今、何時だろう?生温い空気が通り過ぎるのを感じる。ここはどこだ?少なくとも、私の知る奥州の風ではない。目が開かない。いや、まだ試みていないからわからないが、とにかく瞼が重い。五感が上手く機能しない。四肢も鉛のように重く、私の意志に従わない。伊達の忍ともあろう者が何たる事だ。何だこれは、私は、眠っているのだろうか。果たしてこんな事があるのか、頭だけはしっかりと起きている。思考ばかりがぐるぐると……ああ、もしや、私は死んだのだろうか?そういえば心なしか、血の匂いがする。そうか、そうなのかもしれない。だとしたら、我が軍はどうなったのだろうか。政宗様、政宗様、嗚呼。小十郎様。事切れる前に私は彼らの役に立てたのだろうか?それならば、何も思い残す事もないのだが。強いて言うならば、政宗様の治める泰平の世をこの目で見たかった。それから、小十郎様には……、いや、これは止しておこう。

「…ッ」

ビキッと、雷が走るかのような痛みに思わず息が詰まった。思い出したように唐突に。何だ、痛みというのは死する直前にも感じるものなのか。それは思いのほか残酷な事だ。痛い。生まれた時から痛みには慣れてはいるが、これは酷い。右肩に、胸に刃が突き刺さっているかのように、焼けるように痛む。痛い、痛い痛い、痛い!

「っう、ぐ……っハァ…」

さっきまであれ程重たかった瞼が開いた。生温い風を先程よりも強く感じる。血の匂いもずっと濃く漂って、粉塵と紛れて鼻を覆う。茜色の夕焼けの鈍い光さえ、瞳に突き刺さるように眩しい。意識が鮮明になるにつれて、荒々しい振動を感じる。ここはどこだ?ここは、馬上、か?だとしたら、私は、私は……

「名前!」
「…小、じゅ…ろ、様…?」

肩とも胸とも分からないが、その痛みで上手く声が出ない。片腕で手綱を操り、もう片方の手で私を抱えるように支える小十郎様は酷く疲れた様子に見える。しかし、目立つ外傷は無いようだ。という事は、政宗様もきっとご無事だ。前方から少し怒気を含んだような異国語が聞こえる、良かった。良かった、私のこの命もどうやらまだ残っているようだ。まだ彼らの為に使えるだろうか。

「申し訳、ござ、…ませ、」
「馬鹿が!喋るな!」
「は、い」
「…もう、二度と俺を庇ったりするな」

そこで微かに力を増した小十郎様の腕に、思わず笑みが零れそうになった。生きるか死ぬかという時に、こんな感情が沸くというのだから、私もまだまだ人であるようだ。随分と赤黒く染まってはいるが、私の傷口を締めているのが小十郎様の羽織だと気付いて、忍でなかったならば、このまま死ぬ女もいいかもしれないとさえ思ってしまった。


愛だなんて大袈裟な

091108
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