Their story | ナノ


Their story ≫ 第四幕

道中にて解決

天城の動きが止まり、徐々に顔色が悪くなっていく。
違う、と呟いている天城には生気がない。
この場所にいることも影響しているのかもしれないと、そんなことを思いながら、蒼は静かに天城へと近付き、手を取った。
その行為に道案内以外の感情は含まれていない。にも関わらず、隣から感じたのは、刺すような視線だった。
この際、無視することにした蒼は、天城の手を引く。

(逃げ出したい)

出来る事なら。そんなことを思ったところで、出来ないことは分かっている。
呆然自失状態で誰かの名前を呟いている天城を横目に、溜息を吐いた。

いささかどころかかなり性急に事が進んでいるのは事実であり、それは受験を控えている三年生を思ってのことであると、知っている。
何しろ二週間は様子見と言っておきながら、それほど時を待たずしてゲーム開始の合図をしてしまったのだ。だからと言って、ルールブックに『一時中断』などという言葉は、載っていない。

「――――蒼」
「なにかなぁ?十夜くん」

嗚呼もう本当に、何もかもが面倒だ。この子一人だけ、誰にも知れずに壊すことが出来たらそれで、それだけで良かったというのに。

内心物騒なことを思っていた蒼は、鼓浦から声がかかったために、彼を見上げれた。
顔を顰めている鼓浦が、何を考えているのかは、分からない。
ふい、と、視線を逸らされた蒼は、彼の視線の先を追った。
その先には、生徒会役員の姿があった。
きっと、姿が見えなくなってしまった天城のことを、探しに来たのだろう。
これ幸いとばかりに、蒼は微笑んだ。

「輝!」

何処に行っていたのですか!
そう言われた天城の瞳に、光が戻った。何処に行ってたっていいだろ!そう大きな声で言う天城の姿からは、先程までの鬱々とした雰囲気はなかった。

「輝?」

天城を呼んだ柳刃は、いつもと様子が違うことを察したのか、彼の腕を引き、自分の側へ近付けた。
両手を上げ、何もしてないとアピールする蒼に対し、柳刃は、険しい表情を浮かべていた。
鋭い視線のまま、柳刃が口を開く。
天城は、珍しいことに、非常に静かだった。

「あなたたち」

下手な思い違いをされていてはさすがに困るため、蒼は柳刃が考える様に口を閉じた瞬間、口を開いた。

「勘違いしないで。ただ、その子が特別棟の近くで迷子になってたみたいだったから、問題が起きる前に元の場所に戻ってもらおうとしただけ。親衛隊みたいに痛めつけるなんてこと、するわけがないよ。だって、面倒でしょう?」

悪意も何もない、ただの善意だよ、善意。

その言葉に、目の前からだけではなく、鼓浦からも溜息をもらった蒼は、心外だと言わんばかりに、鼓浦のことをねめつけた。

「そういうことに、しておきます」

柳刃は、何かを諦めているかのように、す言った。そのまま、一言も発さずに天城は柳刃に連れられ、その場からいなくなる。
柳刃は柳刃で、その後は一度も、蒼と鼓浦を振り返ることもなかった。

「―――――――本題忘れてくれて助かった」
「本題?」

思わず、呟いてしまっていた蒼に、鼓浦が問う。

「ああ、うん。特別棟の生徒と一般棟の生徒を一緒に学ばせよう的な…」
「―――んだそれ」

不機嫌そうに、器用にも片方の眉だけを上げ、そう言った鼓浦を見て、蒼はへにゃり。と、笑った。

「困る」

ややあってそう言った鼓浦に、そう言うと思った。そう、返した蒼は、ところで先程の生徒会役員色のタイをつけた彼は、誰だっただろうかと考えた。
考えてみたところで思い出すことが出来なかった為、鼓浦に尋ねるしかないと思い、唐突な話題変換であることも気にせず、口を開く。

「ところで、十夜」
「―――んだよ」
「さっきの人、誰だったのかな?」

役員のタイはついてたから、なんらかの役職にはついてると思うのだけど。

「………………副会長。柳刃唯」
「ああー!副会長か!」

呆れたような視線で見られていたものの、蒼にしてみれば然したる問題でもなく。会ってからずっと考えてたんだけど思い出せなくってさ。すっきりした。ありがと、十夜。と、笑った。
そんな会話がなされていたことなど、もちろん柳刃が知るはずもなく。
笑いながら御礼を言った蒼は、ふと、自分の手に視線を移し、いつの間にか、繋がれていた、そのままの手を、どうやって解こうかとそんなことを、思った。

2013.06.06
2018.02.06


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