君と僕の未来永劫ストーリー


※最終ラザリス戦直後

決していい顔をしないアニーの肩にアンジュは手を置いて、今回は許してあげて、と言った。するとしぶしぶだが、アニーは道を開けてくれた。
アンジュに感謝の言葉を告げ、ゼロスは足早々と目的地へ向かった。

面会謝絶。扉にかけられたプレートにはそう記されていた。その一言にぞくりと背筋が凍った気がしたが、理由は分かっている。とにかく早く部屋へ入る。
入ってすぐにあるカーテンを引く。そこにはカノンノがベッド近くのイスに座っていた。だがゼロスの顔を見ると少し焦ったように立ち上がり、こちらに一礼して部屋を出ていった。多分、表情からしてあまりでて行きたくなさそうだったが、悪いことしたかな。ゼロスは苦笑いを浮かべた。

「…ゼロス?」
「そー、俺様だよ」

そのベッドからもぞもぞとレシェンが顔を出した。面会謝絶と書いてあったが、ベッドに横たわっている彼女は別にどこも怪我はしていない。怪我、は。

「痛むか?」
「…ちょっと、だけ」

嘘。さっき船の甲板から見てしまった。世界樹の痛々しい姿を。あの世界樹が彼女自身だと思うと、見てられなくてここに来てしまったんだが。
巨大な牙が世界樹を四方から貫いていた。あれと同じ痛みを感じているなら、ちょっとなんてレベルじゃないはず。何本も剣で体を貫かれた痛みを平気だなんて言える人間なんてまずいないだろうし。

「あ、でも明日は行きますからねっ絶対」
「馬鹿言うなって。そんな体で剣なんか振れないだろ」
「振れます!さっきカノンノに見せましたっ」
「こら、起きあがるな!てか医務室で剣振るとかなにやってんだっ!?」

明日は、さっき出現したラザリスの居るの本拠地へ殴り込みだと。
その本拠地は世界樹を取り巻いた場所にあり、ラザリスが潜り込んだのはおそらく世界樹の奥。残念ながらそこはディセンダーのレシェンがいないと入れない。
だからこんな状態でレシェンは行くと言っている。確かに、レシェンがいないと入れないのだからいてもらわないと困るので、あのアンジュも強く拒めなかったらしい。

でも、ゼロスからしては行かなくていい。むしろ、行ってほしくない。

「…なあ、レシェン。やっばさ、行かなくていいよ」
「行きますよ!というか、自分が行かないとあの中には」
「違う。なんつーかさ、体調以前に行ってほしくないんだ俺様」

なんで?と言わんばかりにレシェンはこちらを見てくる。赤と青の目がぱりくりしていた。
だって、とゼロスは続けた。

「だってさ、あそこにいるヤツ倒したら…世界が平和になんだろ?」

そうしたら、世間じゃディセンダーは用無しだ。きっと、見計らった世界樹もそれを見てレシェンを取り返してしまう。
それを口にした途端、本当に今すぐ世界樹がレシェンを奪いに来てしまう気がして、ベッドに横たわる彼女を抱き上げ力任せに抱きしめた。さらに痛いんですけど、というレシェンの声がしたが、その声が遠くへ行ってしまうように聞こえて怖くなりさらに力を加えた。世界樹にも、誰にも奪われないように。

「…行くなよ、此処にいてくれよ…っ!俺には、俺には必要なんだ…!」

自分の発している声が震えてて物凄く情けないけど、今は構っていられない。だって体まで震えてきた。
やっと自分をまっすぐ見てくれた。肩書きとか、全部捨てて無条件に自分を愛してくれた人を見つけたのにこんなの酷すぎる。

「ゼロス」

優しい声で名前を呼ばれ、ゼロスはレシェンの肩に埋めた顔をゆっくり上げた。ゼロスはこの声が大好きだ。本当に、自分の為だけの言葉をくれる。
レシェンは綺麗な赤い髪を掬い、キスを落とす。どこで覚えたんだよ、とゼロスは少し呆れたような、それでも何処かむずかゆくて嬉しそうな声で言えば、さて、とレシェンは楽しそうに笑った。

「自分はまだ、このルミナシアを全て知らないんです。自分を生んだルミナシアを」
「…ん」
「だから、全てが終わったら、旅に出たいんです。愛するルミナシアを見る旅に」

その時は、ゼロスと2人で行きたいんです。
俺様と?ゼロスが言えばレシェンは、はい、と笑った。

「全部が終わったら、ですからちょっと時間かかるかもしれませんが…でも、」
「…待たせすぎたら、俺様拗ねちゃうかもよ」
「ゼロスが待ってると約束してくれるなら、自分も絶対帰ると約束します」

きっとレシェン自身も戻って来れるかなんで分からないはず。世界樹に戻ったら、伝説の通り記憶が無くなったり、悪ければレシェン自身が無くなるかもしれない。
でもレシェンはゼロスの瞳をまっすぐ見て、確かに絶対帰ると言った。確信はないのに、それが嘘でも予想でも中途半端な言葉じゃないように感じる。レシェンが言うと、本当になるような気がする。
ゼロスは少し俯いて、それでもすぐ頷いた。

「…約束する、俺様待ってるからな。必ず俺様のところに戻ってこいよ」
「はい、約束です。絶対」

こんな確証無い約束交わすなんて、俺様も変わっちゃったなぁ。昔だったら、同じ事言われても約束とかなんて、きっと信じなかった。
ぼんやりそう思いがら、そんな歪んだ事を考えさせないような春の日溜まりがしばらくの間居なくなってしまうのかと、急に辺りの空気が冷たく感じた。

「なあ、レシェン」
「なんですか?」
「…お前からぎゅってしてくんね?」

俺様寒いの嫌いなの、暫く居なくなるならその分暖めてよ。だだこねるような声色でレシェンに両手を広げた。
甘えたい盛りですね、とレシェンが笑いながら言うので、そーなの、俺様さみしーの、と笑い返してやる。するとレシェンは躊躇なく腕を伸ばし、ゼロスを包んだ。外見はゼロスより少し年下なだけなのに、子供のように温かいレシェンはゼロスにとって心地良いもので。ぬくもり、って多分この事を言うんだな。

「明日、がんばろーね」

そして君を生み出した、今はほんのちょっとだけ好きと言える世界を見に行こう。


title by:不死


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