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昔から人という生き物と関わる事が得意ではなかった。
それは身寄りのない私を引き取った者の影響が大きかったといえば嘘ではないがこれは元々の性格でもあるのだろう。

それもあって私の遊び相手は必然的に人ではない無機質な物になった。

中でも機械は相性が良かった。
命令文通りに寸分無く動き、組み立て通りに仕上がる。
余計な思考なしに0を0で返し1を1で返してくれるソレにのめり込んで行くのは時間の問題だった。

そうして黙々と機械弄りをするようになった私をどう思ったのかは知らないが、突然に軍に入れられた時には流石に色々と察するものがあった。

最初は適度に働き稼いで除隊するつもりだった。
だが働いて分かったのだが、多少の人間関係はあるがそれを加味しても、衣食住が保証されて最新鋭の機械を弄る事が出来る軍は私にとって天国のような場所だった。

そんな場所と分かってからはずっと格納庫に籠る日々が始まった。

除隊なんて考えはとうに捨て去り朝から晩まで挙句は休日まで、人との接触は最小限に自分の満足のいくまで機械弄りに精を出した。
今までもそうだったしこれから変わらずにそうなのだと疑わずに毎日を過ごしていた。勿論、それは今日も同じだった。はずだ。

「おい。...次の休日、休みが被った。...出掛けるぞ」
「...は?」

人気のない格納庫の中、己の打ち込むキーボードの音を遮った目の前に仁王立ちしているこの人は現在整備を担当している機体の搭乗主であり、この艦で一番偉い人で一番美人な人だ。

この美人...ジュール隊隊長であるイザーク・ジュールに拾われたのは半年程前の話だ。色々な隊をフラリとしていたところに直接声をかけられた。その当時“住処”にしていた隊にも特にこだわりもなかった為に誘われるがままにこの隊に来れば、その後は今日まで恐れ多くも彼の搭乗機体を有難く整備をさせて頂いている。

閑話休題。

私の間抜けに返した一言に大層御立腹と言わんばかりに眉間を皺を寄せているが、それでも尚、美しいというのは羨ましいと言うべきか否か。この空気では言うべきではないし話の流れも唐突すぎると改めて振られた話に対して口を開こうとすれば先に怒号が飛んできた。

「は?ではない!!?貴様、俺の話をちゃんと聞いていたのだろうな?!」
「あ、はい、いや...、」
「えぇい、聞いていたのかいないのかどっちなんだ!??!」

その返事では分からんだろうが!?!!?
と癇癪を起こす姿は副官に時たま当たり散らしているので見た事があったがまさか自分が受ける事になろうとはとどこか他人事のようにその“お怒り”を受け取りながら我等が隊長殿から先程頂いたお言葉に対して口を開いた。

「ジュール隊長、その、」
「...っ、なんだ」
「失礼を承知の上で申し上げますが、私とシホを間違っては「いない!」...失礼しました。」

似たような髪の長さと髪色を持つ我が隊のパイロットの中の紅一点の名前を挙げようとすれば即座に否定が入った。どうやら間違えてはいないらしい。

「お前は、その、...、だ、な。俺と出掛けるのが、...嫌か?」

分かりもしないのに彼の思考を読み解こうとしようとすれば、急に先程の癇癪度合いは何処へ行ったのだろうと言わんばかりにしおらしくなり落ち着かない様子で此方を伺って来るその仕草は、そういえば、誘われた時もこんな感じだったな。と既体験感に少し懐かしさを感じた。(....まだそんなに月日は経っていないが。)

そんな事を思いつつ、隊長と出掛ける事に持ち合わせる嫌悪的感情等は特にない為にそう返事を口にする。

「いえ、嫌と言う訳ではありません。」
「そ、そうか!!」

表情に少しの高揚が見られた。これにも既体験感。

「理由が分からないのですが。...何故、私に?」

たまの休みも格納庫に引きこもり機械弄りばかりしている部下に隊長なりに気を利かせているのだろうか?...貴重な己の休みを潰してまで?
元々、人の考えが理解出来る方ではないが、目の前にいる隊長の考えは普段の隊長よりも輪をかけて分からない。

分からないのなら聞くしかないだろうと率直に口を開けば、また歪められる表情。やらかしたかと思うのと視界が塞がったのはほとんど同じタイミングだった。

「11時集合だ、分かったな!」

目元を塞いでいた紙切れに並ぶ宇宙工学の歴史展の文字列。
私の予定が空いているのかも聞かずにこれを残していった彼の姿はもう既に見えなくなっていて

「どこに集合するんだろ...。」

就寝時間近い誰もいない静かなドックの中に小さな呟きが響いた。



人生で一番長く推してるキャラです。
体験入学イベントがあったという事で我慢出来ずにショートで書き起こしました。
私も料理食べたい...せめてグッズ手に入らないかな...。




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