Their story ≫ 第四幕
寮部屋にて会談 其ノ伍
好きでは、ない、かなー。
劉堂のその答え。様子を窺うかのようなその答えに対し、蒼はただ、微笑んだ。
「―――うん」
そうだとは、思っていたよ。
「は?」
蒼のその返しに、劉堂は、眉を寄せた。
「そうじゃなかったら、少し困ったことになるなあとも、思ってたんだよね」
眉を寄せながらも、呆気にとられた表情を浮かべている劉堂に向かい、蒼はまるでなにもかもが予想通りとでもいうかのように、微笑みながら、言った。
「なに、」
「だって、わかってるでしょう?」
君は、あの歌の意味も、何もかも。最初はわかっていなかったかもしれないけど、途中から、すべて、気づいてしまっていたはず。
そう言われた劉堂は、刺すような視線で蒼に見詰められ、息を詰めた。
誤魔化すには、間を置きすぎてしまった事に気付いた劉堂は、一度だけ深く息を吐き、言った。
「そういう、こと、か」
なにもかも、わかったわけではなかった。
ただ。
「―――あなたが、天城輝の事をどうしようもなく好きで、なにがあっても、救おうとする気持ちがあったのなら、」
また別だったのかもしれないけれど。
蒼は笑う。
劉堂は、息を吐いた。
―――天城輝に、興味を持っていたところで、それは、恋愛感情では、ない。
そう考えていることを、蒼だけではなく溝口にも知られてしまっているのだろうと思いながらも、劉堂は、それでも、笑った。
「それで?」
「いんや」
もういいや。
聞かなくても、じゃ、ないか。聞いたところで何も変わらないし、何かを変えることができるわけでもないって、わかったから。
劉堂のその言葉に、蒼は笑った。
「やっぱり、君は賢いね」
仮にもし。劉堂が心底、天城の事を好きで、愛していて、どうしようもなく、それこそ、生涯を共にしても良いと、そう、思っていたのなら。
(まあ、違ったわけだけれどー…)
賢いと言われた所でまったくうれしくないんだよねーと、劉堂に返されたところで、蒼の表情が変わることはなかった。
2019.05.22