レストランの運営が終わった夜遅く。全てのお客様を見送り、後片付けを終え、スタッフも帰って行く。
すっかりがらんとなったレストランの最終チェックをしていると、いつの間にかコーンが1人ふらりといなくなっている時がある。ごくまれだけど。初めてそんな事が会った時は本当にびっくりしたけど、今はもう時々ある事だから。ポッドも気が付いたみたいで、エプロンを外し近くのテーブルに置いた。出かける合図。 さ、大事な片割れを迎えに行かなくちゃ。僕が当たり前のように言えば、ポッドはりょーかい、と片手を挙げた。
コーンがいるのは決まって近くにあるビルの屋上。サンヨウには珍しく、もう誰も使っていない廃墟ビルで、近々取り壊しされるって聞いた気がする。そしたら、コーンは次、どこを選ぶんだろう。 案の定、屋上に上がればコーンはいた。いつもフェンスを乗り越えて、落下ギリギリの所に立っている。星を見ているような仕草に見えるけど、残念ながら今日は月も見えないくらいの、真っ暗な曇天だ。辛うじて下にある電灯の光が暗い夜を照らしている。色んな色が混ざり合っていて、白にもなる光は正直目がチカチカする。
鉄製の扉が擦れて開いた音に気が付いたのか、それとも背後に僕らの気配を感じたのか、コーンはそのまま振り返った。 屋上で周りには風を妨害する壁はない。春になりきれない季節の風はまだ冷く、僕らの髪を掬って靡かせる。
「ようコーン、迎えに来たぜ」
「残念だね、今日は星が全く見えなくて」
そんな日常でしそうな会話が少し続く。 でも返答をしながらも、コーンはその場から動かない。一歩踏み出せば、そこから先は後戻りできなくなる渡し船が待っている。水を揺らす波のように、ゆらゆらとコーンの足下に風が吹く。
「ねぇねぇコーン。コーンはよくそこに立ってるけど、もしかして」
死にたいの?
何気なく問いかけてみた。コーンは特に驚いた様子も、戸惑った様子も見せずくすりと笑い、また足下のない先を見据えた。
「もしそうだ、って言ったら…どうしますか?」
そうだなぁ、コーンに勝手に死なれたら僕は死にたくなっちゃうくらい悲しいかな。別に口には出さなかったけど、隣のポッドが同じ事を考えていたみたいで、愚問、と言いたげに笑っていた。
僕とポッドは同時にフェンスを飛び越え、コーンの隣に降り立った。
「コーンが死にたいって言ったら、」
「俺たちも一緒に死ぬ、かな」
三つ子は生を受けた日も一緒、生まれた日も一緒、過ごした日々も一緒、年をとるのも一緒。 じゃあ、死ぬ日も一緒。
するとコーンはまたくすりと笑うと、フェンスを越えて中へと戻っていった。ゆっくりと、こちらを振り返る。
「でしたら、コーンはデントとポッドに死なれたくないので、死にたくありません」
帰りましょうか。そう両手を差し出したコーンの手を取る為、僕とポッドもコーンの元へ向かいフェンスを飛び越えた。
後日、あのビルは取り壊しされ、コーンがいなくなる事はもうなくなった。
ロストトライアングル
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