Their story | ナノ


Their story ≫ 第四幕

迷い道にて確認

それはそうと。
そう前置いた響山の表情は、険しかった。

「藍田蒼」
「なに?」

彼がこんな風に、険しい表情を浮かべているのは、珍しい。

「君の知り合いは、此処にはいないんじゃなかったっけ」

みている限り、かなり、君は知られている様だけど。一般棟にいる人たちに。

響山のその言葉に蒼は笑った。
そこまで知っているのなら、他の事に辿り着いて居ても良さそうなのに、その点に触れないのは、解らないからなのか。
そんな事を考えながら、蒼は言う。

「君達よりは、少ないと思うんだけどな」

微笑み、そう言った蒼は響山に訝しげに見つめられ、肩を竦めた。

「それに、知っている、じゃなくて、知られている。って言われたように、僕の知人はそんなに多くないよ」

蒼が指摘した事により自分の失言に気付いたのか、響山は珍しくも小さく舌打ちをしていた。
珍しい事もあるものだ。
そう考えながら、大した事でもないかのように、続ける。
これだけは、言っておかなければと謎の使命感から。

「あと、忘れてるみたいだけど。僕が知られてるのって九割方君達が原因だからね?」
「……………は?」

響山の返しに、まさか本当に忘れられているとは。
そう呟き、蒼は、溜息を吐いた。
そうして、続ける。

「特別棟生徒だからって、ゲームで暴れなきゃ意識されないじゃないか。ひっそりと生活しようとしてたのに君の企みによって素晴らしく暴れさせられたから僕は知られる羽目になったわけなのですよ。おかげで入った時は憐みの目で見てくれてた先生方も今じゃ厄介なヤツだとかそういう感じの目でしかみてくれなくなってるし」

面白そうだからって理由でそれにのった僕も僕だけど。

口には出さず、心内に留めるだけにした蒼は、響山の様子を窺う。

「――――――――悪い」
「え」

今までならそれがどうした。
そう言われるべきところを謝られてしまった蒼は、響山の変わり様に声を出して笑い転げそうになってしまいそうになる衝動を、必死に堪える羽目になってしまった。

「ど、ういう、心境、の、変化?」
「………、」

バツが悪そうな表情を浮かべている響山に、蒼は笑いを堪えながら尋ねた。
答えは、返ってこない。

「―――すごいなぁ」
「藍田?」

彼を此処まで変えることが出来るなんて、一体どんな技を使ったんだろう。
だけどきっと、本人もこうなることなんて、思ってもいなかったはずだ。
そんなことを考えながら、蒼は言った。

「僕の知人を調べて何がどうなるわけでもないと思うけど、調べる調べないはお任せするし、答え合わせはいつでもできるように、しておくね」

笑顔でそう言った蒼は、響山の返事を待たずに、その場を後にした。

2013.06.18
2018.02.25

(結局どこに向かおうとしてたんだっけ?)

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