昔から、トウコはぼくがいないと何もできなかった。
ベルは確かにどこか抜けているけど頭は悪い訳じゃなかったから、教えてあげなくてもなんとかしようと自分でやっている事が多い。でもトウコは違った。
別にバカじゃないけど勉強も運動もできないよ分からないよとすぐぐずる。だからメンドーだなとため息を付きながらもぼくが全部教えてあげていた。
だから、いつしか心の何処かで責任感と優越感が存在していた。
トウコにはぼくがいないといけない。ぼくが彼女を引っ張っていかなければいけないって。ぼくがいないと、彼女は前に進んでいけないから、ぼくが隣で全部教えてあげないといけないんだ。
キミの足音が、後ろから聞こえてくるのに、ひどく安心感を覚えた。
「凄いよトウコ!あんなにいたプラズマ団、ひとりで全員やっつけちゃったんだね!」
「へへー!わたしとわたしのポケモンたちにかかれば、あんなの楽勝よ!ね、みんな!」
だけど、旅に出てから同時に踏み出した足音が後ろから聞こえづらくなった。
トウコの周りで笑うポケモンたち。
いつの間にか、トウコは走り始めた。いつもぼくの後ろを歩いていた彼女が、ポケモンや旅で出会った人たち、みんなに触れていくうちに、歩く速度を速めたんだ。
たったったっ。
ぼくの後ろから走ってくる足音。
「よーし!この調子で次の町に行きましょう!」
「おー!」
たったったっ。
その足音はとうとうぼくの隣へとやってきた。だけどそのまま足音は止まらず、振り返らず、トウコはぼくの横をあっさりすり抜けた。どんどんぼくから遠ざかっていく。慌てて手を伸ばしても、もう腕の長さじゃ届かない距離。
彼女の後ろ姿が、ひどく小さい。
「トウコ、ストップ」
「え?」
やっと振り返った彼女は、もう何もかもが遠かった。
ねえ、ぼくを追い越してしまったキミ。ぼくよりも強くなってしまったキミ。もうぼくの手助けはいらない?一人で走り初めてしまったキミは、もうぼくに答えを聞いてくることはないのかな。
いつの間にか、ぼくはぼくの存在が、解らなくなってしまった。
不思議そうに首を傾げたトウコは、ぼくの顔を覗き込んだ後、眩しくて苦しいくらいの笑顔を向けた。
「そんな怖い顔しちゃダメよチェレン!大丈夫、わたしがチェレンを守るから怖くないわよ!」
キミの足音が、前から聞こえる。
足音