その角を曲がった瞬間、4人は同時に足を止めた。お互いに相手が突然目の前に現れたような再会なのだから、無理もない。少し余所見でもしていたら、正面衝突していたようなぴったりのタイミングだった。微かな風が2組の間をするりと通りぬけた。誰から喋り出すのか牽制しているかのような、戸惑った沈黙。それを破ったのは、独り言のような小さな呟きだった。

「あ、それ、私の…」

エースの持つ紙袋を指差しかけた手は、中途半端な形と位置に浮いたまま止まった。何かもっと言うべき事もあっただろうに、不意に目に入った物をそのまま口に出してしまった。おかげで、エースと視線がばっちりぶつかった。ますます言うべき事を見失って、どんな表情でいればいいのかも定まらず、思わず隣に立つマルコを見上げた。マルコもまた驚いた様子で前を見ていた視線を、ちらりと彼女へ向けた。それから、大丈夫だと言うように、微かに小さく肩の力を抜いてみせた。

「これ、置いていっただろ」

エースの方もぎこちなく返事をするが、そう言った時には、視線は舗道に沿った街路樹へ外していた。そんなエースを隣で見て、次にエースの正面で似たような表情をする彼女を見る。揶揄するつもりではないが、本当によく似合いの2人だと思う。そう思いながら見ていた間はそう長くはなかったはずだが、マルコから視線をこちらに向けたくるりとした瞳と目が合う。会釈するように困ったような微笑みを向けられる。年が離れている分、今までは同性でもどこか距離をあけていたような感じがあったのだが、今の微笑みはどこか親しみが込められていたような気がする。もしかしたら、それも成長と呼ぶのかもしれない。

「ちゃんと、持ってろよ」

活気づき始めた街の声をBGMに、ここだけ切り取られて、別のテンポで時間が流れていくようだった。エースが差し出した袋の中身を、エースは知っているのだろうか。マルコの穏やかな仕草に、背中を押されたような気になったけれど、それでも一歩がなかなか踏み出せない。手を伸ばすだけでは、受け取るまでには少し距離がある。それは物理的な距離だけではなく、エースと上手く笑い合えるのかだとか自信なんてない。

「エースが待ってるよい」

マルコに言われて、すっきりしていないままの顔を上げた。すぐに、逆光で眩しい太陽の光が目に飛び込んだ。一瞬、眩しさに目を細めたが、すぐに焦点が合ってくる。そして、気付いた。どこがとは言えないが、エースの表情が違う。気まずそうにはしているけれど、意思を秘めているような、それでいて暖かさを持った微苦笑。いつものエースの笑顔が夏の太陽とするなら、今は彼が背にしているような春の日差しと例えられそうだ。そのまま、するりと飲み込むように悟った。そのままでもいい、子供染みていてもいいというのは、今を上手に過ごす事じゃないのだ。こんな風に、少しずつ変わっていく事を気付きながら進んでいく事だ。そうして月日が経てば、マルコや彼女のように穏やかな目で今の自分達のような子を見守れるようになるのかもしれない。

「…ありがとう、エース」

戸惑うばかりだった声が、そう言った時には穏やかに広がっていった。たった数時間見ていない間に、エースも何やら落ち着いたようだ、とマルコは思いながらも、視線はエースではなく、その隣の彼女へ向けた。役目を終えたと言うかのような表情で、そっと一息ついている。そんな安穏とした姿を見たのは、いつ以来だろうか。今までの時間、エースと何か話していたであろう事は、エースの少し深みを増した表情を見ていればわかる。その時間は、エースだけなく、彼女にも何か思う所があったのだろう。自分と同じように。

「じゃあ、そろそろおれ達は消えてやった方がよさそうだな」
「そうみたいね」

視線は特に絡み合うわけでもない。ようやく回り始めた2人を残して、マルコ達はその場を離れていく。その背中に何か言いたそうなのは、エースも紙袋を受け取った彼女も同じだった。けれど、かけるべき言葉を探している間に、タイミングを逃した。2人の後ろ姿を眺めながら、エースはふと気が付いた。そういえば、あの2人が真横に並んでいるのは初めて見た。いつも間に誰かがいるか、2人でいたとしても少し距離をずらしている事が多かったのに。そう思いながら、視線を外せずにいると、ちらりと彼女の方がマルコの方を窺う。しかし、それは一瞬だけですぐに視線は前方へ戻る。その直後、今度はマルコが彼女の方を窺う。しかし、それもすぐに視線は元へ戻る。

「…なぁ、あいつらもガキみてぇな事するんだな」
「だよね」

何となくそれが嬉しいような、親近感を覚えて、エース達は2人に背を向けて反対方向へ歩きだした。照れ臭いのか何なのか、歩き始めてすぐに2人共こそばゆいような笑みが漏れた。笑い声が舗道にくすくすと漏れた頃、反対方向を進む2人は懐かしい距離の近さに今更気付いて、どちらも何も言えずに曖昧な無言で歩いていた。


再開する男女


(130701)
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