Their story ≫ 第四幕
道中にて雑然
七草と鼓浦がいなかったとしても、授業はいつも通り、行われる。
「なにか、あったのか?」
「どうかなあ。っていうか、別に、授業に出ないとか、普通じゃない?」
響山の問いかけに蒼は答え、笑った。
特別棟に隔離されている生徒の授業への出席率は、高いとは言えない。
最も、七草と鼓浦に関しては、授業に出ていないことのほうが珍しいため、響山も尋ねて来たのだろう。
それでも、何故、自分に訊いてきたのだろうかと、蒼は思った。
「いいんちょ」
きっと、彼自身は気付いていないであろう変化を、蒼は指摘する。
「ほかの人のこと気にするなんて、」
どうしちゃったの?
その言葉に、響山は言葉を失った。
+++響山を黙らせることに成功した蒼は、教室から寮へ向かい、鼻歌混じりで道を歩いていた。
―――――見つけた。
突然かけられた声に蒼は振り向き、言葉を失う。
こうなる事も予測できていたはずであるにも関わらず、即座に反応できなかったあたり、鈍っているのかもしれない。
冷静にそんなことを考えながら、揺れる相手の瞳を見た。
体は、宙に浮いている。
(あーあ)
君が壊れたらダメじゃんか。
そんなことを思いながら、昏い双眸見上げ、微笑んだ。
思いの他、鼓浦は精神を消耗していたらしい。
捕まえられてしまった蒼は、襟元が苦しいと思いながらもそれを気にせず、彼に手を伸ばすと包み込むかのようにその頬に、触れた。
「十夜」
人目がない場所ではあるものの、もしもの場合もある。
この場所から移動することが先決だろうと考えながら、蒼は鼓浦を呼んだ。
こんな状態になってしまうことがあるという事を、恐らく、七草は知っていたはずだ。
こうなってしまった彼を抑えるために、七草は鼓浦の同室にされている。
任された役目を放棄しているわけではないはずだ。
とはいえ、そういえない現実が、蒼の目の前にあった。
七草が来るまで待つ。という手もあるものの、それまで自分を持たすのはひどく、面倒だと思った蒼は、七草のようにスマートにはいかないだろうと知りながらも、彼を、呼んだ。
「とおやくん」
此処で強制的に呼び戻したところで、その後が大変になることは分かり切っている。
鼓浦が気を失えてしまった場合、彼の部屋まで送り届けるような事態になる事だけは、なんとしても避けたいと考えていた蒼は、若干苦しいと思いながらもそんな様子を見せず、鼓浦を見つめた。
「鼓浦くーん」
「………………」
「オイコラ鼓浦十夜」
なんだかな。
そう思いながらも、とりあえずこの状態から逃れるにはどうすればいいかを考えた結果、一瞬生じた隙をついて、蒼は鼓浦に抱き着いた。
「―――――――ッ?!」
「うわわ、とーやくん何か零した?すっげー甘匂いする…」
「!?お、おおおお、おまえらなにしてんだよ?!」
何故最悪のタイミングを見計らったかのようにこの場所に現れるんだろうか。そんなことを思いながら、蒼は鼓浦に抱き着いたまま横目で大声を出した天城を一瞥した。
2013.04.26
2018.02.01