Their story ≫ 第四幕
迷い道にて遭遇
戯れとも言える会話を、必要最小限のやりとりを交わした後、蒼は、早々に保健室を後にした。
用事がなければ保健室という真っ白な空間に居続けようとは思わない。
最も、蒼がそう思っていることを知っている者は少ない。
このまま特別棟に戻ろうかそれとも何か別のことをしようか。別のことと言っても、しなければならないことは決まっている。ただ、今日は気が進まなかった。気分で自分の行動をどうにでもしてしまう蒼は、今後の方針を靴占いにかけてみようと、そんなことを思った。
(表が出たら、今日行く。裏が出たら、後日。右側が上になったらからかいに行く。左側が上になったら別の人をからかう)
これで行こうと決めた蒼は、靴を脱ぎ放り投げようとしたところで、人の気配を感じた。次いで、聞こえてきたのは教室で聞きなれている声だった。
「―――――――藍田?」
さも今気付きました。
そう言うかのように振り向き、その先にいた響山に向かい、若干驚いた表情を向け、蒼は言った。
「あれ。委員長だ。最近雪城君に会いにいってないという噂の委員長じゃないですか」
からかい口調で言えば、どこか疲れた様子で、それでも恨みがましい視線で響山に見つめられ、蒼は苦笑を浮かべた。
「らしくないね、響山」
「――――――自分でもそう思う」
これまでの彼からは考えられない表情を浮かべていた彼に言えば、自覚症状はあったらく、苦笑が返される。
対して、蒼も苦笑を返しながら、応じた。
「なんだ。自覚あったんだ」
笑いながら言った蒼は、彼の言葉に息をのむ。
「まだ委員長でいたいからな」
そう、真顔で答えられ、出てきた言葉は、間抜けなものだった。
「だから雪城君断ちしてんの?」
「………おまえ…まあ、そう、なんだけど」
「なるほど」
それ、逆効果だと思うんだけどな。とは、言わず。
蒼はただ、響山を見つめた。
「――――――何、藍田」
「なーんでもないよ」
最近、嘘を吐くすれすれの、危険なラインに立っていることが多いことを憂いながら、蒼はそう返した。
2013.06.16
2018.02.24