2020 . 08 . 18
此方を見つめるオペレーター達の眼がお前は誰だと言っているようで、此処は酷く居心地が悪い。
私だっていたくてこんな場所にいる訳じゃない。
やりたくてこんな事をしているんじゃない。
この身体から出て行けるのなら、元の身体に...元の世界に戻れるのなら、その方法があるのなら、喜んで明け渡すつもりだ。
けれどこんな別世界の人間の精神が“入り込んだ”なんて不可解な例...よく分からない小説の中でしか見た事のない魔法みたいな能力やSFの映画じみた移動都市なんてものは平然とあるのに、この症例はどこを探しても前例がないんだ。
誰かに意見を求められる度、頭が痛い。
私が口を開けば此方へと集まる何かを望む眼差しが辛い。
“ドクター”と呼ばれる事が怖い。
中身が違うとバレたら殺されるかもしれないと恐怖して、今まで必死に足りない頭をフル回転させて、誤魔化しながらやって来たけどもう限界だ。
もう、耐えられなかった。
皆が求める”ドクター“という重圧に。
だって私はそんな出来た人間じゃない。
目の前で血が流れる争いなんて見た事もなければ、
生を終えた瞬間も見る事も前の世界では稀であって、
それが、そんな命のやり取りが
私の指示一つで行ってしまうのであればもう...。
私はこれ以上、務まらない。務める事が出来ない。無理だ。
私はよくやったよ。この身体の持ち主には申し訳ないけどもう無理なんだ。ごめんなさい。
逃げよう。此処から出て何処か遠くの都市へ
逃げる事を選んだ思考に沿って身体が動く、
何かあった時にと私室にある程度まとめた荷物を取って逃げ出そうと足早に外の世界へと伸びる廊下を目指し角を曲がった先にいたのは己より小さな黒ウサギ。
「ア、アーミヤ...っ」
「どうしたんですか、ドクター」
酷く自身の心臓の音が煩く聞こえる。
思わず身体が来た道へと下がる。
大きな荷物を自然と身体の後ろに隠したのは無意識で
「どこへ行くんですか、ドクター?」
長期的な任務は出てないですよ、
と隠した荷物は気付かれていたようだ。
「“また”、お出掛けしたくなったんですか?」
此方を見上げてくる瞳がそれを諦めろと言ってくる
「“ダメ”ですよ、ドクターはロドスの“ドクター”なんですから」
その身体はお前のじゃないと、“ロドス”の物だと、
それを置いていけと言われているようで
やめてくれ、やめてくれ
身体は君たちの物でも心は私の物なんだ。
もう無理なんだ。此処は苦しい。
誰か、“私”を連れ出してくれ。
「盟友よ、すまない。待たせたようだな」
突然に降りかかった低音と同時に
追い詰められていた狭む視界と精神が揺さぶられ、
視界が柔らかな白銀色に染まる。
「今日明日は休みだと聞いていてな。ドクターにも息抜きが必要だろうと、龍門へ行かないかと誘ったんだ。」
「あぁ、そうだったんですね!
すいません、私、何か勘違いをしていたみたいです。」
いってらっしゃいと手を振るアーミヤを見送って、
私を担いだままその美丈夫はヘリポートへの道を歩き出した。
龍門へ着いたらまずは食事だな。
何か食べたいものはあるか?
書籍を漁っていたな、本屋にも行こう。大きなショッピングモールがあったはずだ。ある程度の規模の本屋もあるだろう。
専門的な学術書を求めるのであれば、次の休みはヴィクトリアに行こう。お前が求めているものがあるかもしれない。
そう他愛もない話を続けながら優しく背中を叩くこの彼に助けられたのは何度目だろうか。
前線をお願いすればその自信に伴う余りある力で敵をなぎ倒し、その場の戦況を一瞬にして変えてしまう力を見せ付けてくると思えば、“ドクター”としての心が折れてしまった私を何も聞かずに救いあげるような優しさも垣間見せて(これは優しさなのだろうか...それとも哀れみからくるもの?...いや、どちらにしても私はそれに救われているのだ)
”ドクター“としても“私”としても、
彼には助けられてばかりで
「エ”ンシ”ォ...エ“ンシオ“ッ...」
「安心するといい、我が盟友よ。
お前が抱えている問題はこの私が解決してみせようではないか」
首筋に顔を埋めて嗚咽をもらす私は気づかない。
彼が私の“抱えている問題“に気付いているのかなんて、
気付きようもないのだ。
◇
...っていう、
外身を返して欲しいCEOと
中身が欲しい銀灰(と雪境組)の話。
序盤の救出された時には入れ替わってて支離滅裂な事を言ってたけど記憶喪失で片付けられた成り代わっちゃったドクター
ドクターなんだけど、ドクターじゃなくって...
誕生時からじゃなくて物語序盤の眠ってた時期からの成り代わり。
(もしかしたら誕生時から成り代わってたけど前世界の記憶が思い出せなくてCEOに起こされた時にドクターとしての記憶が吹っ飛んで前世界の記憶が覚醒したのかもしれないけどそこはご想像にお任せ。)
(成り代わっちゃったから無意識の記憶を元に戦闘指示も取れるって事に気づいてドクター)
勿論CEOは気づいてる。けど“成り代わり“じゃなくて“乗り移り”だと思っていて、元に戻す方法を探してるけど分からず本人も必死に隠してるからそれに乗っかって知らぬ存ぜぬしてるけどいざ逃げようとしたら通せんぼ(だってそれは大事なドクターの身体だもの)
銀灰も中身が違うと気付いてる。
けどこっちも“乗り移り”だと思ってる。
甘やかして依存させて中身を持ち帰る気満々。
だから互いに逃げてもらっては困るからCEOと銀灰は共同線線を張って定期的に逃げ出そうとするドクターをCEOが捉えて銀灰が甘やかして毒抜きさせてる。
巫女さんは“成り代わり”だと気付いてる。
けど、銀灰とは仲がギクシャクしてるから言わないで一人でこっそりドクターを甘やかしてるといいな...。
3人が気付いてるのはアーツ的な何かって事で...。
ケルシー先生も気付いてるけど先生はCEO命だから。
(つまり興味がない。ドクターとして動ければ問題なしって感じ)
っていう以前、青鳥で呟いた明日.箱舟のドクター成り代わりの銀灰話をちょっとだけ形にしてみました。続くかどうかは....。
※別名義にて某大型投稿サイトに上記内容と同じテキストを掲載してます※