Their story ≫ 第四幕
保健室にて密会 其ノ二
ほんとに好きなんだな、櫻坂のこと。
独り言にも受け取れるその声は蒼の耳にしっかりと届いた。
よくわからないと言いそうになるのを堪えて、蒼は笑った。
「あの家の人たちのことは、みぃんな好きですけどねー」
紅さんは共犯者だから、特別。
笑いながら言った蒼を直視した早渡は、藍田の甘ったるい笑みは気持ちが悪い。そんな事を思ってしまっていたものの、蒼には気付かれないように表情を取り繕っていた。
蒼は先程までとは異なる笑みを浮かべ、早渡に言う。
「ところでせんせ」
「――――――なんだ」
「最近彼、此処に押しかけてくること、なくなりました、よね」
疑問形ではなく、断定。
彼というのが誰を指すのかを察した早渡は、その言葉に頷いた。
「クラス委員長たちは一体何をしたんだ」
次いで、不思議そうに尋ねられた蒼は、何かをしたからそうなったのでしょうとは答えずに、曖昧に笑った。
早渡は、声色と同様、微妙な表情を浮かべている。
「おい」
「わからないです。だって僕、直接関わってはいないし」
その辺はいいんちょが調整してたことだから、詳細は分からない。けど、予測ならできます。それでもいいなら、聞きます?
蒼の言葉に、早渡は頷いた。
好奇心が勝っての頷きであることに気付きながら、蒼は言う。
「自分のことを一番に気にしてほしい天城君にとって誰からも相手にされないことは嫌なことで認めたくないことだから躍起になって相手にしてもらおうと頑張ってしまう。けど、逆に誰からも適度に相手にされたら?美形も親衛隊も何もかも関係なく、誰も彼もが天城君に対して過剰反応するでもなく、無反応になるわけでもなくなったら?そうしたらきっと、関係ない普通の人たちは巻き込まれることはなくなる。少なくとも、天城君の『友達になってやる!』の、枠に当てはまらなくなる。だって、わざわざ天城君から関わらなくても、向こうから関わってきてくれるのだから」
「――――――――――、藍田お前、」
「これはあくまで予測です。実際の所どうなのかは知りません」
っていうか、分からないですよね。見てないわけですから。やろうとして本当にできるのかどうか、って問題もありますし。
そう続けて、蒼は笑んだ。
そしてまた、続ける。
「だけど。いいんちょが各クラス委員長を集めてうまく言いくるめて対策を講じたのは、まず間違いないしその結果、おこぼれ的に此処も平和になったってことだと思います」
何かを言われる前にそう返した藍田は、座っている椅子が回転椅子であるのをいいことに、くるくると、まわる。
「で?」
「で?」
何かを言おうとした早渡に同じ言葉を返した蒼は、諦めた様子で息を吐いた彼を見て、幸せ、逃げちゃいますよと言い、笑った。
2013.06.15
2018.02.18