が指さしたのは、会場の巨大モニター。そこには、今まで闘っていたジャックと遊星のライフが記されていた。
ジャックのライフが、0だと。


「このデュエル、遊星が勝ったわ」

「えええっ!!」

「というか、姫兎はっ!?」


あわてて混乱状態の龍亞が、龍可の隣に座って居たはずの姫兎が居ないことを指摘する。
龍可は焦る様子もなく、いつの間にか転倒しているジャックに駆けよる遊星に視線を落とした。

そこには遊星の隣に姫兎。


「大丈夫かジャック!?」

「ジャック!」


慌てて駆けよった先に倒れているジャックは、衝撃で頭からの出血をしていた。ヘルメットも割れ、かなりの怪我を負っている。
そして苦しそうに顔を上げ、ジャックは呻くように言葉を繋げた。


「バカな…っ、キングである俺が、再び敗れるなど…」


あまりにも信じられない、というようなジャックの言葉。だが、キングという言葉を聞き、遊星は顔色を変えず返した。


「……お前が同じ戦術でくるのは読めていた。キングであろうとするプライドに、お前は負けたんだ」


キング故の敗北か…、そうジャックは呟き、意識を失った。

ジャックは最後のターン、あの日の夜のデュエルと同じ戦略とパターンを狙った。スターダストがいて、フルムーンがいて、レッドデーモンズがいる。
そして、決着は罠(トラップ)カード『メテオ・ストリーム』。

だが、一度使った戦術を再度使うのは相手に手の内を晒しているも同然。それでも、その戦術で一度負けたジャックは同じ戦術で勝たなければいけなかった。キングは、負けを許されない。価値で塗り直さなければいけない。
しかし遊星はそれを解っていたのだ。


「つ、ついに決着ーッ!!」


すると、今まで状況が把握できていなかったMCが、やっと理解したか慌ててマイクを取った。


「ウィナー不動遊星!!
キング、ジャック・アトラスの無敗神話が打ち破られ、此処に新たなキングの誕生を我々は見た!

新たなるキング、その名は不動遊星ーッ!!」


全ての映像に遊星の姿が流れ、その名は高らかに、ネオ童実野シティーに響き渡った。


「サテライト出身の、キングの誕生だーっ!!」






The end...
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