時系列的には寒い夜の話よりも後ろな話。
頭ゆるゆるで読んでください。

◆◆◆

もう思い出せない香りだと思っていた。
もう思い出す事もないだろう光景だと思っていた。

「どうだ、見事だろう?」

ジークフリートに連れられて出てきたグランサイファーの甲板。
室内から出てすぐ主人公ちゃんの目前に現れたそれは、海だった。
目の前に広がる澄んだ青色はもう帰る事はない向こう側にしかないものだと思っていたからこそ、今、自身の瞳の中を支配するその色に酷く驚いてしまい声が出ない。

「“海“というそうだ。」

その驚きようの受け取り方を“そう“捉えたのであろうジークフリートが紡ぐ。
もっと近くで見ようと主人公ちゃんは手を引かれ転落防止にかけられたグランサイファーの甲板を囲む柵の前まで連れられて。落ち着く為に吸い込んだ空気の中にそれを感じて懐かしさと、またそれとは違う言葉にするにはまだ難しい形を留めない靄のような感情が胸を渦巻いて、彼の言葉にまだ返事が出来ないでいた。

と、流石にその様子に気づいたジークフリートが主人公ちゃんが映す青の世界にふと入り込んできた。

「!、ジークフリートさん危ないですよ。」

柵に腰掛け、それでも己よりも大きいその美丈夫が此方へと屈んでくるが腰を掛けている場所が場所。まだドッグにすら入っていないこの停留所では誤って落ちてしまえばそこは空の底。

そこから降りましょう。と声をかけるが少し眉間に皺を寄せた彼の無言が“NO”と言っていて…。

どうにもこの男、自身の前では少し“我儘“なところが出てくるようで。
仕方がないと、シワになってしまうと気にするよりも彼が落ちてしまう事の方が余程の大事な事なので、軽装に身を包んだジークフリートの上着を引っ張りそこから下ろそうとすれば、そうする事を分かっていたのか力につられて傾く身体に主人公ちゃんの視界は覆われてしまった。

「…お前の故郷には、あったんだな」

耳元に落ちてくる言葉は落ち着いていた。
確信を告げる内容に主人公ちゃんは顔を上げれば落とされた言葉とは裏腹にどうしようもない程の感情を載せた表情を露わにした彼がそこにいた。

「寂しいか?」

「故郷が恋しいか?」

「帰りたいか?」

「そう望むか?」

「俺はお前を離してやれそうにない」

「主人公ちゃん、す「ジークフリートさん。」

ぺちりと小さく響く頬を叩く音。
主人公ちゃんがジークフリートの両頬を叩いたのだ。
その彼の両頬を襲った痛みのない柔かな衝撃と遮るように呼ばれた名前に漏れ出たジークフリートの吐き出す欲が止まった。
この光景を何処ぞの騎士団長が見れば驚きの声をあげるだろうが彼は今、ここにいない。彼どころか島への降り支度をしているのであろう団員達は皆、室内で騒がしくしている。今この甲板にいるのは2人だけ。

「私は、私の意思で、望んで此処にいますよ。
 貴方の側にいる事を望んで、ずっと此処にいるんですよ?」

戦闘時のあの喰われるとすら思わせる鋭い視線はどこへ行ったのか、揺らぎを見せる彼の瞳を覗くようにして紡いでやれば、その鈍い黄金色が線を返す。

「これからもそれは変わりません。」

向こう側で見たことのある青に、懐かしい。と、感じた。明確に言葉するにはまだ難しい心境もある。でも、寂しさという感情が最初に主人公ちゃんの中に出て来なかったということは、

「私の方も、ジークフリートさんから離れられそうにありませんので」

ーーーきっと、そういう事なのだろう。


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うちのジさん、(解釈)合わないって人多そうで
大丈夫かな…って思いながら載せてるところもあります。
私のサイトなのでここは私の世界線!!!(という勢い大事)




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