欠伸と一緒に涙が出た。眠いんじゃない。生欠伸だ。腹の底を鷲掴みにされて引っ張られているようなじくじくした痛み。と思いきや、股関節が軋むように痛い。そんな痛みに耐えながら、かなりの時間が経ったはずだ。なのに、食堂の方からは賑やかな声が重なり合って聞こえる。まだ朝食も終わっていない。何て事だ。時間が経つのが遅すぎる。一刻も早くこの一週間に過ぎ去って欲しいと言うのに。

「くっそぅ、男共め」

この鈍痛を一生味わう事なく生きていける野郎共は遠慮なく朝食戦争を繰り広げ、その騒音を私の部屋まで響かせる。お腹空いたな。旺盛な私の食欲はこういう時には更に増すのに、お腹痛くて動けない。毎月、人より重い症状になる体質に溜め息が出る。この時ばかりは心底、男共が羨ましい。もう一度溜め息が出そうになった時、騒ぐ声に紛れて聞こえる近付いてくる派手な足音に気付いた。

「よぉ、ナマエ。元気か?」
「元気に見えたらエースの目はビー玉だよ」

ドアの隙間から顔を出したエースが似合わない苦笑で、肩でドアを押し開けながら入ってくる。不自然な様子が気になって見ていると、ようやくはっきり姿を見せたエースの両手は大量の食べ物が積まれた皿で塞がれていた。

「朝飯」
「朝飯?」
「だってお前、動けねぇだろ」

ナマエが腹減らねぇ訳ねぇもんな。ニッと笑うエースが眩しく見えてしまった。エースなのに。エースのくせに。いつも食べながら寝るような奴が、戦場のような食堂からこれだけの食料を私に持ってきてくれたのかと思うと感動に近いものが込み上げる。

「ブラコンって馬鹿にしてごめん」
「お前、結構現金な奴だよな」

ベットサイドに置かれた皿に寝転んだまま手を伸ばす。かじりついたパンの香ばしさが何とも言えず美味しい。サンドイッチも色んな種類、全部が美味しい。リンゴの酸味と甘味が素晴らしい。口に広がるオレンジの爽やかな香り。あぁ胃が落ち着いてきた。予想外に、寝たままでも食べやすい物ばかりで末っ子エースをちょっと見直した。

「そんだけ食えりゃ元気だな」
「いや、コレなめちゃだめよ。めちゃくちゃ辛いから」
「食えるのにか?」
「妙に食欲は増すのよね」

よくわからない顔で首を傾げるエース。男には一生わからないんだろう。あー、いいなぁ。この痛みを知らずに済むなんて。

「私も男になりたいよ」
「それはだめだ」

ぼんやりと冗談めいて言った言葉に、エースが思いがけず早く返したのに驚いてエースを見上げる。はぁ、と間の抜けた吐息に近い声が漏れる。何だこいつは。見上げた先のエースは一緒に悪戯を仕掛けた時に見せるような笑い方でニッと口角を上げた。

「俺が嫌だ」
「…何それ」
「いいんだよ」

さっきとは違って、へへっと笑いながら頭をくしゃりと撫でられた。そのままベッドの淵に腰かけて、子供を寝かしつけるみたいに布団の上から私の腹の辺りにぽんぽんと手を置く。いつもながら高いエースの体温が、じわじわ染みてくるようで心地いい。けれど、エースにしては珍しく言葉を濁すから、何となく顔を見られずに視線が泳ぐ。淡い期待が微かに膨らむ。相変わらずじくじく痛む下腹部が、私がどこまでも女だと告げる。

「何なの、今日のエースは」
「女には優しくすんのが一番だってサッチが言ってた」

果たしてエースがどういう経緯でサッチからそんな事を聞いたのか。それを私に実践するとはどういうつもりなのか。聞きたい気もするけれど、都合のいい痛みのせいにして口を閉じた。確かにエースの言う通りだ。女じゃないとこの幸せは味わえまい。

「何笑ってんだよ」
「何照れてんのよ」


少年少女の最大理由

100622
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