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「家を出ようと、…思ってる」

人工的な日の光降り注ぐ今日のマティウス市内に設定された天候は晴天。
ショッピングモール内の外れに位置したカフェの一席に腰を下ろした射干玉色した長い髪を風に柔らかく攫われる事をそのままにして視線を落ち込ませながらゆっくりと口を開いた彼女の表情には憂いが漂い、今日の朗らかな天候とは違ってその心には絶え間なく雨が降り続いているようだ。

「思ってる…、じゃないね。うん、…家を出る。
 私は家を出るよ。」

最初の一言の迷いが見られる弱く脆い発言から、一呼吸置いて吐き出された二言目は硬く芯のある確かな言葉であって、それは口にした己自身に対して決して折れぬ楔を突き立てるような確かな強さがあった。

「家を出る。…ー地球へ行く」

三言目と同時に顔を上げたその顔にはもう先程までの憂いはなく、瞳に宿るのは唯、決意のみとあってはここ最近、どこか遠くを見て心ここに在らずだった机を隔てて目の前に座る長年の友人の突然の決断のカミングアウトにアイザックはそうか、と一言返すしか出来なかった。

いや、突然の決断ではないのだろう。
彼女は…主人公ちゃんはずっとこの件で悩んでいたのをアイザックは知っていた。

その悩みが最初の頃は朧げでぼやけた掴む事の出来ない、そう、“なんとなく“、という感覚からくるものだった頃からアイザックは知っていた、いや、聞いていた、というのが正しい。まだそれは相談というよりかはただ話を聞いてほしいという彼女が自分の中にあるどこか感じる不安を吐き出す事によって解消したいとアイザックにその形容しがたい悩みとも取れないそれを口に出したのはいつの頃だったか。

徐々にそれが輪郭を形成しながら肥大化をしていった。そうした結果がこうなった。

もちろんこの結果の過程でアイザックはその悩みの相談を受ける事はあった。正確な数は覚えていないが片手で数えるには到底足りないぐらいの相談は受けていた。それだけ相談の数は多かったけれど、その相談の都度、アイザックは“少し心配性な彼女が家族に対してそれを遺憾無く発揮している“、“弟が思春期を長引かせているだけだろう“などという思考が巡り、主人公ちゃんが抱える悩みの芯の部分を捉えきれずにその重さをしっかりと理解出来ていなかった。主人公ちゃんの抱える重さとアイザックの想像する重さで差異が生じてしまった。

ーその結果がこの“突然の決断“なのだ。

「ごめんね、君の悩みを僕はちゃんと理解してあげれてなかった。」

主人公ちゃんへ向かって、アイザックは素直に謝罪を口にした。

「気にしないで、内容が内容だったし。
それに…他の人に相談してもみんな君と同じ反応すると思うから。
アイザックが話を聞き続けてくれただけでも助かってたよ、ありがとう。」

そう微笑みながら主人公ちゃんが言葉にすれば、さ、気分を入れ替えようと話を区切りメニュー表を二人の目の前に広げては掲載されているケーキをどれにしようかと吟味し始めた。



「それで、具体的には決まっているのかい?」

その、地球に降りる日程は…と少し言いにくそうに続けるアイザックに目の前で運ばれてきたケーキを美味しそうに頬張っていた主人公ちゃんは首を小さく横に振る。口の中のものがなくなったのだろうタイミングで出て来た言葉は成績次第という日程とはまた関係のない単語だった。

「今度、オーブにあるカレッジの入学試験を受ける予定で。さ」

それに受かれば一ヶ月後には地球かなぁと口にする

「弟君はそれを知ってい「言うわけないでしょう」

一応の確認の為にとアイザックが問うた内容を全部を口にする前に否定の言葉が入ってきた。

「まだこの事は君以外に誰にも言ってないよ。
 …エザリアさんにも受かってから言うつもり」

なんと、彼女は己の身内よりも先にアイザックに口にしたのだと言うではないか。

「アイザックだから言ったんだからね、ちゃんと内密にしとくように」

それは長年の付き合いからなのだろうかは分からない。けれど、微笑みと一緒にその言葉を紡がれてしまえば主人公ちゃんがアイザックという存在を信頼たる人物として己の心の深い部分に置いてくれているのだと分かるその内容にアイザックは友人として只々嬉しくなってしまった。

彼女は間違いなく受かるだろう。そして地球へ行く。

今現在通っているカレッジの成績も申し分なく、コミュニケーション能力も良好。そして彼女の堅実的な性格性を考えれば高望みする事なく自分の能力に見合ったカレッジを選んでいるはずだ。だから間違いない。

「寂しくなるなぁ」

ポツリとアイザックの漏らした一言が二人の間に響く。

アイザックにとって主人公ちゃんは己の人生の中で一番長く付き合いのある人間であり、主人公ちゃんがそうであったようにアイザックもまた彼女という存在を己の一番深い部分に置いていた故に“此処からいなくなる“という彼女の覚悟に徐々に湧き出てくる寂しいという感情を自然と口にしてしまったのは仕方がないところであって

「一緒に来る?」

それは冗談だったのか、それとも本気だったのか。
少なくとも主人公ちゃんもまた、寂しいという感情を持ち合わせていたのだろう、
そこからきたその一言は駆け落ちへの誘いそのものであり、

「僕も受けちゃおっかな」

この御時世に珍しくない親のいない戦争孤児であった独り身のアイザックにとって、その誘いの手を取ることは至極簡単な事であった。


脱出前の決意の告白

他タイトルが1本の文字数が多く、
揃えないとと意識的してしまうところに頭を抱えたところがあったので
このシリーズでは文字数で区切らず場面切り替え等区切りのよさで
ページを分けていこうかと思います。

アイザック君は幼馴染だよ






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