Their story ≫ 第四幕
第二図書室にて問答 其ノ三
「藍田のそれ。って、癖なのか?」
「んん?」
一体何を言っているのかと尋ねれば、その顔。と、答えられる。
どんな表情を浮かべているのか、自分では分からない。
だから、癖かと尋ねられたところで、それついては、分からなかった。
随分前から浮かべている表情かもしれないし、つい最近からの笑みかもしれない。
「あ」
とにもかくにも、どうでもいいことを考えるのは面倒なことだと、思考を打ち切った蒼は話題を変える為に篠を見ながら口を開いた。
「………?」
不思議そうな表情をしている篠を見て、尋ねる。
「そう言えば、篠は最近、どうしてるの?」
「どうしてる…って…普通に授業に出て、部屋に戻っての繰り返しだけど?」
「今、此処にいるのに?」
その問いかけに、たまの息抜きくらい、許されると思うと答えた篠を見て、蒼は笑った。
「篠、ってさ、確か。溝口満と同じクラスだったよね?」
たった今、思い出したと言わんばかりに尋ねた蒼に、大して疑問を感じなかったのか、篠の答えはすぐに返ってきた。
「え?あ、ああ」
「クラスメイト達からのイジメ、みたいなものはなくなった?」
「―――――――、」
そんなもの、最初からなかったけど。
篠からその答えを聞いた瞬間、蒼は一瞬目を見開いた後、口元に笑みを浮かべた。
考え方が異なるように、其れがイジメであるかどうかを判断する基準も、個々によって異なる。
転入生がイジメだと言った事柄でも、篠にしてみればイジメの内に入らないのかもしれない。
そう思った為に、蒼は笑った。
「――――――――、その顔、あまり人前でやらない方が良いと思う」
「んん?」
一体、どんなんだよ。
そう尋ねることはせずに、蒼は首を傾けた。
何かを諦めてた様に息を吐いた篠と、取り留めのない話を交わす。
どうでもいいことを話すことは心地いい。
その中で時折、探りを入れられたとしても。
其れ程経たないうちに、いくら探りを入れたところで、求めている質問の回答は返ってこないことを悟ったのか、篠はやけにさっぱりとした態度でおじゃましました。と、図書館の主でもない蒼に言い、その場からいなくなった。
(―――――お邪魔しました、って)
面白いうことを言うなあ。
そんなことを思いながら蒼は、再び参考書を、捲っていく。
何を持っているのかを尋ねなかった篠は、ある意味正しく、ある意味間違っていた。
尋ねていれば、あるいは、彼が求めていた答えを与えることが出来たかもしれないのに。そんなことを考えながら、蒼は呟いた。
「それも必然、ってか」
必然でも偶然でもどうでもいいけど。と。
「かえろっかな」
なんだか雨が降ってきそうだ。
呟きながら見上げた空は、徐々に曇り始めていた。
もうすぐ、試験が始まる。
2013.07.03
2018.03.01