メイ(※BW2女主)→チェレ メイちゃんのキャラをいまいち掴めてない。
チェレンさんに、恋をしました。 これが初恋です。
最初は、解らないことはすぐ教えられるくらい何でも知っていて、ジムリーダーで凄く強くて、ポケモントレーナーの先輩として憧れでした。 でもいつしか、格好良くて優しくて素敵なチェレンさんに、ポケモントレーナーとしての憧れ以上の想いを抱くようになって。 そして、異性として意識するようになるようになりました。
でも、チェレンさんには好きな人がいるとか、付き合っている女性がいるという噂をスクールでよく聞きます。確か、ポケモンをくれたベルさんはチェレンさんと幼なじみだと聞きました。いつもよく一緒にいて凄く親しげに話をしていたから、もしかして、と思ってベルさんに直接尋ねました。チェレンさんの彼女ですか?と。そしたら、ベルさんは笑って言いました。チェレンは幼なじみで凄く大切な人だけど、そんなんじゃないよ、って。 他に、ベルさん以上にチェレンさんと親しく話をする女性を、私は知りません。
なら、チェレンさんに好きな人がいる、彼女がいるって話は、本当にただの噂だったのかな?と、少し安堵したその日。
「分からない部分があったら、遠慮無く聞いてくれて良いからね」
「は、はい!ありがとうございますっ!」
スクールの生徒が全員帰った後、チェレンさんは新米ポケモントレーナーの私に、特別にと勉強を教えてくれることになりました。 ひとりでジムリーダー直々の抗議なんて羨ましい、と呟きながら帰っていく生徒には申し訳ないけど、ちょっぴり優越感でした。今だけ、他の生徒はいないからチェレンさんを独り占めできるんだもの。
目の前で私の開いたノートと、自分のノートを見ながらポケモンのタイプ、相性などの説明をしてくれるチェレンさんを、私はじっと見つめた。 整った顔がさらに優しく微笑んでいている。正直、話の内容は殆ど入ってきません。チェレンさんの優しくて低い声が心地良い。
「ここは…あ、ちょっと待ってね。確か分かり易い教材が…」
ふと、チェレンさんがくるりと回り、後ろの教卓に置いてあった自分のカバンを漁り出す。影からでも分かる、しっかり鞄の中は整理されているのが見えました。 そう思った矢先、
「――あっ!」
チェレンさんの焦ったような声と、何かチェレンさんのカバンからカツンと音を立てて床に落ちたのは殆ど同時でした。その四角い何かは私の足下に落ちてきて、反射的に拾い上げました。 ああ、ごめんね、とチェレンさんが片手を差し出してくる。でも私はすぐには返さず、思わずその四角い何かが気になってしまい手の中でよく見てしまいました。
それは、写真入れ。 持ち運びできるように、柔らかい生地に包まれた四角い写真入れの中にあったのは、私と同い年くらいか、それより少し上くらいの男の子と女の子2人が写っていました。 見覚えがありました。女の子のひとりは、幼いけどきっとベルさんだ。今のように眼鏡はかけていないけど、ふんわりした金髪に天真爛漫な笑顔は今と同じ。 男の子はきっと、チェレンさん。今は少し長めの黒髪は写真の中では短いし眼鏡をかけて少し難しそうな顔をしていましたが、間違いありません。 だけど、2人の間で凄く明るい笑顔でこちらを見ている女の子は、全く知らない人でした。ピンクと白のキャップ帽に長いウェーブのついた髪をひとつにした、ベルさんとはまた別の明るそうな女の子。
「……これ、2年前に旅に出る前記念に撮った写真だよ。ちょっと恥ずかしいね」
チェレンさんが少し照れた顔で笑った。 彼の声を聞いて、慌てて手に持ちっぱなしの写真を返すと、彼は懐かしげに、優しい表情で写真を見つめていました。
「あの、チェレンさん。真ん中の女の子は…?」
流れで思わず問いかけてしまう。すると、チェレンさんの顔がふと寂しげに変わってしまいました。 あまり見慣れない表情で、悲しそうで、いけないことを聞いてしまったと慌てて謝ろうとしました。
「…もうひとりの幼なじみだよ」
なのに、チェレンさんは答えてくれました。
「2年前にね、まあ色々あって…今は音信不通なんだ。なにをやってるのか、連絡くらいよこせば良いのにさ」
って、余計な話だったね、ごめん。苦笑いをしながら、チェレンさんは写真をカバンの中にしまい直しました。ここでもう、この話はおしまいにしようとしたのだと。私も、チェレンさんのあんな悲しげな顔は見たくなかったので、それ以上聞くのはやめました。
でも少し気になったのは事実。チェレンさんにあんな表情をさせる女の子は、どんな人なんだろうって。 それに、さっき写真を見ていたチェレンさん。少し頬を染めて、懐かしそうに、でもどこか愛おしげで。 全部、初めで見るチェレンさんの表情。
さあ、再開しようか。写真をしっかり仕舞い、何もなかったようにまたチェレンさんがぱらりと本をめくった、時でした。 ガタガタガタッ、普通の風にしては少し強い音で校庭に繋がる扉や窓が音を立てました。チェレンさんも気が付いたようで、本から目を離し、顔を上げました。暫く様子を見ているだけだったけど、ガタガタッ、音はまだ続いていて。
「なんだろう…。ごめん、ちょっと見てくるから待ってて」
開いたばかりの本を閉じ教卓に置くと、チェレンさんはひとり校庭へ出て行きました。開いた扉の先は、もう真っ暗。 素直に待っていたけれど、ただ様子を見に行っただけにしては長い沈黙。おかしいな、と思い少し不安になってきました。チェレンさんなら大丈夫だと思うけれど、まさか。 私は待ちきれなくて、チェレンさんが出て行った校庭の扉に向かい、そっと開きました。
そして、目を疑いました。 こちらに背を向けたチェレンさんの目の前に、真っ黒で大きなポケモンが羽音と風を切るを立てて降り立っていたんです。どこかで見たことのあるポケモン。まさか、とは思ったけれど、あれは昔絵本で読んだ時に出てきた黒い英雄のポケモンと瓜二つでした。
なんでそんなポケモンがチェレンさんの目の前に、そう考えているうちにそのポケモンの背中に、人影が見えました。人、女性?辛うじてある校庭の明かりに照らされた長い髪の色とウェーブには、どこか見覚えが。 その女性は、チェレンさんに向かって元気良くぶんぶんと腕を振ると、滑り落ちるようにチェレンさんの目の前に降り立ちました。 ちらりと見えたチェレンさんの表情は、信じられない、と言っているようでした。女性はまるで、よっ、と言っているように片手をあげて何やら話をしている。しかし次の瞬間、チェレンさんは怒鳴ったようでした。 怒ったチェレンさんの表情を見て、少し苦笑いしながらたじろいだ女性。
そして、
「―――――!」
チェレンさんは泣きそうな表情になったかと思うと、その女性を抱きしめました。大切なものを見つけた時のように、離さないように。女性は少し驚いていたようだったけれど、すぐチェレンさんに腕を回して、笑っていました。さっきのチェレンさんと同じように、優しくて、それで。
そこで気が付きました。私は扉を2人に気が付かれないようにそっと閉めて、その扉に背を預けました。ずるずる、と崩れて。
あの女性、少し大人びた顔をしていたけど、さっきチェレンさんが持っていた写真に写っていた“もうひとりの幼なじみ”の女の子に間違いありません。 それど、チェレンさんのあの表情。 ああ、きっとあの人なんだ。チェレンさんの想い人。きっと女性も、チェレンさんを―――。 幼なじみ、に向ける表情ではありませんでした。チェレンさんも、ベルさんとはまた違う表情で、あの女性を見ていました。
チェレンさんは凄いなぁ。待っていたんだ、きっと。音信不通でも、2年も、あの女性が自分の目の前に帰ってくるのを。 あの顔を見ればすぐ分かります。それほど、チェレンさんは。
初恋は実らない。 そんな話を聞くけれど、まさにその通り。 不思議と涙は出ませんでした。でも、やっぱり悔しい、苦しい。 それと、羨ましい。 チェレンさんの色んな表情を、あの女性は見ることができるんだと。私が知らない、チェレンさんを。
そう考えると、ああ、勝てない。 私はその場にしゃがみ込み、そっとうずくまりました。
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