あぁー、お腹空いたなぁ。ブレイクのところに行ってお菓子でも貰おう。そう考えた彼女は空腹なお腹を押さえながらブレイクの部屋を訪れた。



ガチャと扉を開くとつーんとした匂いが鼻を刺激する。彼女が部屋へ入ると既に居た三人が振り返った。ブレイクは勿論、レイムとオスカーが居た。彼は彼女を見るなり口元を綻ばせる。



「お?お嬢さんもどうだい?」

「ちょ、オスカー様、彼女はまだ未成年ですよ。」



すぐさまレイムが彼を制する。その言動と部屋に漂う刺激臭からして、酒を楽しんでいたのだと思った彼女は正解であった。



それにしてもオスカー様は酔っても酔わなくてもヘラヘラしてるよなぁ。など失礼なことを思う。だが、例えこのことを本人に言っても彼は笑い飛ばすのだろうが。



「どうしたんデス?」



立ち尽くす彼女にブレイクが尋ねる。漸く本来の目的を思い出した。



「実はお腹空いちゃって。」

「仕方がないですネ。」



溜め息をつく彼だが、それは彼女に対してではない。酒に溺れたオスカーに対してだろう。酒に溺れた上司を相手にするのも苦労するんだな。これはどれ程年月が経とうと変わらない気がした。



すると、レイムもブレイクの疲れきった表情を見て潮時だと思ったのか席を立つ。彼は仕事をしている時と変わりなく疲れた表情など微塵もなかったが。



「それでは私はこれで失礼する。」

「あぁ、ハイ。オスカー様のことお願いします。」



ブレイクがそう言うと異を唱えたのは、勿論オスカーである。



「えー!漸く華が添えられたのに!」



酒に女とは堕落する人間の考え方だ。と彼女は眉を寄せたが嫌悪するわけではない。オスカーの無邪気な振る舞いは寧ろ好意に値する。程度というものがあるが。



すると、レイムが特徴的な眼鏡を光らせて、子供を叱るように言った。



「オスカー様は飲み過ぎです!明日は早いんですから!」



明日といっても時計は今日の時刻をさしている。二日酔いとかにならなきゃいいけど、と酒に詳しくない彼女は彼の健康を一応心配した。



その後、駄々を捏ねるオスカーをレイムとブレイクで何とか立ち上がらせ部屋の扉まで連れていく。オスカーは酔った口調で何やら言っていたが、部屋の中にいる彼女には聞こえなかった。彼女は椅子に座ると三人が飲んだ酒を見つめる。



「これがお酒か〜。」



間近で見るソレは酒には見えない。彼女の中に好奇心が生まれる。恐る恐るブレイクの飲みかけを口につける。初めての味が彼女の舌に広がった。思わず顔をしかめる。これは美味しいというのだろうか?もう一口飲んでみよう。彼女は何度もグラスを口へ運んだ。



一方、ブレイクは漸く部屋の中に戻ってきた。オスカーとレイムを見送っていたのだ。彼は彼女のことを思い出して棚からお菓子箱を取り出す。



「ハイ、持ってきましたヨ。…ってアレ?」



彼は椅子に座ると、彼女の様子がおかしいことに気づいた。顔は赤く、目は虚ろだ。彼女はブレイクに気づくと「ん?」と上目遣いで見つめてくる。彼はなんとか理性を保ちながら口を開いた。



「顔が赤いですヨ?もしかして飲みました?」



もしかしなくても飲んだに違いない。ブレイクは空になった自身のグラスを目にしてそう結論づけた。そして彼の予想通り彼女は酒を飲んだわけで。



「苦い…。」



そう呟く。ブレイクは溜め息をついた。今度は酒を飲んだ彼女に対してだ。



「未成年なのに飲むなんて、君は馬鹿ですカ。というか弱すぎデス。」



彼がそう言えば、彼女は拗ねたように頬を膨らませた。顔が赤いだけに怒っているようにも見える。



「来年で大人だもん。それに空腹すぎて我慢できなひぃ。」



呂律が回らないとは弱いにも程がある。しかも空腹だからといって酒は飲まないだろうに。苦いと感じたなら尚更だ。



「それなら飴を持ってきましたヨ。」



ブレイクがあやすようにお菓子箱の蓋を開けると彼女は嬉しそうに「わーい。」と顔を綻ばせた。というか、実際嬉しいのだろう。でなければブレイクに身を寄せたりしない。



酒にやられたのか、普段とは違って甘えてくる彼女を可愛く思い、彼はお菓子箱から飴を取り出す。



「ほら、あーんして下さい。」

「あーん。」



ブレイクの言葉に素直に従う彼女はレア物だ。そう思いながら彼は彼女の口に飴を放る。彼女の酒にまみれた舌に甘い味が広がった。苦味の後の甘味は彼女にとって相当幸せだったに違いない。



「酒臭いデス。」

「ブレイクに言われたくなひぃもんね!」



ブレイクの言葉に言い返す彼女の呂律は回っていない。彼は自分も飴を舐める。先程から甘えてくる彼女が気になって少しでも気をまぎらわせたかったのだ。



「やっぱりお酒はまだ早いでしょう。」



彼がそう言えば、彼女は飴を舐めながら空になったグラスを眺める。その視線は艶かしく、そんな瞳で見つめられてはおしまいだな、とブレイクは心の中で笑った。



「確かに苦ひぃ。でもそのうち好きになるかもしれなひぃ。」

「口で言うのは簡単デス。」



即答するブレイク。彼女が酒に慣れる日は来るのだろうか?



「じゃあ、ブレイクが好きにさせてよね。」



彼に寄りかかって言う彼女の瞼は次第に落ちていく。眠るようだ。酒で寝てしまったらなかなか起きないだろうな、と苦笑いするブレイクだったが、嫌ではなかった。彼女の髪を撫でながら、彼女の発言を思い返す。



好きにさせる。それはなかなか難しい課題のようにも思えた。けれど二人で酒を楽しめたらと想像すると、好きにさせてあげたいような気もした。




言うのは簡単だってね






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食べて仕舞おう様に提出。素敵な企画に参加させて頂きました。ありがとうございました。

13/02/21