◆フレイ/短編_01

“此方側“に来る直前の出来事をふと思い出した。

それは月も何処かへ隠れてしまった深夜の帰宅道だった。仕事の多忙さから来る疲労感が酷く伸し掛かって来ていたその日は早く家に帰ってまた明日の仕事の為に休まねばと思いながらも最近何処かへ行ってしまった自分の時間が恋しくて...。

恋しいのなら、求めればいい。すぐそこにあるのだから、少しだけなら問題ない−...。そんな言い訳をひとつ自分にして、肥えた疲れをお供にふといつも使う帰り道とは別の道へと旅をしてみたのだ。

そうすれば見慣れない建物がようこそと顔を出す。こちらへどうぞと街路樹が案内をしてくれる。久しぶりに訪れたほんのちょっぴりの自由と解放の前にお供の疲れがひっそりとさよならを告げた頃、現れたのはお婆さん。

人通りも少ない道にひっそりと占いの看板を立てたお婆さんだった。

いつもだったら気にも留めずに通り過ぎて行っただろう。今にして見ればあんな場所で深夜にポツリとそんな露店を開いている事自体可笑しな事だったのに、けれどその日はとてもそれが目に止まったのだ。

そうして気になってしまえば、自然と身体はお婆さんと机越しに用意されていた椅子に滑り込む。

そんな私に気づいて人の良さそうな笑顔を向けてきた人生の先輩に、己の生まれた時から刻まれている運命が一体どんなものかを観てもらう為いざ利き手を差し出せば

あぁ、そうだ。あの時、お婆さんは、今、私のこの目の前に座って問うているお爺さんと同じ言葉を発したのだ。


「うつくしいいきものになりたいかい?」


どうしてだろう、性別も違えば“此処”は世界も違うのに。
そう問うてくるお爺さんは“向こう”であったお婆さんと、酷く重なってみえる。


「うつくしいいきものになりたいかい?」


何の脈略もない意味も意図も掴めないこの問いに私はあの時、何と答えたのだったろうか?


「なぁ、お嬢さ「主、」


ふと背後から落ち着き払った声がかかる。
いつか答えた言葉が眠る記憶の深海へと潜ろうとしていた意識が浮上してくる。


「フレイ、」
「主、“其”に関わってはいけません。」


行きましょう、此方に。

そう言われて抱き抱えられ乗せられる金色した猪の背。慌てて何か言葉をと、口を開く前にフワリと浮いて風に流されていく。何故か笑うお爺さんに見送られ、小さくなっていく街々と徐々に強く吹いていく風が離れていく距離を教えていて遂には見えなくなったその島の影に大きく溜息をついていつもより難しい表情を見せる隣を飛ぶ美丈夫へと言葉を溢す。


「フレイ、あれはちょっとお爺さんに失礼だよ」


普段であれば街中では私の半歩後ろで澄まし顔して大人しくしているフレイらしからぬ突然の先程の行為に少し乱れた心拍数を落ち着かせながらも、回答も挨拶もなしに飛び出してしまったよと付け足して言えば、その難しい表情に器用に少しの憂いを乗せて此方へと身体を寄せて来る。


「申し訳ありません、主。
 ...しかしあの者は交わってはいけないモノ。
 どうかご理解を。」


そう言って大きな両の手に包まれる己の手をギュッと握り締められて、今後、見かけても言葉を交わされませんよう。と更に念を押される始末。

何故?と聞いてもきっと答えてはくれないだろう。
フレイはいつもそうだ。

ふとした時に出会う“向こう側”との痕跡。
それは時に物だったり、時に風景だったり...。
私とその痕跡への接触をフレイは極端に嫌がる。

”セイショウジュウ“特有の特別なチカラで感じとるのだろうか?私にはよく分からないけれど、その摩訶不思議なチカラで痕跡を感じ取って澄ました顔してスルリと私を遠ざけては後々、今みたいに難しい顔をしてなんの説明もなくそれに触れるなと、そう...駄々を捏ねるのだ。

(そう言えば、“人”と接触するのは初めてかもしれない。)

だから慌てて先程のような行動を取ってしまったのだろうか?
彼にも気づかない想定外な痕跡との接触もあるのだと思いつつもそれはフレイのみぞ知るところ。


「心配かけてごめんね、次から注意する。」


そう彼に向かって言えば少し和らぐ表情に笑顔を向けて


「さて。ご飯食べる前に出て来てしまったのでお腹が空いています。スピードを上げれる?」

「承知致しました。追い風を吹かせましょう。」


風に膨らむ服を押さえつつ少し硬毛な金色をしっかりと握って振り落とされないようにすれば、フレイの一声に途端後ろから襲い来る風、空を渡る猪とその主人の進みが速くなる。

天気は快晴。空を飛ぶには絶好の日和。

びゅんびゅんと並んで飛ぶ1匹と1体と1人の影を雲の絨毯に見つけて眺めていれば、あぁ、そう言えば、と思考が過ぎる。

私はあの問いになんと答えたのだったっけな...。


◆◆◆


以前呟いた
「落ちてきた夢主とフレイな話」
をちょっと設定変えてゴネゴネしてみた小話。

元の世界に絶対に帰したくないフレイとどっちつかずな夢主。
今の旅も悪くないなんて思いつつあるのでフレイの言う事を聞いてるところがあるんだろうなって感じの徐々に空の世界の住人になってく夢主です。

マイペース真面目フレイとはちょっと離れてしまったけれど、吐き出せて満足。プレイアブルじゃないとこもあって上手く掴みきれない。そして私の浴衣フレイどこ。どこなの。(今更)

ジオくんはどこかへいきました。ごめんね!

お題「うつくしいいきものになりたいかい」
http://lunarblossom.chu.jp/hinge/




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