※夏休み企画リクエスト、メイ→チェレ主♀



「カット!どうしたのメイちゃん?なんだか調子悪いね」

「申し訳ありません…!もうワンテイク、お願いできますか?」

「いや、疲れてるみたいだし、今日はここまでにしよう!明日また、このシーンからね」


監督のその言葉を聞き、わらわらと解散するキャストたち。時々そばにきて、こんな日もあるよ、明日頑張ってね、と優しい言葉をくれるのは嬉しかったが、反面申し訳なくなった。

困ったな、メイはベンチに腰掛けて台本を睨み付ける。はあ、と情けない溜め息を付いてしまった。
今回撮影中の映画の台本に書かれた物語、テーマは恋愛、しかも悲哀もの。ヒロインの少女がとある青年に叶わない恋をする、というのが大雑把な内容。今回その映画のヒロイン役に指名されたメイは当然、恋をする少女という役柄なのだが。どうもイマイチ演技が掴めない。


「叶わない恋…」


ぼんやりと空を眺めながら呟いた時、頭に浮かんだのは今まさに自分が片想いしている青年の顔。


「元気ないね、どうかしたの?」


そう声が聞こえた瞬間顔を上げると、焦がれていたその青年の顔が目の前に広がっていて。メイは思わずベンチから立ち上がってしまった。そこまで驚かれると思っていなかったのか、話しかけてきた青年までぱちくりと目を丸くした。


「ちぇ、チェレンさん!?」

「ごめんごめん、そんなに驚くとは思わなくて」


くすくすと楽しそうに、優しく笑うチェレン。少し固そうな黒髪を揺らしもう一度、どうかしたの?と、問いかけてくれた。
メイは空気が抜けたように、ゆるゆるとベンチに座り直す。チェレンもその隣へ腰を下ろした。そして手に持っていたミックスオレを差し出してくれた。ありがとうございます、メイは思わず笑みを浮かべながらそれを受け取ると、チェレンも笑って、どういたしまして、と返してくれた。そのチェレンの片手にはもうひとつのミックスオレ。どうやらメイがここで落ち込んでいるのに最初から気が付いて、気を遣って買ってきてくれたんだろう。チェレンが自分の為にしてくれた、メイはその事だけでも凄く嬉しかった。思わず貰ったミックスオレをぎゅっと胸に抱く。

そこでメイは、あ!と気が付く。ん?と首を傾げたチェレンを隣に、台本を手に取るととあるページを開く。
それはシーン4。主人公の少女がポケモンバトルに勝てず落ち込んでいると、青年が励ましに飲み物を差し出してくれる。少女は、それが凄く嬉しくて。その優しさに、次第に少女は惹かれていったのだ。


「…同じ」


自分は既に前からチェレンが好きだ。でも、確かに今主人公の少女と同じ、自分は嬉しかった。気を遣ってくれた、とかじゃなくて、自分の為だけに彼が動いてくれたことが。


「…メイ、大丈夫?」

「あ、はい!あの、次の映画で主人公役を頂いたので、緊張してて…」

「主人公!凄いね、メイがバトルも仕事も両立して頑張ってきた証拠だね」


おめでとう、頑張って。ぽん、と頭を撫でられてメイはますます嬉しかった。ありがとうございますっ、と思わず声が裏返りながらもなんとか返事をした。心臓がばくばく言ってるけど、もうどうでもいい。頭が真っ白なのか真っ赤なのか自分でも分からない。
あの主人公の少女が言葉にしてた感情と一緒だ。彼女も、全く私と同じ。今彼は自分だけを見て、自分のことを考えてくれていること。たまらなく、嬉しい。

途端、2人の会話を遮るようにライブキャスターが鳴った。
あれ、と思いメイは自分のキャスターを確認するが鳴った形跡はない。ふとチェレンを見れば、ライブキャスターを押す仕草を見せた。途端に音は鳴り終えたのでどうやらチェレンのキャスターがなったようだ。
失礼と思いつつ、思わずメイはキャスターの画面を覗き込む。そこにはメイも知った顔がひどく焦った表情で映っていた。


「ベル?そんな慌てて、どうかしたの?」

『チェレン、大変!アデクさんがトウコを見たって…!』


画面越しのベルがそう叫んだ途端、慌ただしくチェレンがベンチから立ち上がった。それ、本当だよね、と冷静を装いながらもどこか切羽詰まった様子で画面に問い掛ければチェレン。いくつか会話を交え、チェレンはライブキャスターを切った。


「今度は捕まえてやらないと…!」


そう言ったチェレンは、さっきとは打って変わっていた。メイも思わず立ち上がる。
さっきまで彼は自分が悩んでいたことを気にしてくれた、映画の大役を任されたことを褒めてくれた。なのに、今の彼はベルのたった一言で全て別の子のことで頭がいっぱいになっている。


「チェレンさん、」

「え、あ、えっと、ごめん!急用ができたんだ、また今度ぼくから連絡入れるよ!」


それだけを言うと、チェレンは素早くケンホロウをボールから出すと、その背中に乗って飛んでいってしまった。見たことのない、自分に向けてくれたことのない、とても必死な顔で。

残されたメイは再びベンチに座り直すと、黙って映画の台本をぱらぱら開いた。


「『やっぱり貴方は、私と話しながらも違うあの子のことを想っているの』…」


そのセリフは、最後のシーン。青年と話をしていたのに、とある少女の話を聞いた途端血相を変えて去ってしまったという、主人公が青年には片思いの相手がいると知った時思わず漏らした言葉。なんだかそのセリフが、今自分にあまりにもぴったりで。

自分の隣に残された、彼が立ち上がった衝撃でひっくり返ってしまった彼のミックスオレの缶を見て、メイは台本をそっと閉じた。


さて、今宵の物語は閉幕です。


……………
うちのメイ→チェレで目覚めてくれて光栄です!リクエストありがとうございました!



 

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