「もうたくさんだ!!なぜ、僕がいちいちコレを食べなければいけないんだっ!」
思いっきり罵声が辺りに響く。住宅の壁に反射して自分の声がうるさくも感じるが、今は構っていられない。そもそも、僕が怒鳴る羽目になったのは目の前にいるコイツのせいだ。 名前はフロン。黄金の瞳をぱちくりさせながら、なぜ怒鳴られたか分かっていないようだ。ああ面倒だ! それなのに僕の苛立ちを知ってから知らずか、そうか、またダメか。悪かったな。と、特に表情を変えずに(コイツの表情があまり変わらないのはいつものことだが)、自分の持っている物に視線を落とした。
「だいたい、それかプリンを作ってるつもりか!?どこをどうすれば生クリームがしょっぱくなるんだ!」
「あー、もしかしてフロン。塩と砂糖を間違えるなんてベタな失敗したでしょ?」
「…塩?あの透明な粉状の物は、砂糖じゃないのか」
フロンの頭に普段から乗っている謎の生き物、モルモまで会話に混ざってくるのでいよいよ面倒になってきた。 というか!塩と砂糖の区別も付かないヤツにプリンなど作らせるな!フロンが手に持っている一口だけ食べてあるプリンらしきもの(僕は無理矢理食べさせられた)が哀れだ。
しかも、これが最初ではないから尚の事腹が立つ。プリンという形は持っている謎の食べ物を食べさせられたのはこれで3度目だ!嫌がらせか!そろそろプリン嫌いになりそうだ。…いや、ならないが。
「フロン!貴様、何のつもりだ!何度も妙な物を食べさせて!」
「ああ、すまん。次はもっとしっかりリフィルに聞いてみる」
「まず聞く相手を間違えているっっ!!とにかく、もう二度と持ってくるな!」
僕がそう怒鳴れば、フロンは一度唸ると、そうか分かった、悪い、とだけ言い残して去っていった。 フロンの姿が見えなくなった。ふう、と苛立ち混じりのため息をつく。
「リオン、流石にあの言い方はないんじゃないの?そりゃ、勉強家なフロンにしてはらしくない失敗ばかりだけどさ」
「あんなもの食べさせられる身にもなれ。お前もとっととあいつの頭の上に戻れ」
「なんだよ、オイラはフロンの帽子じゃないってば。それに、あれはリオンの為にやってるんだよ?」
僕に嫌がらせする為にか。どう考えても毎回あの崩壊プリンを食べさせるのはそういうことだろう。 ふん、とモルモから顔を逸らす。もう相手にもしてやりたくない。だーかーらー!違うって!モルモが羽音をさせながら僕の背中から、目の前へ飛んできた。 違うだと?不味いプリンを食べさせるのが親切とでも言いたいのか。
「ほら、前にフロン倒れたことあっただろ?」
「……ああ、それがどうした」
「それで、その時助けてくれたリオンに何かお礼がしたいからって、料理苦手なくせにリオンの好きなプリンを作ってたんだよ!」
アイリリーのアドリビトムにあるキッチン借りて、ナナリーたちから料理の本借りて読んでてさ。徹夜して勉強して頑張ってたんだ。モルモが僕の前でぱたぱた揺れながら言った。 思えば、あいつ…フロンの目元にうっすら隈があったな。最近欠伸も増えていた、あれは徹夜して本を読んでいたからか。…そこまで勉強して、あの不味さか。逆に才能だな。
「…不味い物をもらって、喜べと?」
「そんなに不味かったの?」
「魔物の攻撃よりダメージを喰らうくらいにな」
「…ま、まあ、フロンの努力だけ評価してあげてよ!」
「仇で返されても困る」
「だよね…ハハハ」
苦笑いするなら最初からフォローするな。 嗚呼、もう本当に面倒くさい。どうしていちいち苦手な分野で何とかしようとするんだあいつは。そこまでされても困るのはこっちだ。
苦笑いしながら僕の前でパタパタ飛んでいるモルモに、おい、と声をかける。
「フロンに、あいつに伝えておけ。礼をしたいなら、自分の得意分野で来いと」
「…!うん、うんそうだね!伝えてくるよ今すぐ!リオンがちゃんとしたお礼欲しいって!」
「そんなことは言っていない!嘘を伝えようとするなっ!!」
だから、あいつ(フロン)は苦手だ。 僕のペースが乱される。僕じゃないようにさせられる。そんなことお構いなしに関わってくる。 そして一番苦手なのは、こういうのも悪くない、とどこかで思ってしまっている、僕自身だ。
ちぐはぐな視線をかわして
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