Their story | ナノ


Their story ≫ 第四幕

教室にて自習

なんか知らないけど最近よく溝口に謝られるんだけど、なんでだと思う?

七草に尋ねた蒼は、なんでだろうねぇと答えられ、そうなるよねぇと返し、へらりと笑った。

「なーんかさ、もう、あらかた終わっちゃってるじゃんね」
「ゲームのことぉ?」
「そうそう。鼓浦君は今日も追っかけられてるみたいだし?」
「だねぇ」

二人を取り巻いている空気はほわほわとしていたものの、話題に出されている人物は確実に、そろそろ本気で相手を殺すしかないと思い始めている頃だろう。

「―――――ころそっか?」

唐突に聞きえてきた声の方向を見れば、窓から仮名崎晶が教室内へ入ってきているところだった。

「仮名崎君は物騒だなーあははー」

聞かれた蒼は、同じように笑いながらそう返した。

「ちょっとテンションが元に戻らなくてさぁ」

いやあ、うるさいやつらは黙らすに限るね。あ、もちろん殺してはいないんだけどさ。ちょっとおねんねしてもらったってだけの話で。

仮名崎も、もしかしたら疲れているのかもしれない。
そんな事を思いながら、蒼は言った。

「きぃちゃん」
「あいさー」

名前を呼んだだけだったにも関わらず、心得たとばかりに、七草はどこからか緑色の液体が入った瓶を取り出し、仮名崎の口に放りこんだ。

「んぐっ?!」

勢いよく(スコン、という音すら発して)仮名崎の口内へ吸い込まれていった様子を見て、おー。と、言いながら蒼がパチパチと手を叩けば、泡こそ吹かなかったものの、仮名崎は床に倒れた。

「毎回お役立ちだねぇ」
「そうだねぇ」

言いながら蒼は、仮名崎の口から瓶を取り出し、七草へと渡す。
前回あんま効かなかった気がしたから強めに作っておいたんだけどぉ、強すぎたかなぁ。
そう呟いている彼に向かい、起きたら聞いてみればいいじゃん。と、蒼は言い、仮名崎の頬をぺちぺちと、叩いた。
仮名崎の目は、閉じたままだった。

「お疲れだね保健室に連れて行こう保健室で休めばよくなるよ体調も」

清々しいほどに棒読みでそう言った蒼は、薄ら笑いすら浮かべながら仮名崎の右足を持った。
今現在は授業時間内であるはずなのだが、教壇に教師は立っていない。
いつもと言えばいつものことであるため、気にすることもなく、それでも各自、自習をしている。
同じ教室内にいて一連の様子を見ていなかった者はおらず、一部に良い笑顔で親指を立てられたために、空いている方の手で同様に親指を立て笑みを返した蒼は、そのまま教室を後にする。
仮名崎の右足を引きずりながら保健室へと足を進めようとしたものの、きっと頭を打ち付ける彼のことをかわいそうだと思い直し、丁寧な運び方に変えた。

(昨日のわかめうどん美味しかったなぁ)

そんなことを考えながら、廊下を進む。
そう言えばもうすぐで期末試験だ。だからみんな、自習をちゃんとやっているのかと一人、蒼は納得しながら、辿り着いた保健室の扉を開けた。

2013.06.12
2018.02.15


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