Their story ≫ 第四幕
道中にて迷子 其ノ二
質問に答えない天城を見たところで、蒼は特に態度を変えなかった。
今のところおとなしくはしているものの、神山との一件もあり、鼓浦が自分で自分を制することができなくなれば、今の状況は一気に悪い方向へと転がり落ちる。
そうなる前に、どうにかして天城にはこの場所からいなくなってもらわなければならない。
(めんどくさい…でも仕方ない…)
そんなことを思いながら、蒼は口を開く。
「寮か、教育棟か、実習棟。どこに行きたいの」
「!!!」
そう尋ねた途端、顔を輝かせた天城は特別棟に行こうと思ってたんだ!と、勢いよく言った。
その瞬間、殺気を孕んだ瞳で天城を見つめ、動き出そうとしていた鼓浦を、蒼は視線のみで、黙らせた。
「なぁ、どっちに行けば行けるんだ?!」
「おまえには無理」
天城の言葉に蒼が答える前に、鼓浦が温度のない声で言い放った。
一瞬で赤く染まった天城の顔を見ながら、どうしたものかと思いながら眺めていれば、会話になっているのかなっていないのかよく分からないやりとりが始まっていた。
「なっ無理ってなんだよ!!」
「無理だから、無理」
「お、おれはただ!同じ生徒なのに違う場所にいるのはおかしいと思って!だからっ」
「――――――馬鹿?」
「ば、馬鹿って言う方が馬鹿なんだぞ!!?」
このままでは話が進まないと考えた蒼は、天城ではなく鼓浦の名を呼んだ。
「十夜」
「……………チッ」
「舌打ち?舌打ちですか…そうですか……何気に君に舌打ちされるのって初めてな気がするよ……」
「――――わり」
地味に舌打ちをされたことがショックだった蒼がそう言えば、鼓浦はすぐに謝罪する。
気心知れた相手には素直なのだろうと、蒼はそう思いながら、彼に返した。
「や、別にそれはいいんだけど。いいけどちょっと突っ込みたくなっちゃったっていうか、うん」
天城くん、君、あそこには行かない方がいいと思うなあ。
自分がそう言うことで、どんな返しがくるのか分かってはいたものの、蒼はそう告げた。
2013.05.13
2018.02.03