Their story ≫ 第四幕
道中にて逢瀬 其ノ二
それにしても。入れ替わっている時って、勘も鈍ってるのかな。
蒼は呟きながら、勢いよくすぐそばの壁を叩いた。
三草は、きっと自分の言葉に納得はしていないだろう。
疑ってすらいるかもしれない。
疑われていたところで、現時点ではクラスメイト以上でも以下でもない。
というか、好意を持っているというのならその人の気配に気付くくらいしなければ、七草は見向きもしないのではないだろうか。
そんなことを考えながら、壁が反転するまで、三草が去って行った方向を眺めた。
壁が反転したか瞬間に、いつもはしないはずの鈍い音が聞こえると同時に、堪えきれなかったのか呻き声も聞こえてきた。
その姿が誰であるかを一応確認をした蒼は、口を開いた。
「盗み聞きの趣味があったんだね…きぃちゃん…」
自分が一体どのような視線を彼に向けているのか、情けなくも眉尻を下げている七草を見て笑いそうになりながら、彼の言葉を、蒼は待った。
「偶然、だよぉ」
「だろうね」
蒼は言い、七草を見上げる。
先程とは違った意味で困惑気味の七草を見た蒼は、口元を緩めた。
蒼ちゃん…それは、反則。
そう呟いた七草の言葉は聞こえていない振りをした。
「蒼ちゃん」
「ん?」
いつになく真剣な声で呼ばれ、蒼は七草を見つめる。
淡い笑みを浮かべながら、七草は言った。
「おれねぇ、蒼ちゃんが考えてる程、三草のこと大切に思ってないよぉ」
「―――――うん」
予測出来ていた言葉に、それでも蒼は、頷いた。
「それだけぇ」
「―――――うん」
未だ先があるだろうと身構えていた蒼は、拍子抜けしたかのようにきょとん。とした表情を浮かべながらも、返事をした。
「そっか」
壁から出てきた七草と入れ替わるように蒼は壁の中へ入り、壁を反転させる。
壁の向こう側で、七草がどんな表情を浮かべていたのかについては、考えないことにした。
2013.03.08
2018.01.26