Their story ≫ 第四幕
廊下にて茶番
なんだかいろいろと疲れたから部屋に戻ろうと考えた蒼は、手を放してくれない鼓浦がついてくることも気にせずに廊下を進んでいた。
「蒼ちゃんっ!?ついに…!!?」
不意に聞こえてきたその言葉を聞いた瞬間、良い笑顔を浮かべながら、蒼は回し蹴りを声の主に喰らわした。
呻いた後これでほんとにくっついてくれたらマジ本望…ッ!
そう言っている溝口を見て、追い打ちをかけるように、蒼は言う。
「―――そろそろマジで君のペラい本、燃やすよ?」
その一言の効果は絶大だったらしい。
息絶え絶えになりながらも溝口は起き上がり、廊下であるにも関わらず、その場で土下座した。
された側である蒼は割と常の事であるために気にならなかったが、隣にいた鼓浦は一瞬、驚いているようだった。
その拍子に自由になった手を空いていた方の手でさすりながら、蒼は学習能力がないよね、みぞぐっちゃん。と、呆れて言った。
「…………蒼たんって冷たいと思わない?つづみん」
ねぇ?
起き上がって、そう同意を求めた溝口に対して、鼓浦は顔を逸らした。
「……………」
無言で顔を逸らした鼓浦を見た蒼は、苦笑する。
「引かれてる、引かれてるって。溝口」
「やだー!おれと蒼たんの仲じゃない!どうしてそんな他人行gぶふぉおっ」
「うん、もうほんと君、顔が、酷い」
蒼が言った通り、鼓浦は割と本気で引いていたのだが、溝口がそれに気付くことはない。ただでさえ騒がしくしているのが常である溝口の今日の顔は、いつもに増して気持ち悪いものになっていた。
そのために耐えきれなかった蒼は溝口の顔が見えないようにひどいことをしているという自覚は持ちながらも、溝口の顔を壁に押し付けた。
「――――――蒼」
「止めるな十夜。ていうか早く部屋に戻そうそうしよう」
そう言い放った蒼に、鼓浦は何も言うことが出来ず、溝口はどこか嬉しそうにしていた。変態と通りすがりの人達どころか、鼓浦にすらそう思われていることなど露知らず、気がすんだのか蒼の手が離れたところで壁から顔を離すことが出来た溝口は、へらりと笑った。
全くと言っていいほど、邪気がなかった為に逆に気持ちが悪いと蒼は思っていたが、それを口に出すようなことはしない。態度に出す出さないは別として。
「今からでも部屋替え申請、遅くねぇかな…遅いか……」
脱力しながら投げやりに言った蒼に、それは酷いよ!!と、溝口が叫んだ。
まるで聞こえていないかのように、彼の言葉には答えず、自室へと向かい足を進めようとした蒼は、鼓浦を見た。
「また明日ね、十夜」
ひらり。と、手を振り、そう言った蒼は、鼓浦の返答を待たずに、溝口の襟首を持って自室に向かって、廊下を進んでいく。
溝口はやっちゃった☆とばかりに笑っていたが、その表情で抗議をしている姿は、傍から見ていてものすごく、異様な光景だった。
2013.06.07
2018.02.08