Their story ≫ 第四幕
道中にて迷子
何してるって?
尋ねられた内容をさも不思議だと思っているかのような、そんな表情を浮かべながら蒼は尋ねた。
最も、天城にどの程度まで見えているかについては、分からなかった。
「おおお男同士で!!!なんで抱き合って…っ!?」
「おー。一般論だ」
まさか君からそんな言葉が飛び出してくるなんて。
ほぼ棒読み状態でそう言い放った蒼に、天城は顔を赤く染めた。
流石にこの状況で先程までの体勢でい続けることはよくないということに気付いたのか、鼓浦の拘束力が弱まった。
これ幸いとばかりに、蒼は鼓浦から離れ、にこり。と、笑った。
何にしても、鼓浦が我にかえってくれたのならばありがたい。
別の意味で動きを止めてしまったと思わしき鼓浦は放置し、天城に向き直った蒼は、少しばかり首を傾げて問いかけた。
「迷子?」
「迷子じゃない!!」
一般棟の生徒が滅多に訪れない場所に来ている場合、理由として挙げられるのは二通りある。
一つ、迷った場合。
一つ、ろくでもないことをしようとしている場合。ただし、その場合は複数人いることが通常であるため、天城に関してこの線はないと言えるだろう。
「迷ったんだよね?」
「ま、迷ってない!!!」
「迷ってたんだろ?」
「う、………っ、ま、迷って、なん、か…っ」
ああ、これはまた泣き叫ばれてしまうパターンだろうか。それはそれで面倒だと思った蒼は、まあいいや。君が迷ったんでもそうじゃなくっても。と、自分で振ったにも関わらず、会話を打ち切った。
「お、お前」
「誰から?」
「え…っ?」
「ああ、違うか。何から、逃げてきたのかな、君は」
天城は口を開けたり閉じたりを繰り返している。
鼓浦がどうしているかを思い、彼がいた方向を蒼が見れば、何故か彼自身の腕を嗅いでいた。
「な、…ぁ、」
「見たくないものもちゃんと見ないと、なくなっちゃうよ?」
「違う、俺…っ、なんで…」
「…………」
呟いている天城を見て、ところどころしか言葉を聞き取ることができないと思いながら、蒼は息を吐いた。
このまま、この場所に居続けることは天城にとってはあまり良くない事だと結論付け、彼を見る。
俯いている天城がどんな表情をしているのかは、分からない。
「……蒼」
鼓浦に何かを咎めるかのように名を呼ばれた蒼は、渋々、口を開いた。
2013.05.09
2018.02.02